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1話:対神の治める土地
02.近場の村(1)
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ログインした時のボーナス、略してログボ。多くのソーシャルゲームに搭載されたシステムだ。当然ながらゲームにログインした花実は、一旦烏羽の言葉を聞き流した上で配布されているスマホに視線を落とす。
果たして――ログボなる文化は存在していなかった。ひょっとして、1日経てばガチャもとい召喚が使用可能になっているかと思ったが、そんな事も一切無い。
内心で肩を落としつつも、メニュー画面を注力する。
まだ解放されていない「???」の項目が2つあった。これはストーリーを進めればその内、解禁されるのだろうか。予想にはなるが、一つは多分神使を強化する為のメニューに違いない。
「召喚士殿。どうされましたか? やる事に困っているのであれば、一先ずすとーりーを進めろというのは運営からの天啓ですよ。ええ」
「ストーリーってどう進めるの?」
「ええ、ええ。お答え致しましょう。何やら召喚士殿はご機嫌なご様子ですので。まずは社の外へ出ます。この地は主神による特殊な結界で守られているので、ええ。ご安心を。外出する時にいちいち門を通らなければならないのが、面倒な事この上ありませんが。ええ、はい」
「門?」
「取り敢えず外へ行きましょう」
「裸足なんだけどな」
「おかしな事を仰る。貴方様は土足で家の中を歩くのですか? 靴は玄関に。ええ、常識の押しつけは不躾かと思われますが。玄関という物が存在しているのだと、お教えしたいと強く思いまして」
――いや、私が聞きたかったのは現実世界から靴は持ち込んでないぞって話であり、玄関がどうのって話じゃ無いんだけど。
そう思ったがデータ相手に怒りを露わにするのも子供じみているので、仕方無く受け流した。烏羽のモデルを作った人は出て来て欲しい。凄くむかつくヤツに仕上がってますね、と賞賛したい。
なお、靴は本当に靴箱の中に入っていた。データをゲームに読み込ませた覚えは全くないが、概ね自宅の靴箱と同じ物が並んでいたと言える。ちょっとこのゲームが恐くなってきたのだが。
そして烏羽がチラッと溢していた、門。
成程それはそれは立派な造りだった。木製で、ぴったりと閉じたそれは自分の細腕では押しても引いても開ける事は出来ないだろう。
「さあ、着きましたよ。端末を取り出して下さい。門の輪力に呼応して、行き先が選択出来るようになっているはずです」
「えっ、何このシステム……そっか、ここに来ないとストーリーに進めないんだ」
「ええ、ええ。そうですとも。まさか、ぼたん一つでどこへでも行けるなどと思っていたのではありませんか? ええ、実に浅慮。げぇむとやらに侵された召喚士殿は何でも指先一つで解決できると思っているだなんて!」
――別にそこまでは思ってないわ!
