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本編
準備って……
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同じ王都に住んでいるからか、了承した瞬間あれよあれよと進み、翌日にはマリの家に着いた。早くないかな。
「マリーナ様、お帰りなさいませ」
「ええ、ただいま」
そして屋敷の中に入ったら使用人の方々総出でお出迎えとか初めてだよ。当たり前だけど。圧巻だけど根っからの庶民である私にはちょっと、その、怖いというか。場違い感が半端ない。
当のマリは慣れてますと言わんばかりなのがまた凄い。やっぱりお嬢様なんだね……。
「お帰りすぐで申し訳ありません。まもなく服屋が参りますのでお部屋でお待ちください」
「分かりました。ラナ、こちらです」
「え、あ、うん」
呆けていたら何やら話をしていたらしく、マリの部屋へ案内された。壁は黄色を二段階くらい薄くしたような色味で、全体的に暖かな印象を受ける。ベッドの大きさや固さも、庶民にはそれはそれは手が出せない高級なものと見ただけで分かる代物。その他の家具類もシックでセンスが良い、んじゃないかな。こればかりは好みだからあまり言えない。
でも、なんていうか意外といえば意外。あの両親のことだから、もう少しこう、子どもらしさが出てそうな部屋だと思ってたのに。あくまで予想だし失礼な言い方をすると、だけど。
それが顔にも出ていたのか、クスクスとマリが笑い声をたてた。
「私が寮暮らしを始めると話した時、タカが外れてしまったようで今までの不満を全て話したんです。それから家を出て……。部屋の内装を変えても良いか聞かれたことがあったので、もしやと思ったのですけど。私も見たのは今が初めてです」
驚きですよね、なんて同意を求められてもあいにく私は前の状態を知らない。素直にどう変わったのか聞けば、本当に子どもの部屋から年相応の部屋になった、と言われた。うーん。元は私の想像通りだったってことなのかな?
なんてことを話していると扉のノック音。服屋さんが到着したと使用人の方が告げに来てくれた。
入れてもよろしいでしょうか。ええ、構いませんよ。そんなやり取りを聞くたび、本当にマリは貴族の娘なんだなって感じて、ちょっとだけ寂しさがある。
そんな風に思えていたのも最初だけ。今はげんなりとした気持ちが強い。
「ラナは鍛えていますから、プロポーションが最高ですね。こちらのドレスも合いそうです」
「良いですね、ではこちらとこちらのアクセサリーはいかがでしょうか」
「髪飾りは先ほどの青もよろしいですが、赤も似合いそうですね」
「素敵です。ああ、目移りしてしまいます。ラナはどちらが良いと思いますか?」
「や、私はそういうの分からないから……皆さんに任せるしか……」
本来なら半年近く前から準備することの多いドレスは、採寸、生地、デザイン、装飾品と細部まで決めることが多いらしい。いわゆるオーダーメイドってやつで、その分お金がかかるけど貴族のステータスの表れだとか。夏休みの終わり際を利用して行ったマリはともかく、私の場合はそんなわけにもいかない。だから既製品を、という話になったのはまだ分かる。これが主役なら許されないみたいけど、そういうわけでもないし。
そして普段から体を動かすために肉らしい肉というものがないこともあって、マリと使用人さん、服屋の人まで盛り上がってしまってる、というわけだ。
「……というか、アランの誕生日会で着たやつじゃ駄目なの?」
「駄目、というわけでもないのですが……それは貴族社会では致命的なんですよね。既製品を買い替えるお金がないということを示してしまうので」
例えば家族の形見なら話は変わるけど、そうでないものを着続けるというのは没落したか、あるいは領地経営が上手くいっていないか、大体そのあたりを指し示してしまうらしい。だから既製品のドレスでパーティに参加する時は、大体一年前後間を空けてまた着るサイクルが貴族社会の常識。オーダーメイドのやつは数ヶ月ごとで良いらしいけどね。
私は庶民だからそんなの気にしなくていいと思うんだけど、まあ、前回やらかしてるので余計な詮索をさせられない自衛も含めて、念のための服選び、とのこと。そしてマリの両親から和解していることを指し示すためにも、贈り物を貰うことは最適なんだって。
「というわけなので、お父様お母様からお金に糸目をつけずに選んで良いと許可を得ています。ラナは素材が良いですから選びがいがあります!」
