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第二章 英雄物語

2章-6話 飲んで、食べて、風呂に入って

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 「なんだと、裕也の奴、ルシファーのところに行ったってのかよ」

 黒猫亭の一室。今日も膠着状態が続く戦場から戻ってきたハルトは、ジェシカから事の成り行きを聞いて、怒りを通り越して、あきれ返っていた。メイガンとルキナも流石に驚きを隠せない。

 「嘘だろ。あいつ、ハルトの敵になるって分かってんだよな。一体、なにがどうなったら、こんなことになるんだよ」

 「私も、ちょっと信じられない。ねぇ、もしかしたら脅されたんじゃないの?裕也君ってそんなに気が強い方じゃなさそうだし」

 ジェシカもまた、いまだにルキナの意見が正しいのではないかと疑いを抱いていた。ジェシカは自分が六大魔女であることなど、お構いなしにハルト達に頼み込む。

 「とにかく、何かしらの事情があると思うの。ルシファーには裕也君を傷つけないように、厳命しているわ。でも、ハルト君、それに皆。万が一、戦場で裕也君と出会うような事態になっても、見逃してあげて」

 だが、ハルトは厳しい顔をして首を僅かに横に振る。メイガンやルキナも同様に目を伏せた。

 「そりゃ、俺だって、裕也を自分の手にかけるようなことはしたくないさ。だけど、戦場でってことなら、はっきり言って難しいと思う。もちろん俺たちが進んで裕也やリーアと戦うような真似はしない。しないが、裕也たちだけを見逃すなんて芸当は、実質、不可能に近い」

 「だな。他のアストレア兵たちは、そもそも裕也の顔も知らないわけだし。裕也たちがルシファー軍の一員として襲い掛かってきたなら、容赦なく切り捨てるだろう。くそっ、なんだって裕也の野郎は、ルシファーなんかについていきやがったんだ」

 ハルトもメイガンも苦々しい表情を浮かべ続ける。実際の戦場で活躍を魅せている彼らだからこそ、戦場では自分たちの思い通りにいかないだろうということも、熟知していた。

 「リーアちゃんも何故、止めなかったのかしら。裕也君とマスター契約を結んでいると言っても、リーアちゃんなら進言できたはず。それに裕也君も、リーアちゃんの言うことなら無下にはしないはずなのに」

 ルキナもいい表情は浮かべられない。裕也やリーアと戦いたくなんかない。三者の思いは一致している。そして同時に、それが難しいだろうという思いも。

 「やっぱり、脅されたんだって。それが一番しっくりくる。というか、それしか考えられないだろ。くそっ、ルシファーの野郎、どんな汚い手を使いやがったんだ」

 ハルトは拳を思いっきり、テーブルに打ち付ける。テーブルの上にのっていたグラスが衝撃で地面に落ちた。グラスは甲高い音を立てて、割れていく。

 「でも、なんでルシファーは裕也君たちを連れて行ったのかしら。こういったら悪いんだけど、裕也君もリーアちゃんも戦場で役に立つタイプじゃないわよね」

 ルキナは冷静に考えて、裕也たちの実力を思い出そうとする。剣技も魔法も、はっきり言えば冴えない部類に入る。リーアの魔法については詳細は知らないが、ルシファーがわざわざ自軍に入れたがるほどの腕前だったのだろうか。

 「ちくしょう。ここでいくら考えてても埒が明かねぇ。何かいい手はねぇのかよ。いや待てよ、そうだ。ジェシカさん。あんた瞬間移動使えるよな。ひとっとびして、裕也たちを連れ帰ってくれよ」

 ハルトの案にメイガンとルキナも、それは名案と賛同する。期待に満ちた目でジェシカを見るが、ジェシカは残念そうに首をふる。

 「ごめんなさい、それは出来ないの。私も裕也君を助けてあげたい。でも裕也君たちはおそらくルシファーのすぐ側にいる。つまり、ルシファー軍の本部にね。六大魔女である私が、戦争中の軍の本部なんかに行ったら、諸王国の連邦会議が開催され、より深刻な事態に陥るわ。下手したら裕也君、六大魔女を戦争に招き入れたということで罪を着せられるかもしれない。そうなったら、死刑確実よ」

 ジェシカはすまなそうに答える。だが納得のいかないハルトは、なおも食い下がった。

 「瞬間移動だろ?周囲にバレないようにとか出来ないのか?あんたなら、見張りの兵を片付けるのも簡単だろう?」

 「移動した先の周囲の状況までは、私にも分からないの。運よく裕也君たちだけが部屋にいる状況、あるいは数人の見張りだけというなら、もちろん連れて帰れるわ。でも、大勢の兵士たちと一緒にいるような状況なら、最悪よ」

 結局、ハルト達は有効な打開策を思いつかないまま、時間だけが過ぎていった。裕也やリーアと戦場で出会うことがないよう、祈るしかない。軍の英雄などと、もてはやされていても、身近な友人すら助けられない自分に、ハルト達は歯嚙みしていた。


**************************************


 「いやーっ、ダンジョンの後の風呂は最高だねー。ほらほら、アクアさんも、エリスもグラス空いてるよ。ニースも無事に目が覚めたし、もう一回カンパーイ」

 「もう、マスター飲みすぎだよ。でもボク、気分いいから許しちゃう。今のマスターの言うことなら、なんでも聞いてあげちゃうよ~」

 裕也たちはダンジョンから帰還後、ルシファーおかかえの薬剤師に、洞窟でとってきたデキアの花の実を渡した。その後、ルシファー邸にある大浴場に入って十分に疲れと汚れを洗い流すと、初ダンジョンクリア兼ニース回復を祝うお疲れ様会を開いていた。

 ニースはほどなくして、目を覚ました。体調もみるみる回復し、今は再び眠りについている。悪夢にうなされた昏睡状態ではなく、穏やかな寝息をたてた眠りだ。朝になれば、すっかり元気になるに違いない。

 ルシファーもニース回復の場には立ち会っていた。ニースが目覚め、顔色が良くなっていくのを見て、心から嬉しそうな笑顔を浮かべていた。今は、軍議のため、席を外しているが、出かけるときには、軍議が終わり次第、早急に駆け付けると何度も念押ししていた。裕也とリーアを労う用意もあるらしい。
 
 アクアとエリスも上機嫌だ。二人は思いのほか、酒が強いらしく、裕也の軽く三倍以上は飲んでいるが、顔が赤くなる気配は一向にない。

 「裕也のグラスだって空じゃないか。おまえは今回の功労者なんだ。遠慮なんかするな」

 「いや、エリス。十分飲んでるって。っていうかおまえら酒強すぎだろ。でもこうしてみるとエリスって実は相当可愛いよな。今まで兵士としてのエリスしか見てなかったから、女としてのエリスの魅力がすごい新鮮に感じるよ。あ、もちろんアクアさんも凄く綺麗です」

 「バ、バカ、何言ってんだ。裕也、おまえ女になら誰でも、そんなこと言ってんだろ。ったく、いやらしい」

 あれ?エリスって意外にチョロインさんなのか?酒で全然赤くならなかった顔が、ほんのり紅に染まっている。よし、ここはもっと褒め殺ししてやろう。図に乗りそうになる裕也を、アクアが窘める。

 「裕也さん、飲みすぎですよ。それに私たちなんかより、リーアさんに構ってあげてください。見なさい、むくれてますよ」

 「えっ、そうなのか、リーア?いや~ごめんな、ほら、リーアもこっちこいよ。一緒に飲もうぜ。俺はリーアと一緒がいい」

 「ええっ?もう~しょうがないなぁ~。全くマスターはボクがいないと全然ダメなんだから」

 言葉とは裏腹にリーアは満面の笑みを浮かべて、裕也のもとに駆け寄ってくる。ニースを救ったということで、酒も料理も、戦争中とはとても思えない豪華なものが提供されていた。料理には鍋物も含まれていた。野菜と肉を煮込んだだけのシンプルなものではあったが、裕也は故郷の日本を思い出し、感激のあまり涙まで流した。

