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2話:悪意蔓延る町
10.三人の神使(3)
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召喚士である花実が黙り込んだせいか、灰梅が少し困ったように眉根を寄せてゆったりと首を傾げる。
「あらあら、召喚士ちゃんが困ってしまっているわぁ。そうよね、知らない神使に囲まれたら恐いもの」
「灰梅サン。さっきも言ったけど、召喚士だって証明できないんすよ、この人等。それに烏羽サンって……。その辺の人間を操ってここまで連れてきたんじゃない?」
「そうねぇ。烏羽さんは~、本当に申し訳無いのだけれど、ちょっと信用出来ないわ。そうでしょう、褐返くん?」
はは、と褐返が笑う。明らかに愛想笑いというか、胡散臭い笑顔だった。
「そんな事ないんじゃない? 大兄殿だって、この緊急事態で召喚士についてでっち上げするなんて、つまらない事はしないと思うけど」
「というか、褐返サンの意見は参考にならないっす。だって、同じ黒だし身内みたいなもんでしょ」
「色ごとに俺達をまとめるの、もうそろそろ止めない? お兄さん、傷付いちゃう」
褐返の烏羽に対する評価は全て嘘だった。
それはともあれ、何故この場では『召喚士が本物か否か』について大揉めに揉めているのだろうか。烏羽が信用出来ないのは分かるが、言っちゃ何だがこの空間に新たな人物が入ってきたのを快く思っていないようだ。
苛ついた様子の薄群青が手っ取り早くか、烏羽に訊ねる。
「もうぶっちゃけ、実際は俺等の事をからかって遊んでるんでしょ? 烏羽サン」
「いいえ。先程も申し上げた通り、此度の私は召喚士殿の忠実なる僕……。ええ! 主人の言う事にのみ、従いますとも!」
「嘘臭いんだよなぁ……」
普段ならば薄群青の言葉は正しいだろうが、恐ろしい事に今の烏羽は嘘を吐いていない。本当に自身を下僕であるとそう言い、召喚士に従うと明言したのである。喜ばしい事ではあるが、彼の素行を見るに不気味でしかない。
まあ確かに、とここにきて褐返が薄群青の意見に便乗する。
「この騒動の最中、急に現れれば怪しくはあるよね。ごめんね、召喚士ちゃん。立て込んでる時に来ちゃったせいで、嫌な思いをさせちゃって」
「はあ……。騒動とは?」
自分達が城月の町へ踏み入る前から、何らかのトラブルが起こっていたらしい。問いに対し、人の良さそうな顔をした灰梅が口を開く。
「それがねぇ、少し前から――」
「灰梅サンってば! 得体の知れない連中に、状況をホイホイ話すの止めて貰っていっすか。ホント」
「あらあら、それは可哀相じゃない? 少なくとも、召喚士を名乗る彼女はただの人間なのに~。状況も知らずに巻き込まれてポックリ、だなんて。酷い話だわぁ」
そうだぞ、とまたも褐返が他者の意見に便乗する。
「本当に召喚士だったら、主神への不敬じゃ済まないんだしさ。もっと余裕を持って行こうぜ、薄群青くんよ」
「アンタ達は落ち着き過ぎなんだって……! そうやって余裕ぶっこいてるから、こうして町からも出られず、籠城戦なんかする事になったんじゃないんすか。困るんすよ、輪力も無限じゃないのに」
カリカリとしている薄群青は、フリースペースで見た他人の彼より言動が荒い。相当苛ついている事が伺えた。
しかし、褐返も言われてばかりではない。肩を竦めたその人は、少し低い声で威嚇するように言葉を返す。
「そうは言っても、この状況だからこそ召喚士ちゃんが現れた可能性だってゼロじゃない。追い返すのは簡単だが、状況を変える事が出来る第三者を考え無しに追い払うのは現実的じゃないな」
「何言ってんすか。本当に召喚士だったら、ここにいられるとマズいから邪険にしてるんでしょ。やけに城月に留まらせたがるっすね、褐返サン。なに? もしかして、召喚士の暗殺とか企んでる感じの黒幕なんすか? それならまあ、納得だけど」
「暗殺って、人聞きの悪い。それってさ、君がそんな事を企んでるから思い付いたんじゃないの? そうやって召喚士ちゃんをこの場から追い払って、独りになった時に――みたいな?」
なおも啀み合う2人が口を開こうとした所で、それまで事の成り行きを眺めていた灰梅がその手を打ち鳴らした。乾いた音が室内に反響する。
「はいは~い。止まって止まって。あの子がどうであれ~、お客様の前なのよ。みっともない真似はお止めなさいな。見苦しいわぁ」
気の抜ける喋り方の彼女に対し、男性陣が深く溜息を吐く。肺に溜まった棘を吐き出すかのような、そんな溜息だった。
