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1話:対神の治める土地
12.対神(3)
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もれなく満身創痍の薄藍に対し、薄桜が術を掛け始める。淡い緑色の光――これは多分、烏羽も使っていた治療系の術なのだろう。特に腹部辺りを重点的に治療しているようだ。
――これ、本当にこの流れで合ってるか……?
1話目からこんなに薄暗いストーリーのゲームなんて存在するのだろうか。自分の記憶が正しければ、ストーリー内容についてダークファンタジーなどの文言はなかったはずだが。
本当にこの流れで間違いがないのなら、炎上不可避のシナリオのような気がしてならない。いや、1話目からこれならプレイヤーが振るいに掛けられて逆に鬱ゲー好きしか残らない可能性もある。
考え込んでいると、不意にそれまで黙っていた烏羽の腕が伸びてきた。ここから前へ出るな、と言わんばかりにこちらの動きを制止している。
「なに?」
「ええ、お目覚めのようですね。薄藍が」
強制的に数歩、下がらされた。
見れば、薄藍が僅かに身動ぎしている。結構洒落にならない部分に烏羽の足が食い込んでいたように思えるが――
「ゴホゴホッ!!」
やがて、盛大に噎せた彼は身を起こし、仰向けからうつ伏せの体勢に変える。ごほごほ、と更に数度噎せて嘔吐いて、その口から何かを吐き出した。
もう何度目かになる独特の色をしたコールタール状の物体――チュートリアルを含めれば、2度程襲い掛かってきた件の汚泥に間違いなかった。吐き出されたそれは瞬時に蛇のような形状に変化、異様に素早い動きで汚泥溜まりの中へ飛込んで一体化する。
「おや……」
何故か少し残念そうに、烏羽が肩を竦めた。
肩で息をする薄藍の呼吸音が徐々に落ち着いた物へと変わる。やがて、今度こそ上半身を起こし、ボンヤリと周囲を見回した。
「薄藍! だ、大丈夫……?」
薄桜の問いには多少の疑念が見え隠れしていたように思われる。多分彼女もまた、彼の様子がずっとおかしかった事を知っていたのだろう。
問いに対し薄藍が、やはり烏羽と対戦する前よりもずっと落ち着いた口調で応じる。
「……大丈夫。えっと、僕は何をして……?」
「忘れちゃったの?」
「いや。うっすらとは覚えているような……。でも僕は確か、隣街にいたはずで……?」
「ううん、いいの。そんな事は。あなたが正気に戻ったのなら――」
瞬間、「良い訳がないでしょう!」と滑り込むように烏羽が口を開いた。少し前より落ち着いてはいるが、顔には隠しきれない愉悦が滲んでいる。
「ええ、薄藍殿。貴方がやらかして下さった事は『そんな事』で済むお話ではありませんとも! はは、忘れたとは言わせませんよぉ。貴方、主神が遺した召喚士という手札を今まさに! 殺害しようとした事――到底、受け流せるものではありませんねぇ、ええ!」
「烏羽殿……。勿論、その件に関しては朧気ではありますが、記憶にあります」
「そうでしょう! それに、薄桜殿。今、何を以て彼が正気に戻ったと断定したので? 演技、かもしれませんよ。ええ。我々が油断している所を背後から――などと。そう企んでいるのかもしれません、ええ」
「えっ、でも元凶っぽいのを吐き出したみたいじゃない?」
「頭はお花畑ですか? ええ、前々から思ってはおりましたが。ともあれ、私が言いたい事というのは単純にして明快。そこの逆賊、今すぐに始末した方がよろしいかと。ええ、汚泥を操っていた様子も確認しております。何より、神使は要都町村の守護結界を通り抜け出来ます。ええ、そのまま其奴を放置していれば、開けた穴から汚泥の出入りがし放題ですよ。はい」
「逆賊って……」
すぐさま薄桜の顔に怒りの色が差す。一方で始末した方が良い、とまで言われた薄藍は冷静沈着だった。前までの様子のおかしさが嘘のようである。
