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12話 犬派達の集い
13.身の凍る事実
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「ごめんね、ナタ。やや崖っぽい所から滑り落ちちゃって。上のみんなは大丈夫だった?」
あの戦闘民族達の事だ、しれっと戦闘を終えているに違いなかったが念の為確認してみた。ナターリアは曖昧に返事をすると歩き出す。ただし、落ちてしまった方とは逆の方向へ。
その背を追いながらメイヴィスは首を傾げた。
「そっちとは逆方向じゃない? 大丈夫?」
「ああうん、流石にあんたを抱えたままあそこは登れないし」
「えっ、あ、そうなの?」
片手で自分の事を持ち上げられるナターリアとは思えない発言だったが、確かにそこそこ急な斜面だった。体力的な問題でも無茶は控えたかったのかもしれない。
そう思い直してみたが、形の無い不安が徐々に形を作られていく。漠然としている何かを否定するように、足を進める親友の背へと再度言葉を掛けた。
「ナターリア、何だか――ヒエッ!?」
一際大きな子供の泣き声。悲しそうで、それでいて不気味だ。
――いやいやこれは、そう、木とか何とかが擦れる音……。幻聴だってナタが言ってたはず。
心を落ち着けようとしたその瞬間だった。ぐっとローブが引っ張られる感触。今度こそ悲鳴を上げて、弾かれるように背後を見た。
――誰も居ない。
どころか、ローブを引っ掛けるような枝などが突き出している様子も無かった。一体何にローブを引っ張られたのだろうか。冷たい汗が背を伝う。
「ねえ、ちょっと、ナタ! 何か変だよ、本当にそっちであってるの!?」
助けて貰っている手前、やり方に口出ししたくなかったが堪らず訊ねる。前を歩いているナターリアの速度はかなりのものだ。もう小走りでないと置いて行かれてしまうだろう。
体力の無い身体に鞭打って少しずつ遠ざかる背を追いかける。彼女も何だか不気味だが、それ以上に一人にされたくない。
「ナターリアってば!!」
息を切らしながら追いかける。何だろう、この速度は。最早歩いている速度では無い。彼女が一歩足を踏み出す毎にどんどん引き離されていく。泣きたい気分になりながら、走り出そうと足に力を込めたその瞬間だった。
犬の吠え声。遠吠えかもしれない。長く伸びる――これはアッシュだろうか。
我に返って足を止めた。
「……ひっ!?」
そこで気付いた。
ナターリアの背中はどんどん離れて行くが、その足下。今度こそ直角、落ちたらただでは済まない事がありありと分かる崖。ナターリアを筆頭にした戦闘民達ならどうにかなりそうだが、自分がここから落ちれば最悪死亡もあり得る。
その事実に跳ね上がった心拍数が、徐々に落ち着く。危なかった、このまま進んでいたら――いや待て、じゃあさっきナターリアだと思って追いかけていたのは誰だ?
「メヴィ!? 何やってんの!? 危ないからこっちへ来なさい!」
今度こそ聞き覚えのある声が耳朶を打つ。足を滑らせないように気を付けながら、警戒しつつ振り返った。
「な、ナターリア!」
ナターリアとアッシュ、ようは一緒にクエストに来たメンバーが困惑顔で立っている。そりゃそうだ。戦闘中に居なくなったと思ったら、何故か崖の前に立っている。我ながら意味不明な状況だ。
しかし、それ以上に意味不明なのが先程まで前を走っていたはずのナターリアその人が、何故か背後にいる事である。
事態が呑込めずにいると、アロイスが眉根を寄せて口を開いた。
「落ち着け、何か嫌な事でもあったのかメヴィ?」
「あ、いや。自殺とかでは無いです……。というか、ナターリアずっとそっちにいた?」
質問の支離滅裂さに怪訝そうな顔をしたナターリアが頷く。
「え、ずっとみんなと一緒に居たけど。急にあんたが崖を転がり落ちて行って、生きた心地がしなかったわ」
「ごめん……」
――では、先程まで背を追っていたあの人物は誰だったのだろうか。
顔が強張っていたからだろうか。ヒルデガルトが寄って来、そしてそっと腕を引いた。考えない方が良いこともある、そんな顔をして。
「行きましょう、メヴィ殿。その、これは人伝に聞いた話ですが――この辺り、変死体がたくさん挙がっているんです」
そのホラーと言うか、真実かどうか考え倦ねてしまう言葉に対し食いついたのは意外にもブルーノだった。
「そうだろうな、何か変な気配するしよ。ちょっとその話は詳しく聞きたいが良いか?」
「ブルーノ殿、こういった怪談に興味があるのですか? その、人を見た目で判断するのは良くないのですが、あまり噂話の類いに興味があるようには……」
「多分それは噂じゃ済まねぇな。話だけ聞かせてくれ。然るべき所に報告しなきゃならない可能性がある。ま、悪いようにはしないぜ」
妙に食い付いてきたブルーノに困惑した顔を向けつつも、ヒルデガルトが口を開く。元来、お人好しの気がある彼女は訊かれた事に対し素直に応じる傾向があるようだ。
「うーん、私も仕事柄、この森には来ますが明らかに自殺されている方と、そうでない方が居るのですよね。それで、その不自然なご遺体が、大体この急な崖から落ちている方で――んー、何かから逃げているような、走って来て止まる事無く崖から転がり落ちたような……」
「止まる事無く、ねえ。助走着けて崖からダイブって事か?」
「ええ、そうですね。それで、先程も何故かメヴィ殿が走って行っていたじゃないですか。……ああ、そういう事なのかな、と思って」
「成る程な。メヴィ、お前は何を追っかけて走ってたんだ? 俺達にはお前が一人で駆け出しているようにしか見えなかったが」
