A_vous_aussi

魚倉 温

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自分たちが思うように生きられないならば、これ以上生き延びてしまう理由をなくして、死んでしまおうという魂胆だろうか。それとも、ただ死んでいないだけ、というそれだけで生き続けることに疲れてしまったのだろうか。
哀れな男たちだ、と、アイビーは意図してその心を冷ややかに保つ。不平、不満、理想、幻想、それらはとっくに過去のものだ。娯楽のあった時代を忘れられないでいる、思想をしてなお生きていられた時代に、しがみついている。それは彼らの気質故、というよりは、ここがまだ国であった頃からの国民性、のようなものなのだろう。

「内戦も経験していなかった。ちょっとしたデモもなかった。あったのは一方的なテロだけで、それだって天変地異の前にかき消されていった。誰もが争い事のすべてを他人事だと思って、生きてた。そういうことでしょうね」
「そうだね。僕は彼らのことをそう断言しきれないけれど、その要因は無視できない」

 結局、エイデンは過去に観測したことのないサイズのハメダマにも一切の興味を示さず、手の中の炭酸飲料も蓋を開けることなく、「繭に戻ろう」と言った。
 もとよりアイビーの旅には当てがない。あの密林で死ぬことだけが嫌で、彼について出た旅だ。死に場所を探す、というのが最も近いかもしれなかったが、まだ死にたくもない。そんな風に思っている間は、こと行き先に関して、アイビーに決定権はないのだ。
 「はいはい、出発は寝て起きたら、かしら」
 「そうだね。早めに発ってしまおう」
 「そういえば、さっき紙を見かけたわ。手紙でも書いておけばいいんじゃないかしら。アンタ日本語わかんでしょ」
 掌を温めてその役割を終えたような、缶のコーヒー。眠気覚ましによく効くというその真っ黒な液体を飲むか、どうしようか、だなんて悩んでいるうちに、またあの音が聞こえてきた。軽快で、騒がしく、底抜けに明るい音。
 それは「ただ死んでいないだけ」と語った彼らの精一杯の「生きていたい」という虚勢のように思える。きっと、ここで消費するエネルギーと、繭の中で補充できるエネルギーとを計算することだなんて彼らは、しないのだ。ずっと生き続けていたいわけじゃない。ただ死ぬまでの短い間でも、次の瞬間には呼吸が止まっているとしても、後悔をしたくないだけなのだろう、と、不思議と、理解できた気がした。
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