107 / 139
11話 アルケミストの長い1日
04.女性間に存在する暗黙のルール
しおりを挟む
「うわあ、これは良質ですね」
4個目にアロイスが持って来た魔石は実に上質な、綺麗な七色をしたそれだった。大きさも大きすぎず、されど内包する魔力量はその辺の魔石より飛び抜けている。ずっしりとした重さが伝わって来て、メイヴィスは笑みを浮かべた。
「これならもう1つくらい制限に引っかからなさそうです」
「そうか、では――」
もう少し探してみるか、と続くはずだったアロイスの声はしかし、絹を裂くような女の悲鳴によってかき消された。
ぴたりと動きを止めた騎士が、先程までの長閑さとは似ても似つかない表情で悲鳴が上がった方を見る。次ははっきりと、周囲の人間に危険を促す具体的な言葉が聞こえてきた。
「山賊よ!! みんな逃げて!!」
確かにこんなにも金になる大地、そうそうはない。山賊という生業の連中が好みそうな場所だ。しかも、大して強くないであろう観光客も集まっていてまさに集金所のような体を成している。
更に、既に大剣に手を掛けたアロイスは声がした方へと走り出した。
「あっ、アロイスさん待ってください!」
人助けは良いことだが、ここで置いて行かれるとメイヴィス自身が盗賊にカモられてしまう事は必至。慌てて走り、足の速すぎる騎士サマを追う。なんでこんなに汗だくになっているのだろうか、と一瞬だけ考えたが無駄なので止めた。
程なくして、現場に辿り着く。
何だかチンピラの典型のような格好をし、下品な笑みを浮かべ、取り残された観光客を脅す山賊の姿だ。最近は神魔物だったり、明らかに人間じゃない人達の相手ばかりをしていたので酷くチープな悪役に見える。何というか、迫力が足りない。
少し前なら山賊相手でも震え上がっていたはずだが、不思議と恐怖という感情が欠片も湧いて来ないのだ。
「すまない、メヴィ。放っておく事は出来ないから、片付けて来る」
「あ、ここで待ってます」
「ああ。特に手伝いは必要ない、待機していてくれ」
言うが早いか、アロイスはその足を山賊3人組へと向けた。
そんな事にも気付かず、哀れな山賊は一塊になっている女性観光客2人を相手に管を巻いていた。
「おう、良いもん着てんじゃねぇか。お前それ、リアシカのコートじゃん? 古着でも1枚云万で売れるんだよなあ。俺のコートと交換しねぇ?」
「えっ、その汗臭そうな上着と? 絶対に嫌なんですけど!!」
「そ、そこまで言う事無いじゃーん、傷つくわ。慰謝料請求させろ、慰謝料」
――こ、小物臭が凄い……!!
何故、山賊家業をしていながら、こうも町中で見かけるチンピラみたいな台詞を吐けるのか。もっとワイルドに攻めろ、ワイルドに。
何でこんな奴らに魔石採集の邪魔をされなきゃいけないんだ、という見当違いの怒りさえわき上がってくるようだ。
そこへアロイスが遠慮容赦なく突っ込んで行った。こんな事に元・王属騎士の彼を使用していいのか不明だが、一つ言える事があるとすれば山賊のお三方は随分と運が悪いという事だろう。どうしてこのタイミングで山賊家業に精を出してしまったのか。
哀れみさえ感じていると、ひらりと出現したアロイスが問答無用で山賊の一人を切り伏せた。一拍おいて上がる悲鳴。
それすらも意に介さず、アロイスは残り二人も瞬殺した。速すぎて何が起きたのか、全く見えなかった。
「無事か」
アロイスが観光客2人の安否を確認する――と、上がる黄色い悲鳴。
「あ、ありがとうございますぅ! わ、わたし達、観光でヴァレンディアに来てて~、えぇっと、急にあの人達に……。本当にありがとうございました!」
「お兄さん、とっても格好良かったですよ! ヴァレンディアの人?」
ぐいぐいと迫ってくる女性2人に、アロイスは困惑している。止めに入るべきか考えて、明らかに「女の子とのお喋りを邪魔しに来た連れ」という図になってしまう事に気がついた。往々にして、女の些細な機微というのは難しいものなのだ。
「ああいや、俺は別にヴァレンディア出身では――」
