夏は短し、恋せよ乙女

ぽんず

文字の大きさ
13 / 21

episode:13

しおりを挟む
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

某高校の某下駄箱

 

某体育授業の前

 

靴を取り出そうとした某高校生は固まったのであった。

 

彼の名は佐々木幸太郎

 

「幸太郎~早く行かないと遅刻するぜ~。お前なんで下駄箱を見て固まって…」

 

親友の亮は彼の下駄箱を見て同じように固まったのであった。

 

 

「お前!それ…ラブレっ…フゴッ」

 

幸太郎は大声で驚く亮の口をふさいだのであった。

 

 

「お前これ以上しゃべるな…。」

 

 

幸太郎はその手紙を隠すように靴を素早く取り出し、再び下駄箱の扉を閉めたのであった。

 

 

「おいおい、誰からだったのか気になって体育どころじゃない!」

 

手紙の受取人である幸太郎よりもなぜかドキドキしている亮の姿のため息が出る。

 

 

「今日の体育はお前が好きなサッカーだろ、集中しろよ。」

 

「なんでお前そんなに冷静なんだよ!!」

 

(今時ラブレターって…なんかのいじめか…それとも…)

 

 

ネガティブな発想ばかりになるため幸太郎はいつもの何倍も授業に集中したのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ここは某高校の某教室

 

某そわそわしている女子高校生の姿がそこにはあった。

 

“ブー”

 

携帯のバイブ音が聞こえるたびにチェックしてしまう…

 

(今度は、メルマガか…。)

 

 

夏目梨々花は今までで初めて携帯のバイブ音に集中していた。

 

(このドキドキから早く解放されたい…なんでもいいから連絡してきなさいよね…。)

 

さきほど親友の麗と忍ばせた幸太郎への手紙に、梨々花の電話番号とLINAというアプリのIDをしっかりと記載したからである。

 

 

そしてドキドキのせいで集中できない授業は進んでいくのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

体育の時間を無事に終えた幸太郎は迷っていた。

手紙を開けるか、開けないか。

 

「おい!幸太郎!さっきの誰からだったんだよ!」

 

「…まだ開けてない。」

 

「それはそれで失礼じゃないか?」

 

「そういうものなのか?」

 

下駄箱に手紙が入っている経験なんて初めてである。

 

「差出人くらい確認したほうがいいだろ。」

 

「封筒には、特になにも書かれていないな。」

 

封筒には糊でしっかりと封がしてあったため、ハサミで丁寧に開ける。

 

 

「?!」

 

少し目を通して誰からの手紙か察した幸太郎は急いで閉じる。

 

「誰からかわかったのか?」

 

ニヤニヤしながら亮がのぞき込もうとする。

 

「ただのいたずらだって。」

 

「なんだよ~てっきり愛の告白かなんかだと思ったぜ~。」

 

亮が興味を無くしたことを確認して内容を確認する。

 

(拝啓って…随分固い文章を書くな…。)

 

最後の文章を読んで幸太郎は目を丸くした。

 

【友人になったことですし、連絡先を伝えておきます。必ず連絡をしてきなさい。】

 

 

「…。」

 

なんで最後だけ命令なんだ…。

 

 

有無を考えずにLINAのIDを登録し連絡を入れた。

 

【佐々木幸太郎です。 よろしくお願いします。】

 

 

この連絡先いったい何人の男性が知りたがっているか、

 

考えたとたん寒気が止まらなかったため、幸太郎は考えることをやめたのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

“ブー”

 

授業も全て終わり、携帯の画面を見てすぐに梨々花の心臓は飛び跳ねた。

 

やっと来た!どれだけ待たせるのよ!!

 

 

【改めてよろしく。】

 

一度打ち込み、文章を見返す。

 

(これじゃあそっけなさすぎるかしら…。)

 

「梨々花ちゃん~もしかして連絡がきた?」

 

「まぁね…。」

 

「なんて返したの?」

 

「…まだ返していないわ。」

 

「ダメだよ!早く返さなきゃ!!後は疑問文だよ!!」

 

「疑問文?」

 

麗はそういうと得意げな顔で話を続けた。

 

「相手から返事をもらうためには疑問文で送る!!これ基本中の基本だからね!」

 

いったいどこからそんな話を聞くのであろうか、

そして麗にそのような連絡をとる相手がいるのであろうか梨々花は疑問に思ったが仕方なく今回は素直に従った。

 

【改めて、よろしく。 今日はどんな1日だった?】

 

 

勢い任せに送信ボタンを押したが、後になって失敗を恐れた。

 

(なんで梨々花ったら今日はどうだったかなんて聞いちゃったのだろう…。)

 

 

「いいな~私もそんなやり取りをする相手がほしいな~。」

 

人の気持ちも知らないのんきな麗を鋭いまなざしで睨むのであった。

 

 

幸太郎から既読がついたのは数分後であったが、そこから中々返信は帰ってこない。

 

「…やっぱり変なこと送っちゃったのかしら…。」

 

梨々花は携帯の画面を見ながらため息が止まらない。

 

「梨々花ちゃん~いつもでも携帯眺めていないで帰ろうよ~!!」

 

「眺めてなんかいないわよ。画面を綺麗にしていただけ。」

 

 

空を見ると雲一つない夕焼け空であったが心はモヤモヤとしていたのであった。

 

“ブー”

 

帰る支度をしている最中に連絡を知らせるバイブが鳴る。

 

【今日は、空が綺麗だなと思う一日だった。】

 

そっけない文章に夕日の写真が1枚添えられており、梨々花にとって写真は直接見る空よりもきれいに見えたのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一方幸太郎の教室では、

 

「お~い、幸太郎!さっきから何写真撮ってるんだよ。」

 

「別に、綺麗だからなんとなく。」

 

「お前、写真なんか撮るキャラだったか?」

 

「うるせーなー。早く帰るぞ。」

 

幸太郎の急な行動を不思議がる亮と、夕日のように顔を赤くした幸太郎の姿がそこにはあった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...