「――召喚士殿がそう望まれるのでしたら、従いましょう。正気では無かったとはいえ、貴方を殺めようとしたのは事実。判断は主神の手札に。烏羽殿ではなく、です」
「薄藍!? ど、どうしてそんな事を……!」
「どうして、か。事実だからとしか……」
「そういう所! ああもう、前からそうなんだから!」
胡乱げに視線を彷徨わせた薄桜の薄い色をした瞳が、花実へと向けられる。あまりにも必死な強い光を湛えた双眸に息が詰まった。彼女は本当に必死なのだと理解させられる。
「ねえ、召喚士様、きっと薄藍は貴方の役にも立つわ。だからそう、始末なんてそんな……恐ろしい事、したりはしないよね? お願い。大事な対神なの」
「……村の人があなたと薄藍さん? が、外で話しているのを見たって言ってたけど、それは本当?」
「? あ、見られてたのね……。それはまあ、うん。本当の事よ。私は夜中に何度か、薄藍と話をしていた」
――嘘は吐いていない。
物語をきちんと終わらせる為に、ある程度プレイヤーの介入が必要な事には薄々気付いていた。神使が敵に回る事があるとも今回で学習した。であれば、薄藍と薄桜がそもそもどちらも敵になりうる可能性だってきっとある。
花実は続けて質問した。いや、薄桜は確実に白なのだが純粋な好奇心で。
「何の話をしていたのかな?」
「薄藍の様子がおかしかったから、正気に戻らないか説得していたの。当然、村に入ってこないように監視も兼ねていたわ」
「汚泥側、つまり危険な存在だって分かっていてそうしたの?」
「そう、ね。分かってた。でも! でも、薄藍は私に襲い掛かってきたりしなかったから。だから、汚泥を引き連れていた事も本意では無いと思っていたわ……」
やはり嘘は吐いていない。
薄桜にとって、薄藍は差ほど脅威ではなかったのだろう。村に張られている結界は神使であれば自由に通り抜け可能。だけど、村人達は汚泥が入ってきたという旨の話はしていなかった。
それに烏羽と戦っている時の薄藍も、シンプルに正気とは言えない状態だったのは確かだ。
対神――強い絆で結びついているからこそ、薄桜のいる阿久根村への進行を踏み止まっていた? 結局の所、真相は彼自身のみが知る所だが。
――これ、本当にこの流れで合ってるか……?
1話目からこんなに薄暗いストーリーのゲームなんて存在するのだろうか。自分の記憶が正しければ、ストーリー内容についてダークファンタジーなどの文言はなかったはずだが。
本当にこの流れで間違いがないのなら、炎上不可避のシナリオのような気がしてならない。いや、1話目からこれならプレイヤーが振るいに掛けられて逆に鬱ゲー好きしか残らない可能性もある。
考え込んでいると、不意にそれまで黙っていた烏羽の腕が伸びてきた。ここから前へ出るな、と言わんばかりにこちらの動きを制止している。
「なに?」
「ええ、お目覚めのようですね。薄藍が」
強制的に数歩、下がらされた。
見れば、薄藍が僅かに身動ぎしている。結構洒落にならない部分に烏羽の足が食い込んでいたように思えるが――
「ゴホゴホッ!!」
やがて、盛大に噎せた彼は身を起こし、仰向けからうつ伏せの体勢に変える。ごほごほ、と更に数度噎せて嘔吐いて、その口から何かを吐き出した。
もう何度目かになる独特の色をしたコールタール状の物体――チュートリアルを含めれば、2度程襲い掛かってきた件の汚泥に間違いなかった。吐き出されたそれは瞬時に蛇のような形状に変化、異様に素早い動きで汚泥溜まりの中へ飛込んで一体化する。
「おや……」
何故か少し残念そうに、烏羽が肩を竦めた。
肩で息をする薄藍の呼吸音が徐々に落ち着いた物へと変わる。やがて、今度こそ上半身を起こし、ボンヤリと周囲を見回した。
「薄藍! だ、大丈夫……?」
薄桜の問いには多少の疑念が見え隠れしていたように思われる。多分彼女もまた、彼の様子がずっとおかしかった事を知っていたのだろう。
問いに対し薄藍が、やはり烏羽と対戦する前よりもずっと落ち着いた口調で応じる。
