111 / 139
11話 アルケミストの長い1日
08.小さな魔道士
しおりを挟む
***
当然ではあるし、予想通りでもあるが。
結果的に言えば館へすんなり着く事は叶わなかった。あまりにもストレートに予想通り過ぎて一瞬反応に困った程だ。
「――す、すいません。アロイスさん……」
「お前のせいではないさ。気にするな」
目の前には巨大猪。目は真っ赤に爛々と輝き、人を簡単に串刺しに出来そうな角が生えている。言うまでも無く魔物だ。今まで一度だってこんなに相手が面倒臭そうな魔物と遭遇しなかったのに、何故よりによって今。
分かりきってはいた事だがそう思わずにはいられない。
「メヴィ、どうにも今日はあまり危険な事をしない方が良いようだ。俺が片付けるから、そこに居てくれ」
「そう、ですね。今日は本当に何やらかすか分かったものじゃないですし」
――でもこれ、物理攻撃の効果が薄そうじゃないか?
分厚い皮を着ているであろう猪は鼻息荒く、突進の姿勢を取っている。下手な動きをしたらよーいドンで走り出すに違いない。
しかも、補足ではあるが後ろに小さめの同じ魔物が2頭程控えているように見える。子供だろうか。それとも手下とか子分とかだろうか。
考察している間にアロイスが地を蹴った。その重そうな筋肉からは想像も付かない速度で大猪へと肉薄する。ピギィ、という鋭い声と共に場が騒然となった。
アロイスの一閃は猪の首元を正確に捉えてはいたが、やはりゴワゴワとした毛皮と皮膚の硬さ。それらが相俟って致命傷にはならない。手応えで察していたのだろう、大猪を一度おいたアロイスは後ろのやや小さめの猪にも流れるような動きで斬り掛かった――
「すいません、これは何事ですか?」
「ヒエッ!?」
と、急に背後からソプラノトーンの声が聞こえて来た。完全に油断していたので変な声を上げて、臨戦態勢を取りながら振り返る。そして、ぎょっとして二度見した。
「え、あ、女の子……?」
歳の頃なら10歳とか、11歳くらいだろうか。やや仕立て直したようなサイズの大きめの魔道ローブを着用している。その手にはやはり大人用、大きめの杖を持っていた。間違いなく魔道士ではあるが、あまりにも幼い。
というか、何故ここに?
当然の疑問にブチ当たり、暫く少女を見つめる。が、答えは全く得られなかった。
さらりとした黒髪が揺れる。子供特有の、傷んでいない髪質に目を細めた。本当に、紛うこと無く、どこかの少女。ここにいるべきではない、ある意味魔物より異質な存在。
「これは、今、何をしているのですか」
聞こえていなかったものを解釈したのか、少女がもう一度同じ質問をした。いやに大人びていて、物怖じしない声音に何故か背筋が伸びる。
「えーっと、魔物退治……? この先の館に用事があったんだけど、足止めされちゃってて」
「へえ。それで、そちらの方は? 貴方の連れですか」
「ああうん、用心棒みたいな」
「そうですか」
平坦にそう返事した少女は杖の先を、アロイスが相手をして居ない、フリーの魔物へと向けた。ぶつぶつとまるで意味の理解出来ない魔法発動用の詠唱を並べた――かと思えば、地面に氷の魔法が走る。辺り一帯を凍り付けにしながら、目標である猪の魔物一体を完全に氷像へと変えた。
驚いたアロイスがちらっとこちらを一瞥したが、すぐに戦闘行動へと戻って行く。少女はと言うと次のターゲットを狙い澄ましていた。
「あ、危ないよ? 向かって来たら――」
「結界を張っています。問題ないかと」
「いや、ちょ、こわ――」
結果的に言えば心配は完全に杞憂と化した。
何故ならこの唐突に現れた少女の振るう魔法は、同じ人間かと疑ってしまう程度には強力で魔物の逆襲などあり得ないと言わんばかりに、一瞬で討伐してしまったからだ。
一方で、アロイスの方も3対1からサシになってしまったからか、気付けば大猪もまるっと斬り伏せていた。真っ赤な液体が地面に広がっているのが遠目にも見て取れる。
「ありがとう。えっと、どこの子かな?」
「どこ? 私はただ、この先にある館に用事があるだけです」
「そうなんだ……」
会話の輪にアロイスが加わる。くらい山道にそぐわぬ少女の存在に、小首を傾げながら。
「メヴィ、彼女は知り合いか?」
「いえ……ただ、館に用事があるらしくて。そうだ、私はメイヴィス・イルドレシア。君は?」
名前を訊ねはしたものの、少女はやや眉根を寄せて言い淀んだ。不審者と勘違いしているのだろうか。
何とか弁解しようと僅かに口を開き掛けたところで、ようやっと少女は問いに応じた。不承不承、ちょっと悩んだ末にと言った体で。
「私は――イアン・ベネットと申します」
「そっか、よろしくイアン」
随分と大人びた喋り方をするが、どんな教育を受けているのだろうか。疑問に思いはしたが、恐らくは貴族家だとか、やんごとなきお家の出身なのだろうと訊かずにおいた。
当然ではあるし、予想通りでもあるが。
結果的に言えば館へすんなり着く事は叶わなかった。あまりにもストレートに予想通り過ぎて一瞬反応に困った程だ。
「――す、すいません。アロイスさん……」
「お前のせいではないさ。気にするな」
目の前には巨大猪。目は真っ赤に爛々と輝き、人を簡単に串刺しに出来そうな角が生えている。言うまでも無く魔物だ。今まで一度だってこんなに相手が面倒臭そうな魔物と遭遇しなかったのに、何故よりによって今。
分かりきってはいた事だがそう思わずにはいられない。
「メヴィ、どうにも今日はあまり危険な事をしない方が良いようだ。俺が片付けるから、そこに居てくれ」
「そう、ですね。今日は本当に何やらかすか分かったものじゃないですし」
――でもこれ、物理攻撃の効果が薄そうじゃないか?
