聖典の勇者 ~神殺しの聖書~

なか

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第5話 アンダーワールド

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「この世界はアンダーワールド。落ちた神が住まう世界。おぬしも見たじゃろう。影の者を。あれがそうじゃ。」


「一番最初の影の奴か。木の化け物はまた違うのか?」


「あれはアンダーワールドの原生生物じゃ。お前の世界と違ってただの人間は住みにくい世界になっとるかもな。」


「あんなのがウヨウヨ居やがるって事かよ。無理ゲーだわこれ。」


「もとはこの世界は人が暮らす世界じゃったのじゃが今は人と神が住まう世界となっとる。」



 まったく意味が解らんがとりあえず聞こうではないか。



「まぁ簡単にいえば神と人が土地をめぐって戦っているという事じゃな。お主のおった世界とあまり事情は変わらんな。ほっほっほ。」



 気色の悪い笑い声が響く。
 要は領土争いって事だな。



「てかよくわかんないんだけど神って神様の神? そんなことがあり得んのかよ。てか神と戦うって人がだろ? 絶対勝てないじゃないの?」


「まぁお前たちのいた世界の神という認識とはちょっと違うんだがの。そこら辺の話は追々じゃな。ひとまず神と人が戦っておる。というよりは神からの侵略を受けておる。それにあらがっている人間なのじゃが状況は悪い。戦力は圧倒的に神側が有利じゃ。正直太刀打ちできん。このままではこの世界の人は皆殺しにされるだろう。」


「えらい物騒な話だな。」


「真の平和なんぞおぬしの世界にもなかったじゃろうが。まぁよい。そんな物騒な世界なのじゃが、しかしじゃな。この世界、アンダーワールドにはある言い伝えがある。



 ”世界が混沌に陥りしとき 聖典を携えし救世主が 再び世界に希望の光を与えるだろう。”



 とこんなチープな言い伝えじゃがな。
 それでそれがお前じゃ。」



「へぇ。言い伝えねぇ。救世主が世界を......へ? 誰が?」


「お前じゃ。」


「はぁ!!?」



 目をクリクリさせてバアさんを見るがバアさんの表情は変わらない。



「まったく理解できてないんだが、俺が何を携えし救世主だって?」


「お主が救世主なのは間違いない。現におぬしはこの世界におる。おぬしは神を打倒し世界に平穏をもたらさなくてはならない。」


「髪を洗い流しなんだって!?」


「聞こえておるんじゃろ。」


「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!! 無理無理無理無理無理無理無理!!!!!」


「そうはいっても、もうこの世界に来てしまったんじゃ。仕方あるまい。」


「バカヤロウ!! 今すぐ戻せ!! 元の世界に!!」


「戻してもよいが元の世界、オープンワールドのおぬしはもう死んでおるぞ。」


「はぁ!? オープンワールド!?」


「お主のおった世界じゃ。 お主はワシが殴り殺したよ。」


「おい!! さらっと言うな!! 殴られたのは覚えてるけどそれが意味わからん。現に今俺は生きてるのか? 死んでるのか?」


「まぎれもなくおぬしは生きておる。そもそもおぬしは本来アンダーワールドの人間じゃ。落ちた神から守るためにオープンワールドに転生させたのじゃ。」



 理解が追いつかない。



「転生というより肉体をコピーさせ魂を憑依させたというのが正しいのだがの。ゆえに肉体が滅びたことによって強制的にこちらの世界に戻されたという事じゃ。」


「姿かたちまで同じなのか? 年齢とかも。」


「肉体が年を取るのではない。魂が年を取るんじゃ。覚えておきなされ。」


「んん......わかるような わからないような。でもそれならまたコピーを作れば俺は元の世界に戻れるんだろ?」


「あぁ戻れるよ。」


「ならすぐにそれをやってくれよ。俺には世界を救うとか無理なんだからさ。」


「それはできん。わしらもこの世界を救ってもらわなくてはいかん。どのみちこの世界が滅びればお前の世界も滅びる。最近はお主の世界も国際社会が不安定じゃったじゃろ? 理由はどうあれこちらの世界とあちらの世界とでは結果はリンクする。この世界が落ちた神によって滅びればお前の世界も核戦争なのか隕石が衝突なのかはわからんが必ず滅びるようになっとるんじゃ。」


「はぁ?! なんだよそれ!! 世界の命運は俺にかかってるみたいなの。ふざけやがって......ぐぐぐ.....それでもいい!! 俺は終わりの時まで楽しく気楽に生きる!! 誰がこんな物騒な世界で生きれるかよ!!」


「はぁ~ 情けない奴じゃの......どちみちじゃがワシには転生させるなんてことはとてもできん。」


「はぁ!!? なんでだよ!? さっき肉体をコピーさせたって言ってたじゃないか!! もう一回やってくれよ!!」


「聖典の力でやったんじゃよ。そして聖典は今手元にない。まずはそれを手に入れなければならん。」


「なんだよ結局そういう事になるんじゃんか!! てか俺聖典の救世主なのに今聖典持ってないんだったら意味ないじゃん。用意しとけよそれくらい。段取り悪いな。だからスロットに溺れるような羽目になるんだよ。」