ブルーノに事の経緯を説明した。
皆がその超常的な現象に首を傾げていたが、彼だけは真摯に話を聞いてくれたと言える。ただし、聞いてくれただけだったが。
あの戦闘民族達の事だ、しれっと戦闘を終えているに違いなかったが念の為確認してみた。ナターリアは曖昧に返事をすると歩き出す。ただし、落ちてしまった方とは逆の方向へ。
その背を追いながらメイヴィスは首を傾げた。
「そっちとは逆方向じゃない? 大丈夫?」
「ああうん、流石にあんたを抱えたままあそこは登れないし」
「えっ、あ、そうなの?」
片手で自分の事を持ち上げられるナターリアとは思えない発言だったが、確かにそこそこ急な斜面だった。体力的な問題でも無茶は控えたかったのかもしれない。
そう思い直してみたが、形の無い不安が徐々に形を作られていく。漠然としている何かを否定するように、足を進める親友の背へと再度言葉を掛けた。
「ナターリア、何だか――ヒエッ!?」
一際大きな子供の泣き声。悲しそうで、それでいて不気味だ。
――いやいやこれは、そう、木とか何とかが擦れる音……。幻聴だってナタが言ってたはず。
心を落ち着けようとしたその瞬間だった。ぐっとローブが引っ張られる感触。今度こそ悲鳴を上げて、弾かれるように背後を見た。
――誰も居ない。
どころか、ローブを引っ掛けるような枝などが突き出している様子も無かった。一体何にローブを引っ張られたのだろうか。冷たい汗が背を伝う。
「ねえ、ちょっと、ナタ! 何か変だよ、本当にそっちであってるの!?」
助けて貰っている手前、やり方に口出ししたくなかったが堪らず訊ねる。前を歩いているナターリアの速度はかなりのものだ。もう小走りでないと置いて行かれてしまうだろう。
体力の無い身体に鞭打って少しずつ遠ざかる背を追いかける。彼女も何だか不気味だが、それ以上に一人にされたくない。
「ナターリアってば!!」
息を切らしながら追いかける。何だろう、この速度は。最早歩いている速度では無い。彼女が一歩足を踏み出す毎にどんどん引き離されていく。泣きたい気分になりながら、走り出そうと足に力を込めたその瞬間だった。
犬の吠え声。遠吠えかもしれない。長く伸びる――これはアッシュだろうか。
我に返って足を止めた。
「……ひっ!?」
そこで気付いた。
ナターリアの背中はどんどん離れて行くが、その足下。今度こそ直角、落ちたらただでは済まない事がありありと分かる崖。ナターリアを筆頭にした戦闘民達ならどうにかなりそうだが、自分がここから落ちれば最悪死亡もあり得る。
その事実に跳ね上がった心拍数が、徐々に落ち着く。危なかった、このまま進んでいたら――いや待て、じゃあさっきナターリアだと思って追いかけていたのは誰だ?
「メヴィ!? 何やってんの!? 危ないからこっちへ来なさい!」
今度こそ聞き覚えのある声が耳朶を打つ。足を滑らせないように気を付けながら、警戒しつつ振り返った。
「な、ナターリア!」
ナターリアとアッシュ、ようは一緒にクエストに来たメンバーが困惑顔で立っている。そりゃそうだ。戦闘中に居なくなったと思ったら、何故か崖の前に立っている。我ながら意味不明な状況だ。
しかし、それ以上に意味不明なのが先程まで前を走っていたはずのナターリアその人が、何故か背後にいる事である。
事態が呑込めずにいると、アロイスが眉根を寄せて口を開いた。
「落ち着け、何か嫌な事でもあったのかメヴィ?」
「あ、いや。自殺とかでは無いです……。というか、ナターリアずっとそっちにいた?」
質問の支離滅裂さに怪訝そうな顔をしたナターリアが頷く。
「え、ずっとみんなと一緒に居たけど。急にあんたが崖を転がり落ちて行って、生きた心地がしなかったわ」
「ごめん……」
――では、先程まで背を追っていたあの人物は誰だったのだろうか。
顔が強張っていたからだろうか。ヒルデガルトが寄って来、そしてそっと腕を引いた。考えない方が良いこともある、そんな顔をして。
「行きましょう、メヴィ殿。その、これは人伝に聞いた話ですが――この辺り、変死体がたくさん挙がっているんです」
そのホラーと言うか、真実かどうか考え倦ねてしまう言葉に対し食いついたのは意外にもブルーノだった。
「そうだろうな、何か変な気配するしよ。ちょっとその話は詳しく聞きたいが良いか?」
「ブルーノ殿、こういった怪談に興味があるのですか? その、人を見た目で判断するのは良くないのですが、あまり噂話の類いに興味があるようには……」
「多分それは噂じゃ済まねぇな。話だけ聞かせてくれ。然るべき所に報告しなきゃならない可能性がある。ま、悪いようにはしないぜ」
妙に食い付いてきたブルーノに困惑した顔を向けつつも、ヒルデガルトが口を開く。元来、お人好しの気がある彼女は訊かれた事に対し素直に応じる傾向があるようだ。
「うーん、私も仕事柄、この森には来ますが明らかに自殺されている方と、そうでない方が居るのですよね。それで、その不自然なご遺体が、大体この急な崖から落ちている方で――んー、何かから逃げているような、走って来て止まる事無く崖から転がり落ちたような……」
「止まる事無く、ねえ。助走着けて崖からダイブって事か?」
「ええ、そうですね。それで、先程も何故かメヴィ殿が走って行っていたじゃないですか。……ああ、そういう事なのかな、と思って」
「成る程な。メヴィ、お前は何を追っかけて走ってたんだ? 俺達にはお前が一人で駆け出しているようにしか見えなかったが」
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