「……大丈夫。えっと、僕は何をして……?」
「忘れちゃったの?」
「いや。うっすらとは覚えているような……。でも僕は確か、隣街にいたはずで……?」
「ううん、いいの。そんな事は。あなたが正気に戻ったのなら――」
瞬間、「良い訳がないでしょう!」と滑り込むように烏羽が口を開いた。少し前より落ち着いてはいるが、顔には隠しきれない愉悦が滲んでいる。
「ええ、薄藍殿。貴方がやらかして下さった事は『そんな事』で済むお話ではありませんとも! はは、忘れたとは言わせませんよぉ。貴方、主神が遺した召喚士という手札を今まさに! 殺害しようとした事――到底、受け流せるものではありませんねぇ、ええ!」
「烏羽殿……。勿論、その件に関しては朧気ではありますが、記憶にあります」
「そうでしょう! それに、薄桜殿。今、何を以て彼が正気に戻ったと断定したので? 演技、かもしれませんよ。ええ。我々が油断している所を背後から――などと。そう企んでいるのかもしれません、ええ」
「えっ、でも元凶っぽいのを吐き出したみたいじゃない?」
「頭はお花畑ですか? ええ、前々から思ってはおりましたが。ともあれ、私が言いたい事というのは単純にして明快。そこの逆賊、今すぐに始末した方がよろしいかと。ええ、汚泥を操っていた様子も確認しております。何より、神使は要都町村の守護結界を通り抜け出来ます。ええ、そのまま其奴を放置していれば、開けた穴から汚泥の出入りがし放題ですよ。はい」
「逆賊って……」
すぐさま薄桜の顔に怒りの色が差す。一方で始末した方が良い、とまで言われた薄藍は冷静沈着だった。前までの様子のおかしさが嘘のようである。
「――召喚士殿がそう望まれるのでしたら、従いましょう。正気では無かったとはいえ、貴方を殺めようとしたのは事実。判断は主神の手札に。烏羽殿ではなく、です」
「薄藍!? ど、どうしてそんな事を……!」
「どうして、か。事実だからとしか……」
「そういう所! ああもう、前からそうなんだから!」
胡乱げに視線を彷徨わせた薄桜の薄い色をした瞳が、花実へと向けられる。あまりにも必死な強い光を湛えた双眸に息が詰まった。彼女は本当に必死なのだと理解させられる。
「ねえ、召喚士様、きっと薄藍は貴方の役にも立つわ。だからそう、始末なんてそんな……恐ろしい事、したりはしないよね? お願い。大事な対神なの」
「……村の人があなたと薄藍さん? が、外で話しているのを見たって言ってたけど、それは本当?」
「? あ、見られてたのね……。それはまあ、うん。本当の事よ。私は夜中に何度か、薄藍と話をしていた」
――嘘は吐いていない。
物語をきちんと終わらせる為に、ある程度プレイヤーの介入が必要な事には薄々気付いていた。神使が敵に回る事があるとも今回で学習した。であれば、薄藍と薄桜がそもそもどちらも敵になりうる可能性だってきっとある。
花実は続けて質問した。いや、薄桜は確実に白なのだが純粋な好奇心で。
「何の話をしていたのかな?」
「薄藍の様子がおかしかったから、正気に戻らないか説得していたの。当然、村に入ってこないように監視も兼ねていたわ」
「汚泥側、つまり危険な存在だって分かっていてそうしたの?」
「そう、ね。分かってた。でも! でも、薄藍は私に襲い掛かってきたりしなかったから。だから、汚泥を引き連れていた事も本意では無いと思っていたわ……」
やはり嘘は吐いていない。
薄桜にとって、薄藍は差ほど脅威ではなかったのだろう。村に張られている結界は神使であれば自由に通り抜け可能。だけど、村人達は汚泥が入ってきたという旨の話はしていなかった。
それに烏羽と戦っている時の薄藍も、シンプルに正気とは言えない状態だったのは確かだ。
対神――強い絆で結びついているからこそ、薄桜のいる阿久根村への進行を踏み止まっていた? 結局の所、真相は彼自身のみが知る所だが。
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