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11話 アルケミストの長い1日
02.油断は命取り
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魔力増幅装置、とまでは行かないが現在使っているロッドも似たような構造になっている。これを元に魔力を逃がさない為のドームを生成し、乱反射の原理で一時的に魔力を増幅させるアイテムを作ろう。
――と、そう思って作業を始めたのが1時間前。
そして今、何となく形になったそれに値段を付けるなら幾らくらいなのかを考えつつ、新しい作業に取り掛かっている。
後に取っておいた簡単な方の作業、装飾品の解体。こんなもの業者に頼めと思ったが、仕事は仕事だ。
預かっている小箱を開け、中身を確かめる。
大きなアメジストのあしらわれた、金のリング。装飾品と言うより、マジック・アイテムだ。成る程、簡単には金属と宝石を分離出来ないようになっているのか。
納得し、ローブから専用の工具を取り出す。梃子の原理で金具を外したりするアイテムだ。なお、この道具に関しては本当にただの道具である。
マジック・アイテムの核となっている宝石の中を覗き込む。
小さな小さな魔法式がびっしりと中に描かれているのが見て取れた。かなり精巧だ。自分のような錬金術師ではなく魔術師が編んだような術式と言える。
「ふーん。何の効果がある術式だったんだろ……」
未だに金の輝きを放つ術式は何故か起動しているのだが、何に対して反応しているのか不明瞭だ。とはいえ、取り外しするので効果は打ち消す事になってしまうが。
勿体ないと思いつつも、術式を洗い流す為に錬金釜の中へ指輪を入れる。小さな穴の開いた箱に入れ、紐で釣りながら、その中へ更に指示液を投入。たっぷり5分程待ってからそれを取り出す。
「うん、完璧」
打ち消された術式は跡形も無くなり、アメジストはただの宝石へと戻った。それを満足げに見下ろしたメイヴィスは、先程用意した工具を装備する。ここからは普通の宝石とリングの切り離し作業である。
依頼人はアメジストにしか興味が無いようなので、宝石の方に傷を付けたら最悪クレームを入れてくるに違いない。気を付けなければ。
幸い、これなら恐らく自分でも外せる。ド素人ではないし、自分でもよくやる作業だ。
そう言い聞かせながら慎重に留め具を梃子の原理で外していく。気分的にはホッチキスの芯を伸ばしているような感覚だ。
全ての留め具を外し、最後。土台部分を取り外そうと指輪を固定し、逆手に握りしめた工具に力を込めた瞬間だった。不意に工房のドアがノックされたような音が聞こえる。
「ぎゃっ!?」
意識が背後に逸れた途端、力の込め方を謝り、リングの土台を固定していた手をざっくりと切ってしまった。手の平に真っ赤な傷が痛々しく口をぱっくりと開けている。一拍おいて傷口から真っ赤な血が滲み、作業台に鮮血がポタポタと零れ始めた。
くらりと目眩がする。
慌てて無傷の手でローブの中を探るも、利き手ではない上、治癒用のアイテムが見つけられない。数分探したが見つからなかったので、丁度切らしていたのだろう。普通の病院に行って処置して貰うなり、店へ戻って救急箱を借りるなりしなければ。
一向に止まりそうに無い血液に再び目眩を覚えながら、工房を後にする。
***
1階へ戻ってみると既にアロイスが戻って来ていた。例の椅子に座り、客の流れをぼんやりと見つめている。
声を掛ける前に、アロイスがメイヴィスの存在に気付いた。そして眉根を寄せる。
「それはどうした?」
驚いたように椅子から勢いよく立ち上がった騎士サマから怪我した腕を心臓から上へと持って行かれる。手首を掴んでいる彼の手に血の赤が移った。
「こ、工具を使っていたら……うっかり」
「怪我を治せるようなマジック・アイテムは無いのか?」
「すいません、丁度切らしていて……」
「ユリアナ!」
聞くや否や、アロイスは接客していた店長ユリアナを呼んだ。こちらへ気付いた驚いたのかたったった、と走ってくる。
「わぁ~!? メヴィちゃん、その怪我どうしたんですか~」
「あっ、いや、うっかり工具で――」
「すまないが、何か怪我を癒やせるアイテムは無いだろうか。買おう」
急いでいるのか、かなり強引に遮られた。一方で全くペースを崩さないユリアナは「分かりました~」、とあっさり応じ、棚から塗り薬を持ってくる。
「これ、前にメヴィちゃんが作った奴ですよ~。お代は良いので~、ちゃんと手当しましょうね」
塗り薬を押しつけたユリアナが今度は店の奥へと入って行く。
確かに、この塗り薬では怪我を完全に治す事は出来ない。流れ続けている血を止め、回復を促す薬だからだ。