分厚い皮を着ているであろう猪は鼻息荒く、突進の姿勢を取っている。下手な動きをしたらよーいドンで走り出すに違いない。
しかも、補足ではあるが後ろに小さめの同じ魔物が2頭程控えているように見える。子供だろうか。それとも手下とか子分とかだろうか。
考察している間にアロイスが地を蹴った。その重そうな筋肉からは想像も付かない速度で大猪へと肉薄する。ピギィ、という鋭い声と共に場が騒然となった。
アロイスの一閃は猪の首元を正確に捉えてはいたが、やはりゴワゴワとした毛皮と皮膚の硬さ。それらが相俟って致命傷にはならない。手応えで察していたのだろう、大猪を一度おいたアロイスは後ろのやや小さめの猪にも流れるような動きで斬り掛かった――
「すいません、これは何事ですか?」
「ヒエッ!?」
と、急に背後からソプラノトーンの声が聞こえて来た。完全に油断していたので変な声を上げて、臨戦態勢を取りながら振り返る。そして、ぎょっとして二度見した。
「え、あ、女の子……?」
歳の頃なら10歳とか、11歳くらいだろうか。やや仕立て直したようなサイズの大きめの魔道ローブを着用している。その手にはやはり大人用、大きめの杖を持っていた。間違いなく魔道士ではあるが、あまりにも幼い。
というか、何故ここに?
当然の疑問にブチ当たり、暫く少女を見つめる。が、答えは全く得られなかった。
さらりとした黒髪が揺れる。子供特有の、傷んでいない髪質に目を細めた。本当に、紛うこと無く、どこかの少女。ここにいるべきではない、ある意味魔物より異質な存在。
「これは、今、何をしているのですか」
聞こえていなかったものを解釈したのか、少女がもう一度同じ質問をした。いやに大人びていて、物怖じしない声音に何故か背筋が伸びる。
「えーっと、魔物退治……? この先の館に用事があったんだけど、足止めされちゃってて」
「へえ。それで、そちらの方は? 貴方の連れですか」
「ああうん、用心棒みたいな」
「そうですか」
平坦にそう返事した少女は杖の先を、アロイスが相手をして居ない、フリーの魔物へと向けた。ぶつぶつとまるで意味の理解出来ない魔法発動用の詠唱を並べた――かと思えば、地面に氷の魔法が走る。辺り一帯を凍り付けにしながら、目標である猪の魔物一体を完全に氷像へと変えた。
驚いたアロイスがちらっとこちらを一瞥したが、すぐに戦闘行動へと戻って行く。少女はと言うと次のターゲットを狙い澄ましていた。
「あ、危ないよ? 向かって来たら――」
「結界を張っています。問題ないかと」
「いや、ちょ、こわ――」
結果的に言えば心配は完全に杞憂と化した。
何故ならこの唐突に現れた少女の振るう魔法は、同じ人間かと疑ってしまう程度には強力で魔物の逆襲などあり得ないと言わんばかりに、一瞬で討伐してしまったからだ。
一方で、アロイスの方も3対1からサシになってしまったからか、気付けば大猪もまるっと斬り伏せていた。真っ赤な液体が地面に広がっているのが遠目にも見て取れる。
「ありがとう。えっと、どこの子かな?」
「どこ? 私はただ、この先にある館に用事があるだけです」
「そうなんだ……」
会話の輪にアロイスが加わる。くらい山道にそぐわぬ少女の存在に、小首を傾げながら。
「メヴィ、彼女は知り合いか?」
「いえ……ただ、館に用事があるらしくて。そうだ、私はメイヴィス・イルドレシア。君は?」
名前を訊ねはしたものの、少女はやや眉根を寄せて言い淀んだ。不審者と勘違いしているのだろうか。
何とか弁解しようと僅かに口を開き掛けたところで、ようやっと少女は問いに応じた。不承不承、ちょっと悩んだ末にと言った体で。
「私は――イアン・ベネットと申します」
「そっか、よろしくイアン」
随分と大人びた喋り方をするが、どんな教育を受けているのだろうか。疑問に思いはしたが、恐らくは貴族家だとか、やんごとなきお家の出身なのだろうと訊かずにおいた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる