十人十色(旧題:短編集)

星野 夜空

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その他

ねえ、分かって?

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「……本当にごめん」
「そんな、謝らないで良いよ?」
「でも、俺の気が済まないんだ。本当に悪い」

 そう頭を下げるのは、私の許婚いいなずけ。といっても幼い頃の私達が言っていた「結婚しよう」発言を親が本気にしただけなんだけど。親同士が親友だとこういうことがあると聞いたことがあるけど、本当なんだなーって思ったっけ。
 つまり、許婚とは名ばかり。別に約束があるわけでもなんでもない。だから、こうして謝るのは筋違いというやつだ。
 私も別の人が好きなのに目の前の人だけ謝るなんて、そんなおかしなことないでしょ? 大体大学生にもなって親のいいなりで決まった相手と結婚を視野に入れるほど、私達の家庭は裕福じゃないのに。ああでも、友人として幼馴染として好きだから謝ってる可能性はあるかも。もしくは他人と肌を重ねた、そのことにもしかしたら申し訳なさを感じた、とか?
 だとすれば本当に律儀というか、頭が固いというか。誠実なのか馬鹿正直なのか判断しかねる。

「……じゃあもう破棄しようよ。その方がお互いの為になるでしょ?」
「え? いや、それは……」
「何でどもるの、貴方も私も好きな人がいるのに許婚がいるなんて不誠実でしょ」

 現代日本は一夫一妻制の愛人なんてもっての外なんだから、それが一番手っ取り早いのに。どうして渋るのよ。
 仮に多妻がOKだったとしても、あの人と正式に結婚できるか、この国では怪しいけども。

「それはそうなんだが、それとこれとは話が」
「はぁ? 何それ、舐めてるの?」
「違うんだよ、あいつとはセフレで、今は関係ないけどお前以外を抱いたことに罪悪感が」
「さ……っいてい!」

 肉を打ついい音がすると同時に手が痺れる。こうして人の頬を叩くの初めてだ。早々あるものでもないけど。
 それよりもセフレ呼ばわりってどういうこと? 私に何て相談しに来たか分かってるの?
 知らないにしても酷すぎる。

「貴方は知らないだろうけどね! あの子、好かれて嬉しかったって言ってきたのよ! 想いが通じて嬉しかったって、最近は連絡がなくて寂しいって、挙句突き放されそうだって、私に言ってくるのよ! 親友の私に!」

 ただでさえ天真爛漫、人を疑うことを知らないような子を手にかけて、あまつさえ捨てるような発言。許せるわけがない。
 大事な大事な親友を取られた上に疎かにする? その上セフレ発言? たとえ幼馴染だとしても──幼馴染だからこそ許せないことがある。
 それが、私にとってはあの人だった。
 だって、私だって好きなんだから。
 項垂うなだれる彼を見て、もう1発殴ろうかと思いかけるもやめる。これ以上殴ったり叩いたりしたところで問題が解決するわけじゃない。

「謝る相手も、話す相手も違う。一回頭冷やしてきなさい」

 場所が誰もこない大学の奥ばった所とはいえ、誰かが見てるかも聞いてるかも分からない。早々に立ち去るが吉だ。
 ここまで言って分からない馬鹿ならどうしてくれようかと思ったけど、その夜久々にきた電話で解決することなど、この時の私には考えもしなかった。
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