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チュートリアル
01.まずは召喚をしてみましょう(1)
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2月下旬。
高校を卒業し、4月から大学生となる桐埜花実《きりの かさね》は暇を持て余していた。というのも、既に高校生活は終了。2月中旬頃に卒業式があるタイプの学校だったので、現状においてする事が無くなったからである。
無論、大学生活が始まるのは4月から。大学の場所が実家から遠かった為、学生アパートの一室にて独り暮らしである。
張り切って準備したからか、卒業式までには入居の準備を整えた上、近隣は散歩し尽くしてまるで実家のような安心感。そうして大学生活のスタートまで1ヶ月の時間を残したまま、自堕落な生活を貪る事となってしまったのである。
そんな暇を実用的に潰す方法――アルバイト。
暇を持て余した学生はその結論に行き着いた。アルバイトをすれば勤務時間中は確実に暇ではない上、金も稼げる。まさに一石二鳥というものだ。
しかもそんな花実の背を後押しするかのように、ソーシャルゲームの先行プレイをし、バグ報告などをするアルバイトの求人広告が出現。自宅でできるお仕事としてピックアップされていた。
更に更に、当たる見込みは低いと思って応募すればまさかの採用。こうして、手に職を付けた花実はβ版ソーシャルゲームの先行プレイ権とアルバイトを同時に手に入れたのであった。
前置きはここまでにして。
今、目の前にはアルバイト会社から送られてきた装置が一台鎮座している。このハードはスマートフォンに接続して使うらしく、機械と共にスマホへ繋ぐ為のケーブルも付いていた。
没入型RPG、それがβ版の売り文句である。名前すらまだ付いていない、このソシャゲ。装置に接続する事でVR以上の感覚を共有出来ると運営がゴリ押ししている物だ。
「これを、こっちに……? ううん、難しい。一度繋いだら、あまり弄らないようにしとこう」
ケーブルが分かり辛い、と運営に要望を出す事を決意しつつ準備を着々と進める。ゲームをプレイしている時間×時給なのでログインしない事には給料が発生しないのである。
因みに花実のゲーム遍歴は浅い。ソーシャルゲームをある程度嗜む程度の学生だが、つい数日前まで高校生だった身分だ。課金なぞ、年に一度あるか無いかの特別キャンペーンでしかしないタイプである。
加えて据え置きゲームはほぼプレイしていない。言うなれば隙間時間にスマートフォンで暇潰しをする程度のエンジョイ勢だ。バランスもへったくれもなく、好きなキャラだけを育成して「強くなったねー、きゃっきゃ」と遊ぶ。
このアルバイトに応募したのも、一種の運命論者である花実が重要視するガチャシステムが存在したからに他ならない。
そうこうしている内に物々しいケーブルを全てスマホやら何やらに繋ぎ終える。後は付属のヘルメットのような機器を自分の頭に被せるだけとなった。
それにしても、没入感とやらはどの程度の物なのだろうか? VRも面白かったが、やはり現実と見分けが付かなくなる程ではなかった。これも、仰々しいマシーンではあるが期待し過ぎは良く無いのかもしれない。
色々と考えながらヘルメットのような物を装着する。急な転倒防止の為、身体を倒した状態でログインしろという旨の注意が表記されたので、大人しくソファベッドに身体を倒した。
ログインするという旨のカウントダウンが表示される。3、2、1――
***
「――……えっ」
次に目を覚ました時、そこは安いアパートの一室などではなかった。
少し古いものの、しっかりとした日本家屋。心なしか、木材の香りまで漂ってくるようだった。まるでその場にいるかのような臨場感に息を呑む。昨今のゲームはここまで進化したと言うのか。これからのソシャゲに乞うご期待である。
心が落ち着いてきた所で、自分が見覚えのないスマートフォンを手に持っている事に気付く。至ってシンプルなスマホ、特段変わった点はないのだが、自分の物ではないという事だけが気掛かりだ。
誰の物かも分からないスマートフォンの電源ボタンに触れる。画面が明るくなったかと思えば、ゲームに関する内容のデータが表示された。成程、どうやらメニュー画面などの扱いと同じ物のようだ。ゲーム全般に存在するメニュー画面などはどうするのかと思ったが、こういう措置に落ち着いたらしい。