いちいち大袈裟で、そして一言多い。意地の悪そうな笑みを浮かべた彼は、こちらの様子を伺っているようだが普通に無視した。イラッとはするが、腹は立たない。所詮彼は決められた台詞を再生しているだけだからだ。
気を取り直してスマートフォンに視線を落とす。行き先は現状、一つだけだ。『阿久根村』と書かれている。マップなどはなく、バナーが表示されているだけだ。
「やるか……」
さて、初めてのストーリー。昨日はチュートリアルだけで疲れてしまったので、今日こそは一歩前進したい所存である。
やる気と闘志を燃やしながら、いざバナーをタップ。瞬間、眼前にある巨大な門が自動ドアよろしくゆったりと開け放たれた。
門の向こう側はよく見えない。ねじくれた空間のみが広がっており、社の外がどうなっているのかさっぱり不明だ。
「フフ、それでは召喚士殿。早速、世界を救う冒険……フフフッ、に参りましょうか」
「滅茶苦茶笑うじゃん」
「ええ、ええ! もう、私、おかしくて! ンッフフフフ! いえ、失礼!」
一人で楽しそうな烏羽を差し置き、恐る恐る花実は門を通り抜けた。視界が数秒だけ歪んだような気がしたものの、刹那には視界が開ける。
先程までボロボロではあるが立派な社にいたはずなのだが、気付けば林の中に移動していた。通り抜けてきた門は跡形も無く、自分以外には烏羽がいるだけだ。
「ちょっと、ログアウトは……?」
急用が出来てストーリーを一時中断しなければならなくなったら事だ。近々、通販で頼んだ荷物が宅配される可能性もあるし。
慌てて持っているスマホを弄くる。きちんと『ログアウト』のバナーが大きく表示されていた。これをタップすれば、ストーリーを中断できるのだろう。安心した。宅配業者に不在票を入れさせてしまうのは申し訳無い。家に居ると言うのにどういう嫌がらせだと思われてしまう。
一安心して顔を上げると、いつの間にか正面に回ってきていた烏羽から見下ろされていた。吃驚して息を呑む。結構な巨体だと言うのに気配がなさ過ぎた。
「確認は済みましたか? ええ、では阿久根村へと向かいましょう。こちらです」
言われるがまま、烏羽の背を追う。
それにしても天気があまりよろしくない。薄雲が立ちこめた空は、雨こそ降り出しそうにないが、晴天という訳でもなくどんよりとした気分にさせる。気温もどことなく低い気がするし、天候としては悪いの一言に尽きた。こんな所までリアルに表現しなくともいいのに。
空を見ていた事に気付いたのか、不意に烏羽が口を開く。
「雨ならば降りませんよ。汚泥の影響で周辺の輪力が、絶えず枯渇している状況にありますので。この不安定な空模様のまま、維持・固定される事でしょう。ええ、良い天気ですねえ。鬱陶しい日光もなく、煩わしい雨が降る事も無い! そうは思いませんか?」
「別に……風情が無いねって話だし」
「おや。貴方、風情なんて趣のある物を大事にされるので? 部屋に籠もってげぇむばかりしていると言うのに……」
――はっ倒すぞ!!
なまじ正論なばかりに反論すら許されない。というか、ゲームの住人がそれを言ってしまうのは如何なものなのか。やはりこのキャラクター、とにかくメタ発言が多い。
果たして――ログボなる文化は存在していなかった。ひょっとして、1日経てばガチャもとい召喚が使用可能になっているかと思ったが、そんな事も一切無い。
内心で肩を落としつつも、メニュー画面を注力する。
まだ解放されていない「???」の項目が2つあった。これはストーリーを進めればその内、解禁されるのだろうか。予想にはなるが、一つは多分神使を強化する為のメニューに違いない。
「召喚士殿。どうされましたか? やる事に困っているのであれば、一先ずすとーりーを進めろというのは運営からの天啓ですよ。ええ」
「ストーリーってどう進めるの?」
「ええ、ええ。お答え致しましょう。何やら召喚士殿はご機嫌なご様子ですので。まずは社の外へ出ます。この地は主神による特殊な結界で守られているので、ええ。ご安心を。外出する時にいちいち門を通らなければならないのが、面倒な事この上ありませんが。ええ、はい」
「門?」
「取り敢えず外へ行きましょう」
「裸足なんだけどな」
「おかしな事を仰る。貴方様は土足で家の中を歩くのですか? 靴は玄関に。ええ、常識の押しつけは不躾かと思われますが。玄関という物が存在しているのだと、お教えしたいと強く思いまして」
――いや、私が聞きたかったのは現実世界から靴は持ち込んでないぞって話であり、玄関がどうのって話じゃ無いんだけど。
そう思ったがデータ相手に怒りを露わにするのも子供じみているので、仕方無く受け流した。烏羽のモデルを作った人は出て来て欲しい。凄くむかつくヤツに仕上がってますね、と賞賛したい。
なお、靴は本当に靴箱の中に入っていた。データをゲームに読み込ませた覚えは全くないが、概ね自宅の靴箱と同じ物が並んでいたと言える。ちょっとこのゲームが恐くなってきたのだが。
そして烏羽がチラッと溢していた、門。
成程それはそれは立派な造りだった。木製で、ぴったりと閉じたそれは自分の細腕では押しても引いても開ける事は出来ないだろう。
「さあ、着きましたよ。端末を取り出して下さい。門の輪力に呼応して、行き先が選択出来るようになっているはずです」
「えっ、何このシステム……そっか、ここに来ないとストーリーに進めないんだ」
「ええ、ええ。そうですとも。まさか、ぼたん一つでどこへでも行けるなどと思っていたのではありませんか? ええ、実に浅慮。げぇむとやらに侵された召喚士殿は何でも指先一つで解決できると思っているだなんて!」
――別にそこまでは思ってないわ!