話題の主導権を握った灰梅が畳みかけるように、しかしどこか柔らかな口調で言葉を続ける。
「まずは召喚士ちゃんを、これからどうするのか考えましょう? 烏羽さんは~、確かにとーっても怪しい方だけれど、味方であるならそれに越した事は無いわぁ。単純に強いもの」
「まあ確かに、現状、大兄殿を突き回して敵対するのは馬鹿馬鹿しいねえ。争いになった時に、怪我じゃ済まないからさ」
「そういう事~。ところで烏羽さん。さっきからずぅっと黙っているけれど、何か言いたい事はないのかしら? わたし達だけでお話を進めてしまっているのだけれど」
ええ、と目を細めた烏羽は抑えきれない笑い声を喉から漏らしている。完全に真面目に話を聞いている態度ではない。
「んふふふ、ああ、失礼。ええ、どうぞ。お好きになさって下さい。召喚士殿が止めなければ、私も止めは致しません。ええ」
「随分と楽しそうっすね、烏羽サン。アンタそういう所、ホント信用出来ないから」
「信用など……。ええ、不要の長物というアレですのでお気遣いは結構ですよ。はい」
「食えない奴……」
非常に嫌そうな顔をした薄群青だったが、議題である『召喚士の処遇をどうするか』をきちんと考えていたらしい。一旦、烏羽の事を頭から閉め出した彼が折衷案を口にする。
「取り敢えず、自称・召喚士サンをどうするかだけど、今日は宿にいて貰えば良いんじゃないっすか。急に現れたから、ちょっと取り扱いも考えてなかったし。放逐はしたくないから、宿に入れときましょうよ」
「言い方は引っ掛かるけど、それが一番現実的かね。勿論、ちゃんとお持て成しはするさ。召喚士らしいし」
最後の方は独り言のように漏らした褐返が、不意に烏羽を見やる。彼等の間には明確な序列が横たわっているようだった。
「そういう訳なんだけど、良いですかね。大兄殿。気が変わって難癖付けられるのは嫌なんだけど」
「お前は私の話をまるで聞きませんねえ、ええ。ですから、召喚士殿の意思に委ねます、と先程からそう言っているのですが」
「こりゃ失礼。それでいいかい、召喚士ちゃん?」
現代日本人には目まぐるしく変わる現状が理解出来なかったので。最早、首振り人形のような体で花実は頷いた。
「あ、うん……」
「そんなに緊張しないで。お兄さんが良い宿を手配しておくからさ。つってもまあ、君にとってそれが『良い』ものであるのかは、お兄さんにも分からんけども」
こうして、神使3人とお近づきになれないまま手配された宿へ撤収する事と相成った。
「あらあら、召喚士ちゃんが困ってしまっているわぁ。そうよね、知らない神使に囲まれたら恐いもの」
「灰梅サン。さっきも言ったけど、召喚士だって証明できないんすよ、この人等。それに烏羽サンって……。その辺の人間を操ってここまで連れてきたんじゃない?」
「そうねぇ。烏羽さんは~、本当に申し訳無いのだけれど、ちょっと信用出来ないわ。そうでしょう、褐返くん?」
はは、と褐返が笑う。明らかに愛想笑いというか、胡散臭い笑顔だった。
「そんな事ないんじゃない? 大兄殿だって、この緊急事態で召喚士についてでっち上げするなんて、つまらない事はしないと思うけど」
「というか、褐返サンの意見は参考にならないっす。だって、同じ黒だし身内みたいなもんでしょ」
「色ごとに俺達をまとめるの、もうそろそろ止めない? お兄さん、傷付いちゃう」
褐返の烏羽に対する評価は全て嘘だった。
それはともあれ、何故この場では『召喚士が本物か否か』について大揉めに揉めているのだろうか。烏羽が信用出来ないのは分かるが、言っちゃ何だがこの空間に新たな人物が入ってきたのを快く思っていないようだ。
苛ついた様子の薄群青が手っ取り早くか、烏羽に訊ねる。
「もうぶっちゃけ、実際は俺等の事をからかって遊んでるんでしょ? 烏羽サン」
「いいえ。先程も申し上げた通り、此度の私は召喚士殿の忠実なる僕……。ええ! 主人の言う事にのみ、従いますとも!」
「嘘臭いんだよなぁ……」
普段ならば薄群青の言葉は正しいだろうが、恐ろしい事に今の烏羽は嘘を吐いていない。本当に自身を下僕であるとそう言い、召喚士に従うと明言したのである。喜ばしい事ではあるが、彼の素行を見るに不気味でしかない。
まあ確かに、とここにきて褐返が薄群青の意見に便乗する。
「この騒動の最中、急に現れれば怪しくはあるよね。ごめんね、召喚士ちゃん。立て込んでる時に来ちゃったせいで、嫌な思いをさせちゃって」
「はあ……。騒動とは?」