 「それにしても裕也さん。あなたは不思議な人です。剣も魔法も使えない。碌な戦略を練る頭もないとおっしゃる。なのに、あなたがいると何故か事態は良い方向に向かってくれるように思えてなりません」

 「アクアさん、どうしたんですか、いきなり。何を思ったのか知りませんが、買い被りですよ。いや、アクアさんに限らず、最近、俺のこと過大評価してくるやつらが多くて、ちょっと困ってんですよね。いや、まじで。俺が調子にのっちゃったら、どうするんですか、もう」

 「他にも裕也さんを称賛されている方は多いんですね。でもそれって逆なんじゃありません?裕也さんが自分を過小評価しているとは考えられませんか?」

 「そんなわけないじゃないですか。アクアさん、実は酔ってるでしょ。飲み過ぎですって」

 裕也は外の空気を吸うため、立ち上がろうとするが、足元がすでにふらついており、上手くバランスを保てない。ついに、足をもつれさせて、横に倒れてしまう。・・と、手に何か心地よい柔らかい感触を感じた。

 「ん・・ふ・・や・・やめろ、裕也・・」

 見るとエリスが倒れた裕也の下にいる。裕也の手は、エリスの豊満な胸のいただきをしっかりと掴んでいた。裕也は慌てて手を離して身を起こす。

 「ごめん、エリス。わざとじゃないんだ。いや、本当。でも、凄く気持ちよかった・・熱っ!!」

 裕也の背中が燃えていた。リーアが形相をかえて、裕也を睨みつける。

 「マ~ス~タ~。ボクというものがありながら、何やってんのさ。マスターはボクのことだけ見てればいいの。ほらもう一発」

 裕也は全身炎に包まれる。リーアの魔法は威力はないので、大火傷の心配はないが、熱いものは熱い。

 「待てって、リーア。落ち着け。とりあえず火を消してくれ」

 裕也は慌てふためき、頭から水を被る。と、リーアは泣きじゃくって、裕也の頭の上にのってくる。

 「なにさ、マスター。ボクの気持ちを弄んで。そんなマスターはこうしてやる」

 リーアは裕也の頭の上で踊りだす。裕也は酔いがどんどん回り、再び足をもつれさせる。転ぶことを恐れた裕也は、アクアの腰を掴もうとし、それをエリスが支えようとし・・結果、アクアとエリスの上に転倒した。

 しかも倒れた拍子に程よい具合に二人の服が肌けてしまう。リーアは、さらに二人の下で潰される形になり、懸命に脱出しようと手足をばたつかせる。次の瞬間、勢いよく扉が開いた。

