ガチャから不穏なキャラしか出てきません

ねんねこ

文字の大きさ
13 / 74
1話:対神の治める土地

08.汚染地帯(2)

しおりを挟む
 などとロスタイムしている内に、焦れた汚泥の一体が烏羽へと飛び掛かった。この間の汚泥は人型をしていたが、今回は獣のようなシルエット。当然、人間が走るそれよりも速く、そして力強い。

「おっと」

 態とらしく驚いたような声を漏らした烏羽は目を細めると、飛込んで来たそれの首根っこを捕まえ、走って来た方向へと投げ返した。
 しれっとした行動だったが、身体能力の高さに瞠目する。てっきり、ゲームで言う所の後衛向きキャラだと思っていた。だが、そこそこ前に立たせても問題は無いらしい。

 ただ、この汚泥は触れた物を腐敗させる。形容し難い臭いが僅かに漂う。彼の手は焼け爛れたように細く白い湯気を吐き出していた。恐ろしい光景に言葉を失う。何も、ダメージ描写までリアルに近付けなくとも良いのではないだろうか。
 戦慄していると、そんな花実を馬鹿にするかのようにクツクツと彼が喉を鳴らした。

「ええ、ご心配なさらず。輪力さえあれば――ほら、この通り。修復など一瞬ですよ、ええ。ただ、召喚士殿は真似されない方が良いでしょう。貴方が同じ事をすれば、肘から先は無くなっていたかもしれませんねえ」
「……」
「しかし、ふむ、この程度の汚泥に触れただけでこれとは。ええ、なかなかに私も召喚の弊害を受けているという事か……」

 ――もしかして、神使強化メニューの伏線を張っている?
 最後の呟きは、恐らく彼の素だった。

 そんな烏羽はと言うと、負傷した左手から淡い緑の光が溢れたかと思うと爛れたような傷跡は消えて無くなっていた。この世界で言う所の術と言うのは、魔法だとか何だとかと同じ扱いなのだろうか?
 チュートリアルの戦闘では水に由来する術も使用していたようなので、広範囲カバー型なのか? いやだが、奴が誰かのカバーに入る所など想像も出来ない。好き勝手して、役割とか何とかに縛られる事など無さそうである。

 ――と、意識を飛ばしている間に事態が進展する。
 パチン、と音を鳴らして手を合わせた烏羽の周囲に水の気配が満ちた。不純物など一切混ざっていなさそうな、飲んだら美味しそうな透き通った清廉な水。そういえば、彼が何かをする時はいつもこれだ。

「――これしか使えないのかな……」
「はい? 今何と仰いました? ええ、まさか見ているだけの分際で私に嫌味だとかを……」
「いや、別に……属性的な物があるのなら、水属性なのかなって」
「属性……ええ、随分と俗物且つ型に嵌った物言いをされますね。水気の術は馴染むので、気を抜けばこればかり使っていましたが――ええ、他でもない貴方様がつまらないなどと仰るのであれば、次は気を付けましょう! ええ!」

 最後の方は嘘だ。気持ちと出た言葉が合致していないのだろう。実際は「小娘が生言いやがって」などと思っている可能性あり。

 出現した大量の水が獣の形をした汚泥を飲み込む。3体いた内の2体は濁流に呑み込まれ、全身を溶かし崩すように消えて行った。もう一体は木の上に上り、直撃を免れる。流石の獣、身体能力が高い――
 瞬間、獣型の汚泥が木の枝から直接、烏羽に襲い掛かった。アニメや映画で見る事もある光景だが、実際にはあんな恐ろしい速度と恐怖を感じるものなのか。狙われた訳でもないのに、花実は息を呑んだ。

 しかし、当の神使は慌てず騒がず。小さく鼻を鳴らすと、余裕の反射速度で左手を真横に凪いだ。それはただの手刀ではない。彼が腕を振るうと同時、漂っていた水がその動きに合わせて舞う。
 例えるならばウォータージェット。水を撒き散らしながら汚泥を両断したそれは、背後の罪なき木々をも同時に切り倒した。

「――ふむ、ざっとこのような物です。ええ、特に面白くもありませんでしたね。所詮は汚泥、という訳です」
「あ、お、おつかれ」
「おやおや、私を労るという発想があったのですね。ええ。働かせるだけ働かせて、無視放置かと思いました」

 手に着いた汚れを払い、髪を整えている烏羽を尻目に考える。
 最初のクエストとは言え、こんなにあっさり勝ててしまって良かったのだろうか。あまりにも苦労せず汚泥戦をクリアしてしまった。
 というかそもそも、薄桜の言葉を無視して村の外に出るルートは、果たして正規ルートと言えるのか? あの人の良さそうな彼女の感じからして、こうも敵対するのがよく分からない。
 想定されたストーリーから大きく外れているのではないか、とあり得ない予感ばかりが渦を巻く。

「召喚士殿。また考え事ですか? ええ、私のようなお人形には貴方様の考えなど、まるで分かりませんが……噂の正体、まだ確かめ終わっていませんよ」
「……うん」
「分かっておられないようですねぇ、はい。薄桜の密談相手……我々を攻撃してこないとも限りませんよ。あまりボンヤリされると、あっと言う間に人生を終える事になってしまいますとも!」

 珍しくマトモな事を言う神使の顔を見上げる。胡散臭い笑みを、それはもう態とらしく手向けられた。これは同寮に疑われても仕方が無い。彼が嬉々として「世界を救います!」などと言い出そうものならば、発熱を疑う事だろう。
 見なかった事にして、どちらへ進むべきかを思案する。とは言ってもあまり村から離れ過ぎるのは危険だ。

「まさか、行き先に悩んでいます? ならば、沈没地帯にまで歩を進めてみては如何ですか。ええ。一言、汚泥の底に町や村が沈んでいると伝えても、なかなか想像できないでしょう?」
「ならそうしようかな」
「良い景色だといいですねぇ、召喚士殿」

 からかうような声音。確実に遊ばれてはいるが、確かに汚泥の底に沈むという概念を確かめてみたくもある。烏羽の胡散臭さは見ない事にして、早速林の奥へ奥へと歩を進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...