一先ずスマホを握り締めたまま、再度周囲を見回す。現在地がどこになるのかは分からないが、何も置かれていない小部屋に放り出されたようだった。
更に言うと、よくよく見れば建物の劣化が著しい。長年使われていなかったかのように埃は降り積もり、アレルギーでも発症しそうな勢いだ。尤も、ゲームなのでそのような心配は不要だろうが。
「で? ここからどうすればいいのさ……」
途方に暮れたタイミングで、スマートフォンの画面が勝手に点灯した。自然とそれに視線を落とせば、チュートリアルが始まったのだろう。外へ出るよう示唆される。ミニマップと共に行き先のマーカーが現れた。
チュートリアル専用のキャラクターなどは存在しないのだろうか? β版であるが為に、このゲームがRPGという事しか分からない。ストーリーは確か、主人公=プレイヤーが世界を救う為に奔走する、というありがちな内容だった気がする。
首を傾げながらもスマホの指示に従い、廊下へ出る。もしかしたら、今からガチャを回して初期キャラを入手するのかもしれない。自分としてはガチャ排出からの運命論者であるが故に、チュートリアルガチャで誰もが同じキャラクターを手に入れるのは地雷だが、致し方ないだろう。キャラクター毎にチュートリアルのテキストを作っていたら、膨大な文字量になってしまう。
何はともあれ、スマホの案内――もとい、チュートリアルに従って歩を進める。やがて、物々しい開き戸の部屋に辿り着いた。戸と戸の位置から察するに、かなり大きな部屋だ。
中へ入るようチュートリアルが指示を出すので、恐る恐る戸に手を掛けて開け放つ。そこは一種異様な部屋だった。
日本家屋を装っているが故に畳部屋が多いのだが、この部屋も例に漏れず。ホテルに備え付けの宴会場のような広さがある。ただし、畳にはびっしりと古典の授業で見掛けるような文字が幾何学模様じみた勢いで描かれていた。
加えて塩やら杯に注がれた水など、神聖な雰囲気を漂わせている。多分恐らくきっと、ここはガチャルームに違いない。明らかに何かを召喚する為の部屋だもの。
スマホに視線を落とし、予想が間違っていない事を悟る。チュートリアル画面には以下の文字が表記されていた。
『まずは最初の神使を召喚しましょう。貴方の適応色は『黒』です。初期召喚では適応色に準じた神使が排出されます』
高校を卒業し、4月から大学生となる桐埜花実《きりの かさね》は暇を持て余していた。というのも、既に高校生活は終了。2月中旬頃に卒業式があるタイプの学校だったので、現状においてする事が無くなったからである。
無論、大学生活が始まるのは4月から。大学の場所が実家から遠かった為、学生アパートの一室にて独り暮らしである。
張り切って準備したからか、卒業式までには入居の準備を整えた上、近隣は散歩し尽くしてまるで実家のような安心感。そうして大学生活のスタートまで1ヶ月の時間を残したまま、自堕落な生活を貪る事となってしまったのである。
そんな暇を実用的に潰す方法――アルバイト。
暇を持て余した学生はその結論に行き着いた。アルバイトをすれば勤務時間中は確実に暇ではない上、金も稼げる。まさに一石二鳥というものだ。
しかもそんな花実の背を後押しするかのように、ソーシャルゲームの先行プレイをし、バグ報告などをするアルバイトの求人広告が出現。自宅でできるお仕事としてピックアップされていた。
更に更に、当たる見込みは低いと思って応募すればまさかの採用。こうして、手に職を付けた花実はβ版ソーシャルゲームの先行プレイ権とアルバイトを同時に手に入れたのであった。
前置きはここまでにして。
今、目の前にはアルバイト会社から送られてきた装置が一台鎮座している。このハードはスマートフォンに接続して使うらしく、機械と共にスマホへ繋ぐ為のケーブルも付いていた。
没入型RPG、それがβ版の売り文句である。名前すらまだ付いていない、このソシャゲ。装置に接続する事でVR以上の感覚を共有出来ると運営がゴリ押ししている物だ。
「これを、こっちに……? ううん、難しい。一度繋いだら、あまり弄らないようにしとこう」
ケーブルが分かり辛い、と運営に要望を出す事を決意しつつ準備を着々と進める。ゲームをプレイしている時間×時給なのでログインしない事には給料が発生しないのである。
因みに花実のゲーム遍歴は浅い。ソーシャルゲームをある程度嗜む程度の学生だが、つい数日前まで高校生だった身分だ。課金なぞ、年に一度あるか無いかの特別キャンペーンでしかしないタイプである。
