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第23話 キラキラの奇襲

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 光っていた海面とは裏腹に水中は暗くほとんど景色は見えない。
 ただ暗闇の中に光の粒が無数に漂っていて、まるで宇宙で漂ってるような、そんな感じがした。
 星の海、これはなかなか......いい気持だ。

 俺は【魚人】の力で海への適用力は大幅に上がっていた。
 自由に体も動かせるし息継ぎも15分くらいはしなくてよくなっている。
 もちろん激しく体を動かせばその分早く息も切れるけど普通の探索くらいじゃ屁でもない。

 ただやっぱり暗い場所の適正はあまりない。
 水中でもクリアに目が見えるしある程度この漂ってる粒子でボヤっと辺りの視界は確保されてるけど遠目は全く効かない。
 不意を突かれれば何もできない可能性がある。

 気を付けるに越したことはないな。
 景色がきれいな分、心にスキが生まれやすくなっていると思った俺は気を入れ直し海底へと泳いでいく。

 暗い景色に無数の光の粒子、そして時折通り過ぎるようにオーロラのような光のカーテンが海を割る。
 まるでファンタジーゲームの世界にいるような感覚。いや、ここってそういう世界か、、、

 一応何が出てきても対応できる自信はあるが、念を入れて水中銃を片手に持ちサメ吉を周辺の警戒にあたらせた。
 ほどなく海底へとたどり着く。

 海底は砂浜になっており、海藻や大きな岩が散乱している。
 その海藻や岩に光の粒子が付着しておりそれもまた光を放っている。


「この海藻って今までの海藻と違うのかな?」


 手に取って見るとすぐにアイテムボックスへ移動する海藻。
 名前を見てみると、


 ”海藻”


「だろうな。ただこの粒子が付着してるだけってことか。いったいこの海は何なんだ。この粒子って何なんだろ?」


 不思議に思いながらも海底の探索を進める。
 しばらくして俺は新しいエリアに来たことが正しかったことを知る。


 ”火薬を手に入れました”

 ”火打石を手に入れました”

 ”やすり石を手に入れました”

 ”ガラスを手に入れました”

 ”銅を手に入れました”


「うおっしゃー!!!! 大量だぜ!!」


 新たなエリアには新たなアイテムがつきもの。
 他にも海藻や鉄、木の板などのお馴染みのアイテムも大量に入手し俺はイカダのほうへ戻る。


「確か前のエリアのサメが出てきたときは3分っていう区切りがあった。もう2分は過ぎてる、、、、」


 未知のエリアでなるべく危険は避けたい。
 だがこれから行動するにあたってどういった敵が出てくるのかは把握しておかないといけないかもしれない。
 前の俺ならいざ知らず、今の俺は【魚人】に水中銃もある。
 不意さえ突かれなければなんとかなる自身もあった。


「このエリアのボスってのがいるなら一応顔ぐらいは拝んでおこうかな。」


 最大限周囲に注意を図りながら、俺はあたりを警戒する。
 近くにイカダもある。ここからなら数秒で逃げることもできる。
 辺りを警戒しとけと言ったサメ吉の姿は見当たらないが、まぁなんとかなるだろう。

 そうこう考えているうちにおそらく時間は3分が過ぎていった。


「なんだ? このエリアは何もないのか? それともエリアごとでボスの出現時間が違うとか?」


 肩透かしを食らった感じになりもう少し待って出てこなかったらイカダに戻ろうと水中銃を肩に掛けなおしたその時、急に目の前の水が歪んで見えた。

 ハッと警戒した時にはもう遅かった。ピカッ!!と目の前が光ったかと思うと——


「ぐががががぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」


 突然体全体に力が入り弓なりに体が反りだした。
 自分ではコントロールの効かない体。何が起こったのかわからないながら目の前の歪んだ水の景色を見ると、、、

 それは水ではなく、透明な何かだった。確かにゆらゆらと動いているのが確認できる。
 透明のサランラップを水の中で浮かべたような、おかしな感覚。違和感。

 以前体は全身に力を入れた状態で弓なりにさらにそれていき、あまりの苦痛に顔が歪む。
 なんという失態。なんという不警戒。しかし今はそれどころではない。
 この状況をどうにかしなくては。

 声を出してサメ吉を呼ぼうにも口さえまともに動かない。


「ぐあぁぁぁああああがががが!!!!!」


 肺に入れた空気もどんどんあふれ出ていき、次第に呼吸が苦しくなる。
 このままじゃ、、、、

 遠のく意識、もうだめだ、、、そう思ったその時、かすかに遠くから、、、


 あにきぃぃぃぃぃ、、、、、


 聞き覚えのある声、その声が大きくなり、


「あにきぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!!!」


 サメ吉はためらうことなく俺にかぶりつき、そのまま俺を咥えてイカダのほうへ逃げていった。
 俺はサメ吉に運ばれながら遠のく意識の中、最後にそいつの姿を見てやろうと必死に目を凝らした。

 透明な体が徐々に輪郭を表してくる。
 丸いお椀のような形、下のほうには線がゆらゆらと何本も出ている。


「くら、、げ、、、?、、、」


 そう言い残し俺は意識を失った。

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