最難関ダンジョン 最深層エリアボスは魔王様に有給休暇を申請する ~伝説級の暗黒竜が人間界に興味を持ってしまったお話~

なか

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第9話 きらきら

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 さて、ここからまたアナスタシアは多くの時間を魔法の修練に当てる日々が続く。
 初めの頃はそれを見ているだけのリントブルムは退屈だったが今では隣でアナスタシアのマネをして同じ時を過ごし、それが楽しいとはっきり思えるようになっていた。


 両手を広げたり、前に突き出したり、上に伸ばしたり、試行錯誤を続けるアナスタシア。
 そしてほどなくコツをつかみ始めたのか自分の周囲だけではあるが魔素マナが動き始めているのを感じていた。


「今回の課題はとても難しい。なかなかうまくいかないものだな。」


 ゆっくりではあるが成長の実感を感じることができている。
 これだけでも恐るべき才能の片りんではあるのだが、横にいるドラゴンがそれをいとも簡単にこなしてしまうので少しだけ自信がなくなったりもする。

 とは言うものの外界の人間に魔素マナを目視できる人間はおそらくいない。

 人は魔素マナを感じにくい種族であるため魔法には詠唱というものを使う。
 詠唱により強制的に頭を自己洗脳のような状態に持っていき魔素マナを意識外で認識させ魔法を発動する。
 故に詠唱中は無防備かつ意識が深い洗脳状態になっていることが多いので単体での戦闘では役には立たない。

 魔法によって詠唱の言葉は決まっており、それが決まった魔法を繰り出すことができるための洗脳を施してくれる。
 初めにもいったが魔法は認識だ。

 先ほども言ったが、詠唱ありきの人間では今アナスタシアが行っている魔法操作はおろか、魔素マナの目視すらできる者はいないだろう。
 ただアナスタシアはそういう意味では運が良かった。
 魔法が使えない彼女はまっさらの状態で今新たな価値観を学び始めることができたからだ。

 もしアナスタシアがこれらの一連の修練を終えた時、人類史上最も偉大な魔導士となる事だろう。
 だがそんな事はアナスタシアもリントブルムも知ったこっちゃない。

 アナスタシアは限界、リントブルムは退屈、お互いがそれらを消しあってくれている。
 良いコンビなのだろう。

 苦戦しながらも充実した表情を見せるアナスタシアが休憩の合間に率先してリントブルムと会話するようになったのもお互いの利点があったからともいえる。


「アナスタシアもずいぶん動くようになってきたね。フンフン、この調子でいけばすぐにいっぱい動かせるようになるよ。」


 リントブルムは自分のことのように嬉しそうな顔を見せながらアナスタシアへ話しかける。


「ハハハ、君の言う事はいつも話半分で聞かないといけないな。」


 いつもの苦笑いで気さくに答えるアナスタシア。


「話を半分にするの? よくわからないけどそれをすると何の意味があるの?」

「いや、そういう意味じゃなくてだな、なんというかな......ウソという意味ではないのだが......君が横で私より遥かに高度な事をしているのを見て、つくづく私には魔法の才能がないのだなと思ってしまったんだ。」

「そうなの? 僕、横にいない方がいいって事?」


 涙ぐんでいるように見えるリントブルム。慌ててアナスタシアは――


「いやそうではない!! 横でこんな素晴らしいものを見せてくれているおかげで私は今の私に満足せず新たな挑戦をし続けられているんだ。すごく感謝しているよ。」


 全く持ってアナスタシアの本心だ。お互い気持ちを言葉にするのが苦手な分、こういった勘違いは日常茶飯事に起こる。しかもリントブルムは言葉の知識も少ない。気を付けて話さないといけないなと考えさせられてしまった。
 ただリントブルムはとてもいい子だ。力を鼓舞したり相手を圧迫したりしない。
 こんな閉鎖的な場所で育ちながら奇跡的な事だとアナスタシアは思った。


「僕、横にいていい?」

「あぁ!! いいとも!! 君さえ良ければずっといてくれ。たくさんの事をこれからも話そう。」

「うん。いいねそれ。ずっといてくれって。」

「そうか? 改めて言われると照れてしまうな。ハハハ......。」


 彼もまた人というものを理解しようと努力しているのがアナスタシアには伝わっていた。
 それがいつか暗い影を落とすかもしれないという事もアナスタシアは理解していた。


(私は君と......いつか殺し合わなければならないのだな......。)


 もちろんリントブルムにそんな考えはかけらもない。
 だから今の時間がリントブルムにとってよりつらい時間になるのだろうと思っていたのだ。
 だがそんな事、今は絶対に伝えたくない。
 この充実した時間を手放したくないと。