「はははは……」
力説してきた上にその台詞は勘弁してほしかった。もう着せ替え人形は疲れたよ……。
「マリーナ様、お帰りなさいませ」
「ええ、ただいま」
そして屋敷の中に入ったら使用人の方々総出でお出迎えとか初めてだよ。当たり前だけど。圧巻だけど根っからの庶民である私にはちょっと、その、怖いというか。場違い感が半端ない。
当のマリは慣れてますと言わんばかりなのがまた凄い。やっぱりお嬢様なんだね……。
「お帰りすぐで申し訳ありません。まもなく服屋が参りますのでお部屋でお待ちください」
「分かりました。ラナ、こちらです」
「え、あ、うん」
呆けていたら何やら話をしていたらしく、マリの部屋へ案内された。壁は黄色を二段階くらい薄くしたような色味で、全体的に暖かな印象を受ける。ベッドの大きさや固さも、庶民にはそれはそれは手が出せない高級なものと見ただけで分かる代物。その他の家具類もシックでセンスが良い、んじゃないかな。こればかりは好みだからあまり言えない。
でも、なんていうか意外といえば意外。あの両親のことだから、もう少しこう、子どもらしさが出てそうな部屋だと思ってたのに。あくまで予想だし失礼な言い方をすると、だけど。
それが顔にも出ていたのか、クスクスとマリが笑い声をたてた。
「私が寮暮らしを始めると話した時、タカが外れてしまったようで今までの不満を全て話したんです。それから家を出て……。部屋の内装を変えても良いか聞かれたことがあったので、もしやと思ったのですけど。私も見たのは今が初めてです」
驚きですよね、なんて同意を求められてもあいにく私は前の状態を知らない。素直にどう変わったのか聞けば、本当に子どもの部屋から年相応の部屋になった、と言われた。うーん。元は私の想像通りだったってことなのかな?
なんてことを話していると扉のノック音。服屋さんが到着したと使用人の方が告げに来てくれた。
入れてもよろしいでしょうか。ええ、構いませんよ。そんなやり取りを聞くたび、本当にマリは貴族の娘なんだなって感じて、ちょっとだけ寂しさがある。
そんな風に思えていたのも最初だけ。今はげんなりとした気持ちが強い。
「ラナは鍛えていますから、プロポーションが最高ですね。こちらのドレスも合いそうです」
「良いですね、ではこちらとこちらのアクセサリーはいかがでしょうか」
「髪飾りは先ほどの青もよろしいですが、赤も似合いそうですね」
「素敵です。ああ、目移りしてしまいます。ラナはどちらが良いと思いますか?」
「や、私はそういうの分からないから……皆さんに任せるしか……」
本来なら半年近く前から準備することの多いドレスは、採寸、生地、デザイン、装飾品と細部まで決めることが多いらしい。いわゆるオーダーメイドってやつで、その分お金がかかるけど貴族のステータスの表れだとか。夏休みの終わり際を利用して行ったマリはともかく、私の場合はそんなわけにもいかない。だから既製品を、という話になったのはまだ分かる。これが主役なら許されないみたいけど、そういうわけでもないし。
そして普段から体を動かすために肉らしい肉というものがないこともあって、マリと使用人さん、服屋の人まで盛り上がってしまってる、というわけだ。
「……というか、アランの誕生日会で着たやつじゃ駄目なの?」
「駄目、というわけでもないのですが……それは貴族社会では致命的なんですよね。既製品を買い替えるお金がないということを示してしまうので」
例えば家族の形見なら話は変わるけど、そうでないものを着続けるというのは没落したか、あるいは領地経営が上手くいっていないか、大体そのあたりを指し示してしまうらしい。だから既製品のドレスでパーティに参加する時は、大体一年前後間を空けてまた着るサイクルが貴族社会の常識。オーダーメイドのやつは数ヶ月ごとで良いらしいけどね。
私は庶民だからそんなの気にしなくていいと思うんだけど、まあ、前回やらかしてるので余計な詮索をさせられない自衛も含めて、念のための服選び、とのこと。そしてマリの両親から和解していることを指し示すためにも、贈り物を貰うことは最適なんだって。
「というわけなので、お父様お母様からお金に糸目をつけずに選んで良いと許可を得ています。ラナは素材が良いですから選びがいがあります!」
「はははは……」
力説してきた上にその台詞は勘弁してほしかった。もう着せ替え人形は疲れたよ……。
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