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本編
ようこそ。いらっしゃい
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それからまた数日かけて、ようやく故郷に辿り着いた。里帰りなのに旅してきた気分になるのは、隣にいるマリのお陰なのかな。これと言って問題なく来れて良かった。
乗合馬車から下りると、見慣れた人がこっちへ走り寄ってきた。
「ラナ、お帰りなさい! 今か今かと待っていたのよ!」
「ただいまお母さん。手紙届いた?」
「ええ、昨日読んだわ。貴方がマリさん?」
「は、はい。あの、急なお話となってしまって……」
「良いの良いの! この子が友達を泊まらせたいなんて初めてだもの、狭いけど許してね!」
え、と目を見開くマリにどうかしたかと首をかしげる。あ、家が狭いってことに驚いてるのかも。庶民の家なんて初めてだろうし、宿だって二人部屋だけどそこそこ広めだったし、狭い家を想像したのかな。
まあ、確かに狭いけどもさ。
そういえば、泊まりのお客さんなんて初めてだけどどうするんだろ。リビングに寝かすなんてことはしないだろうし……私の部屋になるのかな。それにベッドの用意も。布団文化がないこの国じゃ、寝る=ベッドだ。
その辺りを聞けば、全部心配するなと言われてしまった。子どもが心配することじゃない! とも。あ、でも部屋は私と一緒で合ってるようだった。
☆
久しぶりの我が家は、何というか半年くらいしか経っていないのに妙に懐かしく感じる。積み上げられた薪の匂いとかがそうさせているのかもしれないな。
「馬車で来たなら大変だったでしょ? 夕飯までもう少しあるから、部屋でゆっくり待っていたら?」
「そうしようかな。マリ、こっちだよ」
手を引いて案内した私の部屋は、何も変わりがなかった。お客様用の簡易ベッドが増えたくらいだ。そのせいで余計狭く感じるけど、マリはあんまり気にしてないようなのでちょっとだけ安心した。
誰だって自分の家を馬鹿にされたら嫌だもんね。
「何だか不思議な気分です。人の家に泊まるなど初めてですから」
「あー、マリの両親なら許しそうもないよね」
「そうなんですよ、何かあったらどうするの一点張りで」
「これを機に少しでも子離れしてもらえると良いね」
子離れ? と首をかしげる様子にどう説明したら良いかと思い悩む。道中感じたけど、私って説明下手なのよね。人が分かるように説明するって難しい。
どうにか子どもから精神的に離れられていない親のことを話すと、まさしくうちの親だと言わんばかりにこくこく頷いた。しまいには子離れしてもらうにはどうしたら良いかという、お悩み相談会にまで発展した。
一区切りついたところでノックされる。どうやら夕飯の支度が整ったらしい。気づけばいい匂いが漂ってきていた。
開けると仕事から帰ってきたお父さんが晩酌しながら座って待っていて、盛りつけをし終えたお母さんが冷めちゃうわよと言いながら座るのを促した。
帰ってきたらご馳走にしようと決めていたらしく、いつもより品数が多い。我が家定番のマッシュ状になったポテトはそのままでも十分美味しいし、お母さんお手製のパンにもよく合う。スープはミルクスープにしたのか少し濁ってる。行儀悪いと分かってるけどパンを浸して食べるとその柔らかい甘みが染み渡って私は好きだ。そして何より、野菜の塩漬けが小さな器にこんもりと。保存食の常識である反面、スープに塩味が欲しい時に混ぜて飲めば丁度良くなるし、マッシュポテトで重たくなりがちな口の中をリセットしてくれる、いわば漬物の役割をしてる重要なものだ。
寮のご飯や食堂のランチは美味しいけど、今の親が作ってくれる手料理は心が落ち着く。自分の舌が最も慣れ親しんだ味がこれだから、なんだろうな。
「美味しいです……! 優しくて、暖かくて、柔らかくて……!」
「そう? お口に合ったようで良かったわ」
「マリちゃんだったか? えらい可愛いけど細いな。もっと食べないと駄目だよ」
「年頃の女にそれ言ったら駄目だよお父さん。嫌いになる」