(身勝手な女だな。私は。)


 アナスタシアはスッと立ち上がり「続きを始めようか。」と静かにリントブルムに告げた。
 運命もしがらみもないはずのこの場所でも、アナスタシアはまだ何かに縛られて生きているのだ。







 ーーーーーーー






 それからちょうど1年の時が立った。
 日々の日課として魔法の修練は欠かさず進み今では――


「もーいーかい!!」

「まーだだよー!!」


 アナスタシアが柱に目が見えないように顔を伏せている。

 リントブルムはというとソソクサと柱の影に隠れる。
 だがそこから周りを漂うマナを体に貼付け透明化して全くの風景と同化してしまったリントブルム。


「もーいーかい!!」


 返事がない。
 アナスタシアはゆっくりと柱から顔を離し辺りをうかがう。

 全くと言っていいほどリントブルムの痕跡は見つからない。
 あの巨体がどこへ隠れれるというのか。

 目を凝らしマナの動きを注視しだす。
 緩やかに漂うマナの中に、まるで獣道のようにその部分だけマナがない道ができていた。


「ふぅ。まだ甘いなリントブルム。この程度では私の目は欺けんぞ!」


 赤い美しい髪を右腕でかき上げ凛とした表情を見せるアナスタシア。
 マナの道の先にひと際大きなマナの塊を発見する。

 アナスタシアは手をかざしマナの塊を一気引きはがした。


「なっ!!」


 しかしそこには何もなくただマナが飛散しているだけだ。
 そして改めて辺りを見回すとそこら中にそういった道ができておりその先には大きなマナの塊がいくつも滞在していた。


「ハハハ、恐れ入ったよ。まさかマナを遠隔で凝縮させたり離散させたりしているのか? 本当にとんでもないな。だが......。」


 アナスタシアは両手を自身の前に伸ばし少し集中すると、一気にいくつもあったマナの塊が次々と飛散していく。
 美しい光景。宇宙誕生を創造させる幻想的な光景である。

 だが二人は遊びに必死。
 次々とマナを飛散させ、いよいよ最後の一つになる。


「フフフ、まだまだ子供だなリントブルム。方法は悪くなかったがこのやり方では一つ一つ潰していけばいずれ見つかるというものだ。」


 趣味の悪そうなニヒルな笑顔で最後のマナの塊へ近づいていく。
 そしてその目の前まで行き――


「リントブルムみ―つけたー!!!」


 と大きな声で叫ぶ。
 しばしの沈黙の後、目の前のマナの塊は飛散しその中から......は何も出てこなかった。


「はっ? えっ? ちょなにこれ? うそ、なんで?」


 わかりやすい動揺を見せるアナスタシア。
 すると――


「ざんねーん!! アナスタシアの負けだよー。」


 と急に目の前にリントブルムが出てきたのだ。


「なんで? そんなはずはない!! マナの流れに不審な点はなかった。なぜそこにいるんだ!?」


 動揺しているが興奮もしている。
 そんな状態のアナスタシア。


「うへへへ。アナスタシアの目の周りにマナを集めて嘘の映像を映させたんだよ。さすがにこれは見破れなかったね。」


 嬉しそうに語るリントブルム。


「目の周りに映像......そんな事ができるのか?」

「結構難しかったよ。だってマナ一つ一つに色を付けていかなきゃならなかったからね。」


 呆れてものも言えない様子のアナスタシア。
 トスンと腰をその場に降ろし――


「ハハハハハハ。まったく君はとんでもない。これは完敗だよまったく。」


 大きく笑うアナスタシア。
 悔しいという顔はなく、楽しかったーという爽快な顔が見て取れる。


「でも僕もちょっとヒヤヒヤしたよ。アナスタシア、映像のマナをバンバン飛散させようとするんだもん。もう少しでマナ操作が間に合わなくなるところだったよ。」


 楽しそうに笑顔で話すリントブルム。
 更に呆然とした顔になるアナスタシア。


「私の動きに合わせて映像を変えていたという事か? ハハハ、これはもう何と言っていいやら......。」


 いつもの苦笑いを見せやれやれと両手を上げて降参といったポーズをとるアナスタシア。

 今ではアナスタシアも一通りのマナ操作はお手の物となっている。
 もちろんリントブルムと比べてはいけないが、この世にある大概の魔法はマナの動きと性質を見ただけでコピーできるレベルまでになっていた。

 もはやここで学べることは本当になくなってきていたのであった。




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