「そうなんですか!? あなたも観光? 私達と一緒ですね! あ、そうだ、一緒に魔石採掘場見て回りましょうよ。私達も、山賊騒動であまりちゃんと観れてないんです!」
「悪いな、連れが居る」
「じゃあ、その人もご一緒にどうですか?」
「いや、そういう訳には――」
分かりやすく絡まれている。しかも、助けを求めるようにアロイスがこちらを見ているのにも気がついてはいる。
だが、ここで一度冷静になって彼にも考えて貰いたい。メイヴィス・イルドレシアが『男性』ならばまだしも、自分は見た目も性別も完全に女。今ここで、アロイスをお持ち帰りしようとしているお姉様方の間に入ってみろ。謂われの無い暴言を吐かれる未来が見えるかのようだ。
しかし、だからといってこのままアロイスをはいどうぞと明け渡す訳にもいかない。彼がいないと、何も出来ないからだ。
仲裁を決意したメイヴィスは、静かにアロイスの元へと歩を進めた。気分はそう、お伽噺の勇者が魔物の四天王と戦うシーンのような臨場感に溢れている。
「アロイスさーん、そろそろ行きませんか?」
「あ、ああ。そういう訳だ、こちらは遊んでいる訳ではないからな、残念だが観光には付き合えない」
早口でそう言ったアロイスが、もう声を掛けてくるなと言わんばかりに女性達に背を向ける。彼はそれで良かったかもしれないが、対峙しているメイヴィスには彼女たちがはっきりとこちらを見て、呟いた言葉までしっかりとその耳で拾った。
「何よ、子供じゃない。お守りさせられてかわいそー」
――だから嫌だって言ったのに!!
ぶつけようのないモヤモヤした感情を、メイヴィスは溜息と共に吐き出した。仕方が無い事とはいえ、何故見ず知らずの人間に暴言を吐かれなきゃいけないのか。山賊より余程質が悪い。
4個目にアロイスが持って来た魔石は実に上質な、綺麗な七色をしたそれだった。大きさも大きすぎず、されど内包する魔力量はその辺の魔石より飛び抜けている。ずっしりとした重さが伝わって来て、メイヴィスは笑みを浮かべた。
「これならもう1つくらい制限に引っかからなさそうです」
「そうか、では――」
もう少し探してみるか、と続くはずだったアロイスの声はしかし、絹を裂くような女の悲鳴によってかき消された。
ぴたりと動きを止めた騎士が、先程までの長閑さとは似ても似つかない表情で悲鳴が上がった方を見る。次ははっきりと、周囲の人間に危険を促す具体的な言葉が聞こえてきた。
「山賊よ!! みんな逃げて!!」
確かにこんなにも金になる大地、そうそうはない。山賊という生業の連中が好みそうな場所だ。しかも、大して強くないであろう観光客も集まっていてまさに集金所のような体を成している。
更に、既に大剣に手を掛けたアロイスは声がした方へと走り出した。
「あっ、アロイスさん待ってください!」
人助けは良いことだが、ここで置いて行かれるとメイヴィス自身が盗賊にカモられてしまう事は必至。慌てて走り、足の速すぎる騎士サマを追う。なんでこんなに汗だくになっているのだろうか、と一瞬だけ考えたが無駄なので止めた。
程なくして、現場に辿り着く。
何だかチンピラの典型のような格好をし、下品な笑みを浮かべ、取り残された観光客を脅す山賊の姿だ。最近は神魔物だったり、明らかに人間じゃない人達の相手ばかりをしていたので酷くチープな悪役に見える。何というか、迫力が足りない。
少し前なら山賊相手でも震え上がっていたはずだが、不思議と恐怖という感情が欠片も湧いて来ないのだ。
「すまない、メヴィ。放っておく事は出来ないから、片付けて来る」
「あ、ここで待ってます」
「ああ。特に手伝いは必要ない、待機していてくれ」
言うが早いか、アロイスはその足を山賊3人組へと向けた。
そんな事にも気付かず、哀れな山賊は一塊になっている女性観光客2人を相手に管を巻いていた。
「おう、良いもん着てんじゃねぇか。お前それ、リアシカのコートじゃん? 古着でも1枚云万で売れるんだよなあ。俺のコートと交換しねぇ?」
「えっ、その汗臭そうな上着と? 絶対に嫌なんですけど!!」
「そ、そこまで言う事無いじゃーん、傷つくわ。慰謝料請求させろ、慰謝料」
――こ、小物臭が凄い……!!