「こやつ。殺すときもう少し頭を強く殴っておけばよかった。」


「なんか言いました?」


「いや、なにも......。」


 それからは淡々と説明が続いた。
 かつて落ちた神と言われる敵から俺の身を守るためもう一つの世界に俺の魂を転生させたらしい。


 でも転生させるときに敵の奇襲にあい俺を見失ってしまった。
 正確な時代もわからなくなり、やむおえず何十年も過去の世界に行き俺の魂の痕跡を探していたというのだ。


 それで何十年も探し続けた挙句、ついには見つからなくてあきらめたらしい。


 で性格までひねくれまくった挙句、ギャンブルにはまり、たまたま成り行きで殴り殺した相手が救世主で、使命を全うしたババアは強引にこの世界に戻されたらしい。



「で、おぬしがまずしなくてはいけないことじゃが、わかってはいると思うが聖典を手に入れることじゃ。わしも長くアンダーワールドを離れていたのでな。今その聖典はもっておらん。じゃがだいたいある場所は検討がついておる。」


「おぉまじか! その聖典が手に入れば俺は元の世界に戻れるんだよな?」


「まぁそういう事になるな。仕方ないが。」


「まぁもともと俺なんかには世界を救うなんて土台無理な話なんだからさ。悪いけど別の救世主様を見つけてくれよ。」



 その言葉にババアは「それができれば苦労せんわい。」と小さな声でつぶやいた。
 って言っても仕方ないよな。俺なんかが世界を救うとかありえない話だしさ。
 本当に悪いんだけどババアだってすごい魔法が使えるんだからさ。それとか使って何とかしてくれよ。マジでさ。


 俺はこの時まだ何にもわかってなかった。
 この世界で起こっていること。アンダーワールドとオープンワールドの事。
 聖典の事。ババアの事。


 でもわからないからこんなに気楽だったんだろうな。
 うらやましいよ。この時の俺が。




「まずお主が聖典を手に入れるまで生き延びねばならんという問題がある。」


 当たり前のように言うその言葉にしっくりこない感じだけが残る。


「生き延びるってなんだよ? あの影が襲ってくるんだろ? そんなのバアさんの魔法でチョイチョイってやってくれるんだろ?」


「魔法といっても万能ではない。前に見せたファイヤーウォールという魔法も消費する魔力が大きい。1日に何度も使用できるもんでもない。しかもこれから聖典を手に入れると言っておるんじゃ。戦いはもっと熾烈なものになる。」


「はぁ!? わけわかんねぇよ!! なら聖典取ってきてくれよ!! 俺に死なれちゃ困るんだろ? でも聖典は必要、そんな危険な戦いに俺が参加するなんておかしくないか? 俺の仕事は聖典を手に入れてからだろ!? 適材適所! わかる?」


「だまれブサイク。言うてる意味が解らんかの? お主もまじめに手伝わんと聖典も手に入らんしこの先生きていくこともできんと言っておるんじゃ。今現在の明確な戦力は限りなく低い。まともに聖典を争う戦いを起こせばわしらに勝ち目などありはしない。しかし世界には聖典を信仰する者も多数おる。それらの戦力を引き入れるにはお主の存在は不可欠じゃ。幸いお主にはおそろしい魔法の才能があるはずじゃ。聖典使いは歴史上どれも恐ろしいほどの才能に恵まれた者ばかりじゃ。いわゆるチートというやつじゃの。」


「えっ? 俺才能あんの? じゃあやるわ。魔法教えてくれ。」


「自分で言っておきながらものすごく教えるのが嫌になってきたわい。」


「なんだよ先に言えよ。才能があるって。俺も魔法が使えるって事なんだろ。勝ち目のない戦いはしないけど勝ち目のある戦いはとことんするのがギャンブラーってやつだからな。」


「めんどくさい奴じゃ。友達少なそうじゃの。」


「は?! う、うるせぇ!! 友達しかいねぇよ!! なんなら体の半分は友達で出来てるよ!!」


「それは逆に気持ち悪いの。まぁええわい。とりあえずついてこい。まだお主は落ちた神に見つかっておらん。見つかるまでにどれだけ準備ができるかが勝負じゃ。ある程度のところまで実力を上げないかん。」


「えー修行チックなことする流れ? 俺努力嫌いなんだけど。そもそもそれってさ。聖典があれば修行みたいなこと必要ないんだろ? やっぱり聖典取ってきてよ。俺今向かってる村で留守番できるからさ。」


「だから聖典を手に入れるのにおぬしの力が必要だと言っとるじゃろうが!!! 舐め腐っとったらぶち殺すぞガキャァ!!」


「ひ、ひぃぃぃいいいいい!!!」


 相変わらず怒らすと怖い。ほんと怖い。顔がシワだらけで火山地帯にある岩みたいになってる。溝だらけの。
 ココはおとなしく言う事を聞いておいた方がいいかも。嫌だけど今逆らうとババアにまた殺されてしまうかもしれない。

 しかしチートなんて、俺何の実感もないけど大丈夫なんだろうな。
 修業して、あら才能ありませんって言われてこの世界に捨てられてとかやめてくれよ。
 あのババアやりかねないんだよな。
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