いちいち大袈裟で、そして一言多い。意地の悪そうな笑みを浮かべた彼は、こちらの様子を伺っているようだが普通に無視した。イラッとはするが、腹は立たない。所詮彼は決められた台詞を再生しているだけだからだ。
気を取り直してスマートフォンに視線を落とす。行き先は現状、一つだけだ。『阿久根村』と書かれている。マップなどはなく、バナーが表示されているだけだ。
「やるか……」
さて、初めてのストーリー。昨日はチュートリアルだけで疲れてしまったので、今日こそは一歩前進したい所存である。
やる気と闘志を燃やしながら、いざバナーをタップ。瞬間、眼前にある巨大な門が自動ドアよろしくゆったりと開け放たれた。
門の向こう側はよく見えない。ねじくれた空間のみが広がっており、社の外がどうなっているのかさっぱり不明だ。
「フフ、それでは召喚士殿。早速、世界を救う冒険……フフフッ、に参りましょうか」
「滅茶苦茶笑うじゃん」
「ええ、ええ! もう、私、おかしくて! ンッフフフフ! いえ、失礼!」
一人で楽しそうな烏羽を差し置き、恐る恐る花実は門を通り抜けた。視界が数秒だけ歪んだような気がしたものの、刹那には視界が開ける。
先程までボロボロではあるが立派な社にいたはずなのだが、気付けば林の中に移動していた。通り抜けてきた門は跡形も無く、自分以外には烏羽がいるだけだ。
「ちょっと、ログアウトは……?」
急用が出来てストーリーを一時中断しなければならなくなったら事だ。近々、通販で頼んだ荷物が宅配される可能性もあるし。
慌てて持っているスマホを弄くる。きちんと『ログアウト』のバナーが大きく表示されていた。これをタップすれば、ストーリーを中断できるのだろう。安心した。宅配業者に不在票を入れさせてしまうのは申し訳無い。家に居ると言うのにどういう嫌がらせだと思われてしまう。
一安心して顔を上げると、いつの間にか正面に回ってきていた烏羽から見下ろされていた。吃驚して息を呑む。結構な巨体だと言うのに気配がなさ過ぎた。
「確認は済みましたか? ええ、では阿久根村へと向かいましょう。こちらです」
言われるがまま、烏羽の背を追う。
それにしても天気があまりよろしくない。薄雲が立ちこめた空は、雨こそ降り出しそうにないが、晴天という訳でもなくどんよりとした気分にさせる。気温もどことなく低い気がするし、天候としては悪いの一言に尽きた。こんな所までリアルに表現しなくともいいのに。
空を見ていた事に気付いたのか、不意に烏羽が口を開く。
「雨ならば降りませんよ。汚泥の影響で周辺の輪力が、絶えず枯渇している状況にありますので。この不安定な空模様のまま、維持・固定される事でしょう。ええ、良い天気ですねえ。鬱陶しい日光もなく、煩わしい雨が降る事も無い! そうは思いませんか?」
「別に……風情が無いねって話だし」
「おや。貴方、風情なんて趣のある物を大事にされるので? 部屋に籠もってげぇむばかりしていると言うのに……」
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