加えて据え置きゲームはほぼプレイしていない。言うなれば隙間時間にスマートフォンで暇潰しをする程度のエンジョイ勢だ。バランスもへったくれもなく、好きなキャラだけを育成して「強くなったねー、きゃっきゃ」と遊ぶ。
このアルバイトに応募したのも、一種の運命論者である花実が重要視するガチャシステムが存在したからに他ならない。
そうこうしている内に物々しいケーブルを全てスマホやら何やらに繋ぎ終える。後は付属のヘルメットのような機器を自分の頭に被せるだけとなった。
それにしても、没入感とやらはどの程度の物なのだろうか? VRも面白かったが、やはり現実と見分けが付かなくなる程ではなかった。これも、仰々しいマシーンではあるが期待し過ぎは良く無いのかもしれない。
色々と考えながらヘルメットのような物を装着する。急な転倒防止の為、身体を倒した状態でログインしろという旨の注意が表記されたので、大人しくソファベッドに身体を倒した。
ログインするという旨のカウントダウンが表示される。3、2、1――
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「――……えっ」
次に目を覚ました時、そこは安いアパートの一室などではなかった。
少し古いものの、しっかりとした日本家屋。心なしか、木材の香りまで漂ってくるようだった。まるでその場にいるかのような臨場感に息を呑む。昨今のゲームはここまで進化したと言うのか。これからのソシャゲに乞うご期待である。
心が落ち着いてきた所で、自分が見覚えのないスマートフォンを手に持っている事に気付く。至ってシンプルなスマホ、特段変わった点はないのだが、自分の物ではないという事だけが気掛かりだ。
誰の物かも分からないスマートフォンの電源ボタンに触れる。画面が明るくなったかと思えば、ゲームに関する内容のデータが表示された。成程、どうやらメニュー画面などの扱いと同じ物のようだ。ゲーム全般に存在するメニュー画面などはどうするのかと思ったが、こういう措置に落ち着いたらしい。
一先ずスマホを握り締めたまま、再度周囲を見回す。現在地がどこになるのかは分からないが、何も置かれていない小部屋に放り出されたようだった。
更に言うと、よくよく見れば建物の劣化が著しい。長年使われていなかったかのように埃は降り積もり、アレルギーでも発症しそうな勢いだ。尤も、ゲームなのでそのような心配は不要だろうが。
「で? ここからどうすればいいのさ……」
途方に暮れたタイミングで、スマートフォンの画面が勝手に点灯した。自然とそれに視線を落とせば、チュートリアルが始まったのだろう。外へ出るよう示唆される。ミニマップと共に行き先のマーカーが現れた。
チュートリアル専用のキャラクターなどは存在しないのだろうか? β版であるが為に、このゲームがRPGという事しか分からない。ストーリーは確か、主人公=プレイヤーが世界を救う為に奔走する、というありがちな内容だった気がする。
首を傾げながらもスマホの指示に従い、廊下へ出る。もしかしたら、今からガチャを回して初期キャラを入手するのかもしれない。自分としてはガチャ排出からの運命論者であるが故に、チュートリアルガチャで誰もが同じキャラクターを手に入れるのは地雷だが、致し方ないだろう。キャラクター毎にチュートリアルのテキストを作っていたら、膨大な文字量になってしまう。
何はともあれ、スマホの案内――もとい、チュートリアルに従って歩を進める。やがて、物々しい開き戸の部屋に辿り着いた。戸と戸の位置から察するに、かなり大きな部屋だ。
中へ入るようチュートリアルが指示を出すので、恐る恐る戸に手を掛けて開け放つ。そこは一種異様な部屋だった。
日本家屋を装っているが故に畳部屋が多いのだが、この部屋も例に漏れず。ホテルに備え付けの宴会場のような広さがある。ただし、畳にはびっしりと古典の授業で見掛けるような文字が幾何学模様じみた勢いで描かれていた。
加えて塩やら杯に注がれた水など、神聖な雰囲気を漂わせている。多分恐らくきっと、ここはガチャルームに違いない。明らかに何かを召喚する為の部屋だもの。
スマホに視線を落とし、予想が間違っていない事を悟る。チュートリアル画面には以下の文字が表記されていた。
『まずは最初の神使を召喚しましょう。貴方の適応色は『黒』です。初期召喚では適応色に準じた神使が排出されます』
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