 「済まない、軍議が思ったよりも長引いてしまった。裕也にリーア。今回は本当に世話になった。ニースも無事回復し・・」

 部屋に入ってきたルシファーの動きが固まる。腰の剣を抜き、裕也に真剣なまなざしで向き合う。

 「うちの大事な従者を、一度に二人も傷物にするとは、いい度胸だ。覚悟はできているな。さあ抜け。正々堂々の一騎打ちだ」

 だが、裕也はすでにまともな思考回路など持ち合わせていなかった。

 「あれ~ルシファー君じゃないれすか~。やっと帰ってきらんれすか~。ほら、早くグラス持って。今夜は寝かせませんよ~」

 さらにその下でリーアが頭を抱えながら、起き上がる。

 「うーん、マスター、重いー。ボク、潰れちゃうよ。はやくどいてー」

 裕也の下になっていたアクアとエリスが、同時に裕也を蹴り飛ばすと、ルシファーに深々と頭を下げた。

 「申し訳ありません。ですが、すべて誤解ですので、ご心配なさいませぬよう」

 「まったく、裕也のやつ。アクア姉さんにまで迷惑かけやがって。倒れるなら私だけにしろっての。いや、違うぞ。何を言ってるんだ、私は」

 アクアは冷静だったが、エリスは再び顔を赤くする。そんなエリスを見て、思わずアクアもルシファーも目を開いた。

 「エリス、あなた・・」

 「そうなのか、エリス・・」

 エリスは慌てふためき、手を横にぶんぶん振り回す。

 「違うって。私があんな弱っちいやつ、気にするわけないだろう。ただ、あまりにも、弱っちいもんだから、私が守ってあげなくちゃって。いや、そうじゃない。そういうのじゃないからな。ダメだ、飲み過ぎたんだ。もう寝る」

 エリスは逃げ出すように部屋を出ていった。ちなみに裕也は双子に蹴り飛ばされた後、そのままの姿勢で眠りについてしまった。リーアは飲み過ぎたと言って、外で吐いている。アクアとルシファーは互いに顔を見合わせる。ふいに笑いがこみあげてきた。ルシファーはその場に腰を下ろし、グラスを手に取り酒を注ぐ。

 「ふっ。こんな気分は久しぶりだ。裕也か・・なんなんだろうな、彼は。雑兵一人倒せないと言いながら、来て早々ニースを無事救い出した。おまけに大事な従者の心まで持ってこうとする。アクア、おまえだって、裕也はまんざらでもないのだろう」

 「いえ、私の心はルシファー様に捧げてますので。ですが、本当に変わった人です。ダンジョンでも、途中までずっと何の役にも立ってなかったんですよ。最弱モンスター相手でもおどおどしてるし。正直、なんでルシファー様は、こんな奴連れてきたんだろうって、私もエリスも思ってました。それがいきなり、全てを解決してしまったんです。私とエリスだけでは絶対に不可能でした」

 「敵国の英雄を友とし、六大魔女ジェシカからも慕われている。そして今は、ニースを病から救い、私が姉を助けるのを、進んで手伝う・・か。純粋な戦闘なら、一対一でゴブリンにすら勝てなそうな奴なのにな」

 裕也は自分が何を噂されてるかなんて、全く頭になく、豪快にいびきを立て始めた。アクアはつい苦笑し、眠っている裕也に毛布をかぶせてやる。その後、アクアとルシファーは二人で心行くまで、飲み続けた。

 ルシファーは思う。このときばかりは戦時中であることなど忘れたい。早く戦争など終わればいい。初めから多くは望んでいない。ただ自国の民が飢えの心配なく、横暴な税を搾取されることなく、子供たちが遊んで学べる環境さえあれば、それだけでいいのだ。なのにその僅かな自由を、何故アストレアは奪おうとするのか。

 クヌルフとかいうアストレアの大臣が突然現れ、ルシファーに領土の全てをアストレアに捧げ、年貢を毎年収穫の七割治めるように言ってきたときには、何かの冗談かと思った。ルシファーはそんな横暴な発言を受けてもなお、丁重にクヌルフを客として扱ったつもりだ。

 だが、クヌルフが、接待にあたっていたアクアの体まで要求してきたときには、流石に我慢を抑えきれなかった。クヌルフに与えたのはほんのかすり傷にすぎない。しかし、それが戦争の引き金となってしまった。

 アストレアに出かけたとき、自分たちのことを噂する町人たちには、愕然とした。全然事実と違うと声を大にして叫びたかった。

 ルシファーは幸せそうな顔をして眠る裕也を見つめる。この弱いが強い、何故か皆をいい関係に導いてしまう不思議な男ならば、ひょっとして混沌に陥ってしまったルシファーの部族と、アストレアの関係までも、なんとかしてくれるのではないだろうか。

 いくらなんでも、それは虫が良すぎるか・・ルシファーは、ふいに込み上げた期待感を否定し、自分とアクアのグラスに追加の酒を注ぐと、すべてを忘れ去るかのように一気に飲み干した。