「止めてくれラナ。ごめん許して」
久々の団欒。マリも楽しいと思ってくれたら嬉しいな。
乗合馬車から下りると、見慣れた人がこっちへ走り寄ってきた。
「ラナ、お帰りなさい! 今か今かと待っていたのよ!」
「ただいまお母さん。手紙届いた?」
「ええ、昨日読んだわ。貴方がマリさん?」
「は、はい。あの、急なお話となってしまって……」
「良いの良いの! この子が友達を泊まらせたいなんて初めてだもの、狭いけど許してね!」
え、と目を見開くマリにどうかしたかと首をかしげる。あ、家が狭いってことに驚いてるのかも。庶民の家なんて初めてだろうし、宿だって二人部屋だけどそこそこ広めだったし、狭い家を想像したのかな。
まあ、確かに狭いけどもさ。
そういえば、泊まりのお客さんなんて初めてだけどどうするんだろ。リビングに寝かすなんてことはしないだろうし……私の部屋になるのかな。それにベッドの用意も。布団文化がないこの国じゃ、寝る=ベッドだ。
その辺りを聞けば、全部心配するなと言われてしまった。子どもが心配することじゃない! とも。あ、でも部屋は私と一緒で合ってるようだった。
☆
久しぶりの我が家は、何というか半年くらいしか経っていないのに妙に懐かしく感じる。積み上げられた薪の匂いとかがそうさせているのかもしれないな。
「馬車で来たなら大変だったでしょ? 夕飯までもう少しあるから、部屋でゆっくり待っていたら?」
「そうしようかな。マリ、こっちだよ」
手を引いて案内した私の部屋は、何も変わりがなかった。お客様用の簡易ベッドが増えたくらいだ。そのせいで余計狭く感じるけど、マリはあんまり気にしてないようなのでちょっとだけ安心した。
誰だって自分の家を馬鹿にされたら嫌だもんね。
「何だか不思議な気分です。人の家に泊まるなど初めてですから」
「あー、マリの両親なら許しそうもないよね」
「そうなんですよ、何かあったらどうするの一点張りで」
「これを機に少しでも子離れしてもらえると良いね」
子離れ? と首をかしげる様子にどう説明したら良いかと思い悩む。道中感じたけど、私って説明下手なのよね。人が分かるように説明するって難しい。
どうにか子どもから精神的に離れられていない親のことを話すと、まさしくうちの親だと言わんばかりにこくこく頷いた。しまいには子離れしてもらうにはどうしたら良いかという、お悩み相談会にまで発展した。
一区切りついたところでノックされる。どうやら夕飯の支度が整ったらしい。気づけばいい匂いが漂ってきていた。
開けると仕事から帰ってきたお父さんが晩酌しながら座って待っていて、盛りつけをし終えたお母さんが冷めちゃうわよと言いながら座るのを促した。
帰ってきたらご馳走にしようと決めていたらしく、いつもより品数が多い。我が家定番のマッシュ状になったポテトはそのままでも十分美味しいし、お母さんお手製のパンにもよく合う。スープはミルクスープにしたのか少し濁ってる。行儀悪いと分かってるけどパンを浸して食べるとその柔らかい甘みが染み渡って私は好きだ。そして何より、野菜の塩漬けが小さな器にこんもりと。保存食の常識である反面、スープに塩味が欲しい時に混ぜて飲めば丁度良くなるし、マッシュポテトで重たくなりがちな口の中をリセットしてくれる、いわば漬物の役割をしてる重要なものだ。
寮のご飯や食堂のランチは美味しいけど、今の親が作ってくれる手料理は心が落ち着く。自分の舌が最も慣れ親しんだ味がこれだから、なんだろうな。
「美味しいです……! 優しくて、暖かくて、柔らかくて……!」
「そう? お口に合ったようで良かったわ」
「マリちゃんだったか? えらい可愛いけど細いな。もっと食べないと駄目だよ」
「年頃の女にそれ言ったら駄目だよお父さん。嫌いになる」
「止めてくれラナ。ごめん許して」
久々の団欒。マリも楽しいと思ってくれたら嬉しいな。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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