自分達が城月の町へ踏み入る前から、何らかのトラブルが起こっていたらしい。問いに対し、人の良さそうな顔をした灰梅が口を開く。
「それがねぇ、少し前から――」
「灰梅サンってば! 得体の知れない連中に、状況をホイホイ話すの止めて貰っていっすか。ホント」
「あらあら、それは可哀相じゃない? 少なくとも、召喚士を名乗る彼女はただの人間なのに~。状況も知らずに巻き込まれてポックリ、だなんて。酷い話だわぁ」
そうだぞ、とまたも褐返が他者の意見に便乗する。
「本当に召喚士だったら、主神への不敬じゃ済まないんだしさ。もっと余裕を持って行こうぜ、薄群青くんよ」
「アンタ達は落ち着き過ぎなんだって……! そうやって余裕ぶっこいてるから、こうして町からも出られず、籠城戦なんかする事になったんじゃないんすか。困るんすよ、輪力も無限じゃないのに」
カリカリとしている薄群青は、フリースペースで見た他人の彼より言動が荒い。相当苛ついている事が伺えた。
しかし、褐返も言われてばかりではない。肩を竦めたその人は、少し低い声で威嚇するように言葉を返す。
「そうは言っても、この状況だからこそ召喚士ちゃんが現れた可能性だってゼロじゃない。追い返すのは簡単だが、状況を変える事が出来る第三者を考え無しに追い払うのは現実的じゃないな」
「何言ってんすか。本当に召喚士だったら、ここにいられるとマズいから邪険にしてるんでしょ。やけに城月に留まらせたがるっすね、褐返サン。なに? もしかして、召喚士の暗殺とか企んでる感じの黒幕なんすか? それならまあ、納得だけど」
「暗殺って、人聞きの悪い。それってさ、君がそんな事を企んでるから思い付いたんじゃないの? そうやって召喚士ちゃんをこの場から追い払って、独りになった時に――みたいな?」
なおも啀み合う2人が口を開こうとした所で、それまで事の成り行きを眺めていた灰梅がその手を打ち鳴らした。乾いた音が室内に反響する。
「はいは~い。止まって止まって。あの子がどうであれ~、お客様の前なのよ。みっともない真似はお止めなさいな。見苦しいわぁ」
気の抜ける喋り方の彼女に対し、男性陣が深く溜息を吐く。肺に溜まった棘を吐き出すかのような、そんな溜息だった。
話題の主導権を握った灰梅が畳みかけるように、しかしどこか柔らかな口調で言葉を続ける。
「まずは召喚士ちゃんを、これからどうするのか考えましょう? 烏羽さんは~、確かにとーっても怪しい方だけれど、味方であるならそれに越した事は無いわぁ。単純に強いもの」
「まあ確かに、現状、大兄殿を突き回して敵対するのは馬鹿馬鹿しいねえ。争いになった時に、怪我じゃ済まないからさ」
「そういう事~。ところで烏羽さん。さっきからずぅっと黙っているけれど、何か言いたい事はないのかしら? わたし達だけでお話を進めてしまっているのだけれど」
ええ、と目を細めた烏羽は抑えきれない笑い声を喉から漏らしている。完全に真面目に話を聞いている態度ではない。
「んふふふ、ああ、失礼。ええ、どうぞ。お好きになさって下さい。召喚士殿が止めなければ、私も止めは致しません。ええ」
「随分と楽しそうっすね、烏羽サン。アンタそういう所、ホント信用出来ないから」
「信用など……。ええ、不要の長物というアレですのでお気遣いは結構ですよ。はい」
「食えない奴……」
非常に嫌そうな顔をした薄群青だったが、議題である『召喚士の処遇をどうするか』をきちんと考えていたらしい。一旦、烏羽の事を頭から閉め出した彼が折衷案を口にする。
「取り敢えず、自称・召喚士サンをどうするかだけど、今日は宿にいて貰えば良いんじゃないっすか。急に現れたから、ちょっと取り扱いも考えてなかったし。放逐はしたくないから、宿に入れときましょうよ」
「言い方は引っ掛かるけど、それが一番現実的かね。勿論、ちゃんとお持て成しはするさ。召喚士らしいし」
最後の方は独り言のように漏らした褐返が、不意に烏羽を見やる。彼等の間には明確な序列が横たわっているようだった。
「そういう訳なんだけど、良いですかね。大兄殿。気が変わって難癖付けられるのは嫌なんだけど」
「お前は私の話をまるで聞きませんねえ、ええ。ですから、召喚士殿の意思に委ねます、と先程からそう言っているのですが」
「こりゃ失礼。それでいいかい、召喚士ちゃん?」
現代日本人には目まぐるしく変わる現状が理解出来なかったので。最早、首振り人形のような体で花実は頷いた。
「あ、うん……」
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