**************************************


 翌朝。裕也はトイレの前でひたすら吐き続けた。気持ちが悪い。二日酔いどころか、三日酔いぐらい続くんじゃなかろうか。昨夜の自分の行動が全く思い出せない。

 「うう・・無理・・もう俺、絶対、酒飲まねぇ。うおぇえ・・」

 頭がまだふらついている。しょうがない、吐くだけはいたら、ルシファーに頼んで、朝風呂を使わせてもらおう。それで一休みすれば、少しはましになるだろう。

 裕也はルシファーに断りを入れ、大浴場に入っていった。ひとしきり体を洗い終わった後、ゆっくりと肩までつかってゆく。ああ、天国だ。今日は一日、このままでもいい。

 もう少し体を横にしようと、背中を傾けると、ふいに何か柔らかい感触が腕に当たった。なんだろうかと、振り返ると、綺麗な長くて青い髪を持つ少女が、こちらをキョトンと見つめていた。呆気にとられた裕也だが、事態を把握すると、慌てて謝罪する。

 「あの、すいません。まだ、こんな時間だし、誰もいないもんだと思って。俺すぐに出ます。何も見てませんから」

 そのまま急いで立ち去ろうとする裕也を、少女は後ろから呼び止めた。

 「あなたが、裕也さんですね。大変な思いをして、私のためにお薬をとってきてくれたって聞きました。ありがとうございます」

 裕也は今頃になって、ようやく少女が誰だか、理解した。

 「えっと、ニースさんですか?あの、初めまして。すいません、こんな形で初対面を迎えるなんて思ってなかったもので。でも、元気になられたんですね。本当によかった」

 「ええ、おかげさまで。それにしても気持ちのいい朝。こんな日はきっといいことが起きますよ」

 ニースは穏やかな微笑みを浮かべて、裕也の隣に座る。裕也は、さっきまでの酔いが急激に冷めていき、代わりにどんどん元気になっていく自分の下半身を、ニースから隠すように手で押さえた。ニースはそんな裕也の体の事情などお構いなしに、裕也に寄りかかってきた。

 「・・あの・・、ニースさん?どうしたんですか?」

 「すいません、なんかこうしてると落ち着く気がしたんです」

 ニースの柔らかい感触と、天使のような香りが裕也の心の奥底まで響いてくる。ダメだ、これ以上は理性を抑える自信がない。相手が六大魔女だろうが、構うものか。これはまさに据え膳。食わぬは男の恥。ここで手を出さないのは、かえって失礼だ。裕也が意を決して、ニースに思いを伝えようとすると、騒がしい声が聞こえてきた。

 「あれ~、アクア姉、もう先に誰か入ってるよ。この時間なら、誰もいないと思ったんだけどなぁ」

 「あら、残念ですわ。広い大浴場を、満喫できると思いましたのに」

 「ボクはその点、どんなお風呂でも、大浴場だもんね。自分の体の大きさに感謝することもあるんだなぁ。でもマスター大丈夫かな?ずっとトイレにこもりっきりだよ」

 裕也は咄嗟に身の危険を感じた。アクア、エリス、リーアまでが風呂に入ってきた。ルシファー邸の風呂は大浴場だが、あくまで個人の住宅。ホテルや旅館ではないので、風呂が男女別に二つ用意されてるわけではない。

 普段は大体、みんなこの時間に入るというのが決まっていているので、このような鉢合わせトラブルは起きないのだが、裕也は館に来たばかり。そのような事情など知る由もなかった。

 「昨夜は、相当飲まれてましたからね。しばらく休めば、じきに良くなるでしょう」

 「まったく、情けねぇなぁ。ったく、ちっとは格好いいと思ってたのによ」

 「へぇ~、エリス。マスターのこと、格好いいと思ってたんだ」

 「い、いや、だから違うって。くだらねぇ揚げ足取ってんじゃねぇよ」

 アクアたちは、刻一刻と裕也とニースのもとに近づいてくる。だが、焦ってるのは裕也だけで、ニースはずっと裕也に寄りかかり続けていた。有難いけど、有難くない。ずっとこうしていたいけど、今すぐ逃げ出したい。裕也は一人悶々と悩み続ける。