何故、山賊家業をしていながら、こうも町中で見かけるチンピラみたいな台詞を吐けるのか。もっとワイルドに攻めろ、ワイルドに。
何でこんな奴らに魔石採集の邪魔をされなきゃいけないんだ、という見当違いの怒りさえわき上がってくるようだ。
そこへアロイスが遠慮容赦なく突っ込んで行った。こんな事に元・王属騎士の彼を使用していいのか不明だが、一つ言える事があるとすれば山賊のお三方は随分と運が悪いという事だろう。どうしてこのタイミングで山賊家業に精を出してしまったのか。
哀れみさえ感じていると、ひらりと出現したアロイスが問答無用で山賊の一人を切り伏せた。一拍おいて上がる悲鳴。
それすらも意に介さず、アロイスは残り二人も瞬殺した。速すぎて何が起きたのか、全く見えなかった。
「無事か」
アロイスが観光客2人の安否を確認する――と、上がる黄色い悲鳴。
「あ、ありがとうございますぅ! わ、わたし達、観光でヴァレンディアに来てて~、えぇっと、急にあの人達に……。本当にありがとうございました!」
「お兄さん、とっても格好良かったですよ! ヴァレンディアの人?」
ぐいぐいと迫ってくる女性2人に、アロイスは困惑している。止めに入るべきか考えて、明らかに「女の子とのお喋りを邪魔しに来た連れ」という図になってしまう事に気がついた。往々にして、女の些細な機微というのは難しいものなのだ。
「ああいや、俺は別にヴァレンディア出身では――」
「そうなんですか!? あなたも観光? 私達と一緒ですね! あ、そうだ、一緒に魔石採掘場見て回りましょうよ。私達も、山賊騒動であまりちゃんと観れてないんです!」
「悪いな、連れが居る」
「じゃあ、その人もご一緒にどうですか?」
「いや、そういう訳には――」
分かりやすく絡まれている。しかも、助けを求めるようにアロイスがこちらを見ているのにも気がついてはいる。
だが、ここで一度冷静になって彼にも考えて貰いたい。メイヴィス・イルドレシアが『男性』ならばまだしも、自分は見た目も性別も完全に女。今ここで、アロイスをお持ち帰りしようとしているお姉様方の間に入ってみろ。謂われの無い暴言を吐かれる未来が見えるかのようだ。
しかし、だからといってこのままアロイスをはいどうぞと明け渡す訳にもいかない。彼がいないと、何も出来ないからだ。
仲裁を決意したメイヴィスは、静かにアロイスの元へと歩を進めた。気分はそう、お伽噺の勇者が魔物の四天王と戦うシーンのような臨場感に溢れている。
「アロイスさーん、そろそろ行きませんか?」
「あ、ああ。そういう訳だ、こちらは遊んでいる訳ではないからな、残念だが観光には付き合えない」
早口でそう言ったアロイスが、もう声を掛けてくるなと言わんばかりに女性達に背を向ける。彼はそれで良かったかもしれないが、対峙しているメイヴィスには彼女たちがはっきりとこちらを見て、呟いた言葉までしっかりとその耳で拾った。
「何よ、子供じゃない。お守りさせられてかわいそー」
――だから嫌だって言ったのに!!
ぶつけようのないモヤモヤした感情を、メイヴィスは溜息と共に吐き出した。仕方が無い事とはいえ、何故見ず知らずの人間に暴言を吐かれなきゃいけないのか。山賊より余程質が悪い。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる