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しおりを挟む「ねぇ聞いた?」
「あっあの噂でしょ?」
「そうそう梨々花ちゃんと…名前知らないけど噂の人!」
「…けどこないだ麗さんが否定してたよ。」
「じゃあ本当に友達なのかな…。」
ザワザワ…ザワザワ…
7月の中旬となり学生は夏休みと男嫌いな人気者の恋路についての話でもちきりであった。
「あっ!噂の梨々花さんよ!」「梨々花ちゃんが登校してきた!」「梨々花様~!」
彼女が到着をするなり門の周囲は一層盛り上がっていた。
「梨々花さんはどんな夏休みを過ごすのかな。」「きっと私たちには想像もできないわよ!」
「はぁ…」
話の中心人物はというと、視線の真ん中で重いため息を出していた。
(夏休みなんて家にいて…うるさい人たちが帰ってくるだけだわ…。)
なにか予定を入れなければね…
あのひとが帰ってくる前に…
夏休みを前に梨々花の顔は曇っていた。
「おっ梨々花じゃないか!おはよう!」
「あら…真琴…珍しいわね。」
向かいから来たのは千秋真琴である。
千秋真琴は梨々花たちの幼馴染であり、この学校の生徒会長だ。
風紀を愛し、悪を憎む。まっすぐな梨々花の親友である。
「いまから、挨拶運動なのだよ!」
そう元気に答えて見せた。
(それでこの女子の数が集まったのね…)
真琴は昔から女子に人気であり、常にファンが周りにはいた。
彼女は無自覚であるが、サバサバした性格にスラッとした身長、
おまけに運動神経万能であり女子からの人気は絶大であった。
「朝からごくろうさま…。」
じゃあね。とその場を離れようとしたらグイッと腕をつかまれた。
嫌そうに振り返ると、そこにはニコッと笑った親友の顔があった。
梨々花はとても嫌な予感がしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おはようございます!!!」
真琴は門を通ってくる生徒に笑顔で挨拶をしていた。
「おはよ…ございます…」
10分前、真琴に手を引かれてしょうがなくやってきたが…
門とは目立つ場所であり通る生徒は梨々花の姿を見ては二度見をするのであった。
「梨々花!お腹の中から声を出せ!そんな声じゃあみんなには届かないぞ。」
「…。」
別に届けたくないわよ!!と心では叫びつつ仕方なく挨拶をするのであった。
「みて!梨々花様よ!」「梨々花ちゃんだ!」「あの2人…素敵!」
周りはみるみるうちに人が集まってしまった。
「私…邪魔じゃない?」
「挨拶はみんなでした方がいいに決まっているだろう!さぁつづけよう!」
今の真琴に何を言っても続けるため、あきらめて梨々花も挨拶を続けた。
門の前に1台の黒いセダンが止まった。
“バタンッ”
「あっ!2人ともおはよ~~!!」
中からは出てきたのは麗であった。
すかさず真琴と梨々花は麗の腕をつかんだ。
「なんだか…嫌な予感が…。梨々花ちゃんまで…珍しいね…。」
出会ってしまったが最後、夏の日差しの中3人は挨拶運動に励んでいた。
「おはようご…あっ!」
どれだけの人数に挨拶をしたかは忘れてしまったが、
前からは佐々木幸太郎が眠たそうに登校していた。
思わず反応をした梨々花は一瞬目が合うがすぐにそらした。
「おはよう…ございます。」
2人の間には少し気まずい空気が流れていた。
「暇そうな割には、結構ギリギリに登校するのね。」
口を開いたのは、梨々花であった。
「朝から嫌なこと言うなよ。朝は苦手でね。」
「佐々木君こそ、久しぶりに会った知り合いに世間話の1つもできないのかしら?」
「知り合いね…」
チラッと視線を向けてすぐに幸太郎の視線は遠くへと向いた。
「なによ。赤の他人だったかしら?」
「そんなことは言ってない…。」
「ならいいけど…早くしないと遅刻するわよ。」
「じゃあ、また。話したおかげで少し目が覚めた。どーも。」
そう言い残すと、ひらひらと手を振りながら下駄箱へと幸太郎は消えていった。
その背中を梨々花はぼーっと見ていた。
「おい、梨々花?なんかボーッとしてないか?夏バテか?」
「?!そんなんじゃないわよ。もういいでしょ。教室戻りましょ。」
「麗?さっきの男は…こないだ言っていたやつだろ?」
「うん!幸太郎君ね~~!」
「その男と話してから梨々花の顔が赤くないか?」
「そうかな~」
赤いのはきっと…夏のせいだよ!
と麗はニコッと微笑んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんだか朝からとんでもない目にあったわ。」
「梨々花ちゃん、ふだんあまり外にはいないもんね~!」
「出る意味が分からないのよ。暑いだけじゃない。」
「そうだけど~中庭で好きな人と会ってお話するとか…夏祭りにいくとか!夏といったらイベント盛りだくさんだよ!」
「…麗、またそんなこと言って…好きな人でもできてから言ってくれる?」
「うっ…。」
麗は唇を飛ばらせてそっぽを向いた。
「いいじゃん梨々花ちゃんは!今日も幸太郎君に会えたし~。」
「そそそそそんなんじゃないってば!!!」
ニヤニヤする麗と、あわてる梨々花の姿が教室にはあった。
「けど梨々花ちゃん、幸太郎君と話してるとき顔赤くない?」
「そんなことないと思うけど。」
“夏のせいに決まってるじゃないの。”
そう梨々花はボソッと話しながら遠くを眺めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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