 ふいに、頭上からタオルが降ってきた。誰だ、こんなときに。裕也は頭にかぶさったタオルを払いのける。アクア、エリス、リーアは三名そろって、裕也とニースを見つめていた。


**************************************


 「いや、誤解だって。ちゃんと俺の話を聞いてくれよ」

 「さて、どうやってルシファー様に処刑してもらおうかしら。裕也さん、あなた熱いのと冷たいの、どちらがお好きかしら?焼死の方が、凍死よりも火葬の手間が省けていいわよね」

 「どちらもお好きじゃありません。もう、アクアさんってば、朝から冗談が上手いんだから」

 「あら。私、冗談はあまり得意ではありませんの」

 裕也はひたすら、弁明を続ける。アクアとエリスはここぞとばかりに裕也を責め立て続けていた。本来なら止めに入るリーアも、今回ばかりはまったく援護してくれない。それどころか、アクア一味の手先となって、裕也に不平不満をぶつけてくる。

 「大体マスターってば、誰かれ構わず、いい顔しすぎなんだよね。ちゃんと分かってる?マスターのそういう態度でボクがどれだけ苦労させられてるかさ」

 リーアに続き、エリスも口撃の手を緩めない。アクア、エリス、リーアの三段論法はここにきて、華麗なチームワークを結成していく。

 「裕也。おまえは見事だ。見事にルシファー様の期待を、完璧なまでに裏切ってくれた。さあ選ばせてやる。今日中に死にたいか。それとも、一週間くらい苦痛を味わってからの方がいいか。私はどちらでも構わないぞ」

 「いや、エリス。昨日はあんなに楽しく飲んだ仲じゃないか。そんな物騒なセリフは可愛いエリスには似合わないって。せっかく、こんなに綺麗なんだからさ、もっと優しさあふれる慈愛の言葉をぱぁーっと」

 「何が、ぱぁーっとだ。大体、女とみれば可愛いとか綺麗って言っておけば、なんでもすむと思ってんだろ。別におまえにそんなこと言われても少ししか嬉しく・・じゃない。少しも嬉しくねぇんだよ」

 「エリス、あなた今、少し嬉しいって言いかけたわね」

 「アクア姉さんまで、何言いだすんだ。ただの言い間違いだろうが」

 何故か攻める側に回っていたはずのエリスの方が顔を真っ赤にする羽目になっていた。一方、トラブルの元凶の一員であるニースは、裕也たちの様子を微笑ましく眺めている。

 「皆さん、本当に仲がよろしいんですのね。羨ましいです」

 「いや、ニースさん。元はと言えば、あなたも誤解を招くことをしてたんですからね」

 「あら、お嫌でしたの?酷いですわ。私は裕也さんに気持ちよく寄りかかってただけですのに」

 「いやまあ、嬉しいんだけど。嬉しいんだけどね。時と場所とタイミングが著しく悪かったというか」

 「へぇ~、マスター、嬉しかったんだ」

 ・・しまった。リーアの目に鋭い光が宿る。ここはもう逃げ出すしかない。コマンド選択。逃げる。しかし、周りを囲まれてしまった。落ち着け。ここは別の意味での戦場だ。
 
 どうすれば自分が生き残れるか。こういう時こそ、頭を使って考えろ。裕也は無い知恵を絞りだそうとする。エリスはそんな裕也の頭を容赦なくひっぱたいた。粋のいい音が、あたりに反響する。

 「ったく、いつまでもくだらねぇことやってんじゃねぇっての。ほら、遊びはしまいだ。そろそろ行くぞ」

 「えっ、行くってどこに?」

 「決まってんだろうが。軍議だよ。お前もリーアもルシファー軍の一員なんだ。気合い入れてけよ」

 
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