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12話 犬派達の集い
09.不毛な睨み合い
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こちらが着々と準備を整えている間に、アッシュは仕事を始めていたらしい。リードを持ったブルーノ監修の元、割と低めの声で吠え立てる。
「早速見つけたかな?」
楽しげに頷いたアロイスは掃除用手袋に加え、スコップを持っている。シュールな光景過ぎて、一瞬思考が止まった。続いて、意外にもお掃除用具が似合うヒルデガルトがウキウキとスコップを手に取る。
「ふふ、こういう作業もたまには良い物ですね」
「あんた、様になるよね。そういう格好が……」
ナターリアが困惑した顔でそう言った。誰もが思っていた事をさらっと口にする度胸は賞賛に値する。
メイヴィスもまた、自前のスコップを手に取り、アッシュが尻尾を振りながら吠えている場所へと向かう。「どうですか! 俺が見つけたんすよ、俺が!」、とでも言いたげな顔を主人であるブルーノに向けている大型犬。成る程、ペットも悪く無いと思わせるに足る可愛らしさだ。
ぼんやりとその様子を眺めていたメイヴィスは頭を振って作業に戻る。湿って柔らかい土を踏みしめながら屈んだ。大自然の匂いが鼻につく。
「メヴィ、そうっと掘り返した方がいいかなっ!」
「そうだね、ナタの力で思い切りやると素材が粉微塵になるね」
「へへっ」
「あ、別に誉めてないから」
慎重に掘り返していると、横から現れた騎士組が驚くべき速度で地面を掘り始める。やはり所詮は力仕事、身体を鍛えている彼等の方が効率が良いのは事実だ。
「ちょ、はやっ……!」
「ええ、この小さいスコップは繊細な動きが出来てとても良いですね」
「どの辺が繊細!?」
スコップ2本持たせて二刀流にしたらモグラよりしく、素晴らしい速度で土を掘り返してくれそうだ。
程なくしてヌルッとした見た目の、キノコの傘みたいなものが見え始めた。間違いなくこれがミズアメタケだろう。ここまで現物が姿を現せば、流石に水飴のような甘ったるい匂いが漂ってくる。
「とても良い素材になりそうですね。変わった素材を使うのって楽しいし」
「あたしにはよく分からない感性だねっ! あーあ、騎士2人に任せてた方が早いかも!」
そう言ったナターリアは既に土を抉る作業に飽きたのか、使っていないスコップを手で弄んでいる。
更に数分後、土に埋まっていたミズアメタケが完全にその形を表した。
中途半端に土へ刺さったままのそれを確認したアロイスが顔を上げる。
「メヴィ、今更だと思うかもしれないが、これはどうやって持って帰るつもりだ? 素手で触ってはいけないんだろう? 適当にローブへ突っ込むのはお勧めしないが」
「そう思って、素材ケースを持って来ました。危険物用、個別ケースです」
ローブから金属製の箱を取り出す。ミズアメタケのサイズ感が分からなかったので、大きめの物を持ってきた。この箱一つで何個も収穫物を収める事が出来るだろう。
浮かれた気分でミズアメタケを仕舞った、その直後。
再びアッシュが吠え始めた。結構遠くから聞こえる、と思ったらアッシュに同行していたブルーノが大きく手を振る。
「おーう、次こっちだぞ!」
遊んでいる自覚があったのか、ナターリアが分かるように手を振るといやに様になる足取りで呼ばれた方向へ向かった。何というか、最近の彼女は化けの皮がよく剥がれている。
コゼット・ギルドに居た時は意味の分からないクネクネとした歩き方をしていたような気がするが、最近では歩く姿でさえ謎の威圧感を覚える程だ。
「ナタ、私も行く!」
「メヴィはあまり来てもなあ……。遅いし」
「否定はできない!」
「まあ、これはどっちかと言うと重労働だし、あたしに任せておいてよねっ! あーあ、腰が痛くなりそう」
トントン、と軽い調子で自身の腰を叩いていたナターリアは不意にその足を止めた。その視線の先にはアッシュがいる。彼女が散々全否定してきた生物、犬が。
まさに一触即発。睨み合う両者に何故かメイヴィスまで背筋が伸びる。
猫と犬、ペット最強決定戦において、常に鎬を削り合う存在――
先手、アッシュがナターリアを見つめてわんっ、と吠えた。特に敵意は感じられない、強いて言うならずっと見つめて来ているからどうした、というニュアンスを多分に含んだ響き。
対し、ナターリアはううう、と低い唸り声のようなものを漏らした。
不毛な争いが続くかに思われたが、先に視線を逸らしたのはアッシュの方だった。すぐに主人であるブルーノを見上げ、次へ行こうと言わんばかりにふさふさの尾をゆらり、と振る。
猫と犬の睨み合いなど露知らないブルーノは「おう!」と元気よくそう言うとアッシュを連れて踵を返した。
「早速見つけたかな?」
楽しげに頷いたアロイスは掃除用手袋に加え、スコップを持っている。シュールな光景過ぎて、一瞬思考が止まった。続いて、意外にもお掃除用具が似合うヒルデガルトがウキウキとスコップを手に取る。
「ふふ、こういう作業もたまには良い物ですね」
「あんた、様になるよね。そういう格好が……」
ナターリアが困惑した顔でそう言った。誰もが思っていた事をさらっと口にする度胸は賞賛に値する。
メイヴィスもまた、自前のスコップを手に取り、アッシュが尻尾を振りながら吠えている場所へと向かう。「どうですか! 俺が見つけたんすよ、俺が!」、とでも言いたげな顔を主人であるブルーノに向けている大型犬。成る程、ペットも悪く無いと思わせるに足る可愛らしさだ。
ぼんやりとその様子を眺めていたメイヴィスは頭を振って作業に戻る。湿って柔らかい土を踏みしめながら屈んだ。大自然の匂いが鼻につく。
「メヴィ、そうっと掘り返した方がいいかなっ!」
「そうだね、ナタの力で思い切りやると素材が粉微塵になるね」
「へへっ」
「あ、別に誉めてないから」
慎重に掘り返していると、横から現れた騎士組が驚くべき速度で地面を掘り始める。やはり所詮は力仕事、身体を鍛えている彼等の方が効率が良いのは事実だ。
「ちょ、はやっ……!」
「ええ、この小さいスコップは繊細な動きが出来てとても良いですね」
「どの辺が繊細!?」
スコップ2本持たせて二刀流にしたらモグラよりしく、素晴らしい速度で土を掘り返してくれそうだ。
程なくしてヌルッとした見た目の、キノコの傘みたいなものが見え始めた。間違いなくこれがミズアメタケだろう。ここまで現物が姿を現せば、流石に水飴のような甘ったるい匂いが漂ってくる。
「とても良い素材になりそうですね。変わった素材を使うのって楽しいし」
「あたしにはよく分からない感性だねっ! あーあ、騎士2人に任せてた方が早いかも!」
そう言ったナターリアは既に土を抉る作業に飽きたのか、使っていないスコップを手で弄んでいる。
更に数分後、土に埋まっていたミズアメタケが完全にその形を表した。
中途半端に土へ刺さったままのそれを確認したアロイスが顔を上げる。
「メヴィ、今更だと思うかもしれないが、これはどうやって持って帰るつもりだ? 素手で触ってはいけないんだろう? 適当にローブへ突っ込むのはお勧めしないが」
「そう思って、素材ケースを持って来ました。危険物用、個別ケースです」
ローブから金属製の箱を取り出す。ミズアメタケのサイズ感が分からなかったので、大きめの物を持ってきた。この箱一つで何個も収穫物を収める事が出来るだろう。
浮かれた気分でミズアメタケを仕舞った、その直後。
再びアッシュが吠え始めた。結構遠くから聞こえる、と思ったらアッシュに同行していたブルーノが大きく手を振る。
「おーう、次こっちだぞ!」
遊んでいる自覚があったのか、ナターリアが分かるように手を振るといやに様になる足取りで呼ばれた方向へ向かった。何というか、最近の彼女は化けの皮がよく剥がれている。
コゼット・ギルドに居た時は意味の分からないクネクネとした歩き方をしていたような気がするが、最近では歩く姿でさえ謎の威圧感を覚える程だ。
「ナタ、私も行く!」
「メヴィはあまり来てもなあ……。遅いし」
「否定はできない!」
「まあ、これはどっちかと言うと重労働だし、あたしに任せておいてよねっ! あーあ、腰が痛くなりそう」
トントン、と軽い調子で自身の腰を叩いていたナターリアは不意にその足を止めた。その視線の先にはアッシュがいる。彼女が散々全否定してきた生物、犬が。
まさに一触即発。睨み合う両者に何故かメイヴィスまで背筋が伸びる。
猫と犬、ペット最強決定戦において、常に鎬を削り合う存在――
先手、アッシュがナターリアを見つめてわんっ、と吠えた。特に敵意は感じられない、強いて言うならずっと見つめて来ているからどうした、というニュアンスを多分に含んだ響き。
対し、ナターリアはううう、と低い唸り声のようなものを漏らした。
不毛な争いが続くかに思われたが、先に視線を逸らしたのはアッシュの方だった。すぐに主人であるブルーノを見上げ、次へ行こうと言わんばかりにふさふさの尾をゆらり、と振る。
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