女剣士の道は険しい?

星野 夜空

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本編

剣舞祭(練習)

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「だからそこの奴ら! やりたくないならやるな、外から見ると分かるんだぞ!」

 これで何度目だろう。同じ箇所で練習が止まることに辟易していると、当の本人達はやらなくて良いという言葉を本気にしたらしく、本当にやらなくなった。
 ああ、外部指導にきてる方のこめかみに青筋が見える。その裏で先生が何やら書いているのも。
 この位置は先生の目があることを知ってるからか、割と真面目にやってる人が多い。逆にあっち側の人達には見えないのか、一言で言うならだらけた態度で練習してる。同じ前列にいて学年ごとに固まってると言ってたし、一年生だろう。
 もしかしたらこれが成績に反映される、ことはないって分かってるけど、素行も意外とチェックされてるのかもしれない。やる気の差も激しいし、憧れてやってるなんて人も少数のようで、全体的にはあの集団と同じ人が多い。私みたいに推薦されて渋々って人もいる可能性だってある。
 だからこそ、中盤に差し掛かるあたりでいつも止めがかかる。それが何でなのかは分からないけど、多分一番大事なところなんだろう。じゃなきゃ、明らかにやりたがってない人にきちんとやれなんて、何度も言わないと思う。
 すると列の後方から、ある案が提案された。私達一年生に本番に使う物を持たせて、以後は練習をさせたらどうかと。
 講師は一瞬渋い顔をしたものの、それが最もな手段だと判断したのだろう。全員に本番に使うとされている真剣を渡された。
 いつも模擬戦で使う木刀や、練習用の刃を潰した安全な剣ではなく、触れれば切れ、人を怪我させる。本物のつるぎだ。
 流石に驚いたのか、連中は騒ぐこともせずに困惑してる。その気持ちは、何だか分かる気がする。言っちゃ悪いがたかが祭に何故。それも技術がなっていない学生に持たせるなんて、危ないんじゃ。
 もしかして、その為に毎回止めてる? そうじゃなかったら、ここまで真面目にやれなんて言わないよね。

「どうして真剣なのか、一年の君らは分からんだろう。だがな、こればかりは本番でないと、それも心から舞う者にしか理解できない理屈なんだ。
 それに、前半にあたるここまでは一人で舞う部分だが、ここから先は斬り結ぶことを中心とする舞。適当にやっていたら相手は勿論、自分だって危ないことを知ってほしい」

 予想通りの言葉は、多分そこまで理解してなかったのだろう。件の人達がようやくといった具合に顔色が変わり、強張っていた。

「もちろん、人から押しつけられた人もいて、やりたくないと思う気持ちも分かる。だけどな、ここまできたからにはやるしかない。今から辞める、新しい人を入れるなんてことはもう出来ないんだ」

 そう、初めての練習の日、やりたくない人、体力に自信のない人、剣を扱ったことがない人は出ていってくれと言われた。先輩達が誰も出なかったこととドアから遠い位置に座っていたこともあって、明らかに剣を扱ったことがないと分かる数人だけ出ていった。
 残った私達には、様々な注意事項を言い渡されて授業の後は勿論、日付的に余裕のない最近は休日の昼間まで練習するようになった。
 嫌気がさし始めたこともあるのかもしれない。剣を持たされたことで吹っ飛んだけど。
 ようするにもう、腹をくくるしか道は残されてないということだ。
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