ガチャから不穏なキャラしか出てきません

ねんねこ

文字の大きさ
17 / 74
1話:対神の治める土地

12.対神(3)

しおりを挟む
 もれなく満身創痍の薄藍に対し、薄桜が術を掛け始める。淡い緑色の光――これは多分、烏羽も使っていた治療系の術なのだろう。特に腹部辺りを重点的に治療しているようだ。
 ――これ、本当にこの流れで合ってるか……?
 1話目からこんなに薄暗いストーリーのゲームなんて存在するのだろうか。自分の記憶が正しければ、ストーリー内容についてダークファンタジーなどの文言はなかったはずだが。
 本当にこの流れで間違いがないのなら、炎上不可避のシナリオのような気がしてならない。いや、1話目からこれならプレイヤーが振るいに掛けられて逆に鬱ゲー好きしか残らない可能性もある。

 考え込んでいると、不意にそれまで黙っていた烏羽の腕が伸びてきた。ここから前へ出るな、と言わんばかりにこちらの動きを制止している。

「なに?」
「ええ、お目覚めのようですね。薄藍が」

 強制的に数歩、下がらされた。
 見れば、薄藍が僅かに身動ぎしている。結構洒落にならない部分に烏羽の足が食い込んでいたように思えるが――

「ゴホゴホッ!!」

 やがて、盛大に噎せた彼は身を起こし、仰向けからうつ伏せの体勢に変える。ごほごほ、と更に数度噎せて嘔吐いて、その口から何かを吐き出した。
 もう何度目かになる独特の色をしたコールタール状の物体――チュートリアルを含めれば、2度程襲い掛かってきた件の汚泥に間違いなかった。吐き出されたそれは瞬時に蛇のような形状に変化、異様に素早い動きで汚泥溜まりの中へ飛込んで一体化する。

「おや……」

 何故か少し残念そうに、烏羽が肩を竦めた。
 肩で息をする薄藍の呼吸音が徐々に落ち着いた物へと変わる。やがて、今度こそ上半身を起こし、ボンヤリと周囲を見回した。

「薄藍! だ、大丈夫……?」

 薄桜の問いには多少の疑念が見え隠れしていたように思われる。多分彼女もまた、彼の様子がずっとおかしかった事を知っていたのだろう。
 問いに対し薄藍が、やはり烏羽と対戦する前よりもずっと落ち着いた口調で応じる。

「……大丈夫。えっと、僕は何をして……?」
「忘れちゃったの?」
「いや。うっすらとは覚えているような……。でも僕は確か、隣街にいたはずで……?」
「ううん、いいの。そんな事は。あなたが正気に戻ったのなら――」

 瞬間、「良い訳がないでしょう!」と滑り込むように烏羽が口を開いた。少し前より落ち着いてはいるが、顔には隠しきれない愉悦が滲んでいる。

「ええ、薄藍殿。貴方がやらかして下さった事は『そんな事』で済むお話ではありませんとも! はは、忘れたとは言わせませんよぉ。貴方、主神が遺した召喚士という手札を今まさに! 殺害しようとした事――到底、受け流せるものではありませんねぇ、ええ!」
「烏羽殿……。勿論、その件に関しては朧気ではありますが、記憶にあります」
「そうでしょう! それに、薄桜殿。今、何を以て彼が正気に戻ったと断定したので? 演技、かもしれませんよ。ええ。我々が油断している所を背後から――などと。そう企んでいるのかもしれません、ええ」
「えっ、でも元凶っぽいのを吐き出したみたいじゃない?」
「頭はお花畑ですか? ええ、前々から思ってはおりましたが。ともあれ、私が言いたい事というのは単純にして明快。そこの逆賊、今すぐに始末した方がよろしいかと。ええ、汚泥を操っていた様子も確認しております。何より、神使は要都町村の守護結界を通り抜け出来ます。ええ、そのまま其奴を放置していれば、開けた穴から汚泥の出入りがし放題ですよ。はい」
「逆賊って……」

 すぐさま薄桜の顔に怒りの色が差す。一方で始末した方が良い、とまで言われた薄藍は冷静沈着だった。前までの様子のおかしさが嘘のようである。

「――召喚士殿がそう望まれるのでしたら、従いましょう。正気では無かったとはいえ、貴方を殺めようとしたのは事実。判断は主神の手札に。烏羽殿ではなく、です」
「薄藍!? ど、どうしてそんな事を……!」
「どうして、か。事実だからとしか……」
「そういう所! ああもう、前からそうなんだから!」

 胡乱げに視線を彷徨わせた薄桜の薄い色をした瞳が、花実へと向けられる。あまりにも必死な強い光を湛えた双眸に息が詰まった。彼女は本当に必死なのだと理解させられる。

「ねえ、召喚士様、きっと薄藍は貴方の役にも立つわ。だからそう、始末なんてそんな……恐ろしい事、したりはしないよね? お願い。大事な対神なの」
「……村の人があなたと薄藍さん? が、外で話しているのを見たって言ってたけど、それは本当?」
「? あ、見られてたのね……。それはまあ、うん。本当の事よ。私は夜中に何度か、薄藍と話をしていた」

 ――嘘は吐いていない。
 物語をきちんと終わらせる為に、ある程度プレイヤーの介入が必要な事には薄々気付いていた。神使が敵に回る事があるとも今回で学習した。であれば、薄藍と薄桜がそもそもどちらも敵になりうる可能性だってきっとある。
 花実は続けて質問した。いや、薄桜は確実に白なのだが純粋な好奇心で。

「何の話をしていたのかな?」
「薄藍の様子がおかしかったから、正気に戻らないか説得していたの。当然、村に入ってこないように監視も兼ねていたわ」
「汚泥側、つまり危険な存在だって分かっていてそうしたの?」
「そう、ね。分かってた。でも! でも、薄藍は私に襲い掛かってきたりしなかったから。だから、汚泥を引き連れていた事も本意では無いと思っていたわ……」

 やはり嘘は吐いていない。
 薄桜にとって、薄藍は差ほど脅威ではなかったのだろう。村に張られている結界は神使であれば自由に通り抜け可能。だけど、村人達は汚泥が入ってきたという旨の話はしていなかった。
 それに烏羽と戦っている時の薄藍も、シンプルに正気とは言えない状態だったのは確かだ。
 対神――強い絆で結びついているからこそ、薄桜のいる阿久根村への進行を踏み止まっていた? 結局の所、真相は彼自身のみが知る所だが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

暗殺者の少女、四大精霊に懐かれる。〜異世界に渡ったので、流浪の旅人になります〜

赤海 梓
ファンタジー
「…ここは、どこ?」  …私、そうだ。そういえば… 「貴女、ここで何をしておる」 「わっ」  シュバッ 「…!?」  しまった、つい癖で回り込んで首に手刀を当ててしまった。 「あっ、ごめんなさい、敵意は無くて…その…」  急いで手を離す。  私が手刀をかけた相手は老人で、人…であはるが、人じゃない…? 「ふははは! よかろう、気に入ったぞ!」 「…え?」  これは暗殺者として頂点を飾る暗殺者が転生し、四大精霊に好かれ、冒険者として日銭を稼ぎ、時に人を守り、時に殺め、時に世界をも救う…。そんな物語である…!

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...