それを手の平へ塗り込んでいると、救急箱を持って来たユリアナが加わった。慣れた手付きで包帯を巻いていく。
「よ~し、出来たわよぉ。後は安静にね~」
――と、そう思って作業を始めたのが1時間前。
そして今、何となく形になったそれに値段を付けるなら幾らくらいなのかを考えつつ、新しい作業に取り掛かっている。
後に取っておいた簡単な方の作業、装飾品の解体。こんなもの業者に頼めと思ったが、仕事は仕事だ。
預かっている小箱を開け、中身を確かめる。
大きなアメジストのあしらわれた、金のリング。装飾品と言うより、マジック・アイテムだ。成る程、簡単には金属と宝石を分離出来ないようになっているのか。
納得し、ローブから専用の工具を取り出す。梃子の原理で金具を外したりするアイテムだ。なお、この道具に関しては本当にただの道具である。
マジック・アイテムの核となっている宝石の中を覗き込む。
小さな小さな魔法式がびっしりと中に描かれているのが見て取れた。かなり精巧だ。自分のような錬金術師ではなく魔術師が編んだような術式と言える。
「ふーん。何の効果がある術式だったんだろ……」
未だに金の輝きを放つ術式は何故か起動しているのだが、何に対して反応しているのか不明瞭だ。とはいえ、取り外しするので効果は打ち消す事になってしまうが。
勿体ないと思いつつも、術式を洗い流す為に錬金釜の中へ指輪を入れる。小さな穴の開いた箱に入れ、紐で釣りながら、その中へ更に指示液を投入。たっぷり5分程待ってからそれを取り出す。
「うん、完璧」
打ち消された術式は跡形も無くなり、アメジストはただの宝石へと戻った。それを満足げに見下ろしたメイヴィスは、先程用意した工具を装備する。ここからは普通の宝石とリングの切り離し作業である。
依頼人はアメジストにしか興味が無いようなので、宝石の方に傷を付けたら最悪クレームを入れてくるに違いない。気を付けなければ。
幸い、これなら恐らく自分でも外せる。ド素人ではないし、自分でもよくやる作業だ。
そう言い聞かせながら慎重に留め具を梃子の原理で外していく。気分的にはホッチキスの芯を伸ばしているような感覚だ。
全ての留め具を外し、最後。土台部分を取り外そうと指輪を固定し、逆手に握りしめた工具に力を込めた瞬間だった。不意に工房のドアがノックされたような音が聞こえる。
「ぎゃっ!?」
意識が背後に逸れた途端、力の込め方を謝り、リングの土台を固定していた手をざっくりと切ってしまった。手の平に真っ赤な傷が痛々しく口をぱっくりと開けている。一拍おいて傷口から真っ赤な血が滲み、作業台に鮮血がポタポタと零れ始めた。
くらりと目眩がする。
慌てて無傷の手でローブの中を探るも、利き手ではない上、治癒用のアイテムが見つけられない。数分探したが見つからなかったので、丁度切らしていたのだろう。普通の病院に行って処置して貰うなり、店へ戻って救急箱を借りるなりしなければ。
一向に止まりそうに無い血液に再び目眩を覚えながら、工房を後にする。
***
1階へ戻ってみると既にアロイスが戻って来ていた。例の椅子に座り、客の流れをぼんやりと見つめている。
声を掛ける前に、アロイスがメイヴィスの存在に気付いた。そして眉根を寄せる。
「それはどうした?」
驚いたように椅子から勢いよく立ち上がった騎士サマから怪我した腕を心臓から上へと持って行かれる。手首を掴んでいる彼の手に血の赤が移った。
「こ、工具を使っていたら……うっかり」
「怪我を治せるようなマジック・アイテムは無いのか?」
「すいません、丁度切らしていて……」
「ユリアナ!」
聞くや否や、アロイスは接客していた店長ユリアナを呼んだ。こちらへ気付いた驚いたのかたったった、と走ってくる。
「わぁ~!? メヴィちゃん、その怪我どうしたんですか~」
「あっ、いや、うっかり工具で――」
「すまないが、何か怪我を癒やせるアイテムは無いだろうか。買おう」
急いでいるのか、かなり強引に遮られた。一方で全くペースを崩さないユリアナは「分かりました~」、とあっさり応じ、棚から塗り薬を持ってくる。
「これ、前にメヴィちゃんが作った奴ですよ~。お代は良いので~、ちゃんと手当しましょうね」
塗り薬を押しつけたユリアナが今度は店の奥へと入って行く。
確かに、この塗り薬では怪我を完全に治す事は出来ない。流れ続けている血を止め、回復を促す薬だからだ。
それを手の平へ塗り込んでいると、救急箱を持って来たユリアナが加わった。慣れた手付きで包帯を巻いていく。
「よ~し、出来たわよぉ。後は安静にね~」
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