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本編
神子、美少年を紹介される
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「この者はファビオ、そなたの世話係だ。この寝室には、余とファビオしか入れぬ」
「ファビオですっ、よ、よろしくお願いしましゅ!」
美少年が噛んだ。
緊張したまま、真っ赤な顔でお辞儀する姿が可愛らしい。
ファビオもイリアと同じチュニック姿であるものの、生地は硬そうだった。ファビオが動く度に、服に大きなシワができる。
その愛嬌のある様子に、自然とイリアは微笑んでいた。
「イリアです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「は、はい!」
絵画に描かれる天使のような容姿でありながら、ファビオはどこか柴犬を連想させる。
エヴァルドの威圧感に晒されたあとだったのもあり、その愛らしさにほっこりした。
【鑑定】スキルを持っているからか、自己紹介を受けると彼のステータスが自動で表示される。
ファビオは十二歳という若さでありながら、職業に「神子の世話係」とあった。
イリアに対する好感度は、当然のごとくMAXだ。
(エヴァルドもファビオのようにわかりやすかったら、数値に納得できるんですけど……それはそれで怖いでしょうか?)
堅物そうな男が、頬を染めて張り切っている姿を想像する。うん、これはない。
視線を感じてエヴァルドに顔を向けると、そこには相変わらずの無表情があった。
黒い瞳と目が合うけれど、じっと見つめられ、たじろぐ。
(ま、まだ怒ってますかね……)
居心地の悪さに身を揺すれば、エヴァルドが口を開いた。
「余は、席を外す。夜には戻るゆえ、それまではファビオを頼るといい」
「わかりました。あ、これ……」
ずっとマントを借りたままだった。
部屋を出ていこうとするエヴァルドに、慌てて立ち上がる。
――慌てたのがいけなかったのか。
まだアバターの操作に慣れていないせいか。
イリアはベッドから下りるなり、足をもつれさせた。
「神子様!?」
体が傾く中で、ファビオの叫びを聞く。
床に倒れる衝撃に備え、咄嗟に目を瞑った。
「……」
けれど予想していた痛みがやってこない。
それどころか温もりを感じて、顔を上げる。
「大丈夫か?」
「あ……」
息がかかるほどの距離に、エヴァルドがいた。
助けてくれたらしい。
腕に抱かれているのを認識すると、エヴァルドの体格の良さが服越しに伝わってきて、羞恥に身を焼かれた。
頬が熱い。
拙い自分が恥ずかしかった。
まさかこの年になって転けるなんて。
「あ、ありがとうございます」
「無理をするな」
今度こそしっかりと自分の足で立つ。
しかし心配されているのか、すぐには放してもらえない。
「言えば周りの者が動く。そなたが何かする必要はない」
いや、心配じゃなくて説教のためかと考え直す。
余計な手間を取らせるなと。
説教から逃げないよう捕まえられているのだ。
でも、いったん放して欲しいと切実に思う。
立ったことで、たくましい腕が腰へ回されたのが気になって仕方がなかった。
なんというか、密着具合が恥ずかしい。
感触がリアルなのは、成人指定だからだろうか。
「聞いているか?」
「っ……」
指でそっと顎を持ち上げられる。
優しく促されるような接触だったけれど、体は過剰に反応した。
エヴァルドの目を直視できず、視線を外す。それでも眉間に寄るシワが、視界の端に映った。
「余が怖いのか?」
「ちがっ、あの……触れ合うことに、馴れてなくて」
怖い気持ちもないと言えば、うそになるけど。
落ち着かない。
思い返せば、現実でも人と触れ合った記憶がとんとなかった。子どもの頃、以来?
密着する体温に、どうしても身が焼かれる。
「ならば、余がその手助けをしよう。他の者の手は借りるな」
そう言って頬に口付けられた。
突然のことに言葉が出ない。
片やエヴァルドは慣れているのか、イリアから身を離すなり、何事もなかったかのように部屋をあとにした。
退室を見送り、しばらく呆然としてから、力なくベッドに腰かける。
(挨拶! きっとあれは挨拶!)
深い意味はない……はず。
それか嫌がらせ? こちらが馴れてないからって、からかわれた?
考えれば考えるほど、エヴァルドの人となりがわからなくなる。
でも転けそうなところを助けられたのは事実だった。
「イリア様、大丈夫ですか?」
心配げにファビオが覗き込んでくる。
気を遣わせてしまったのを悪く思いながら、大丈夫だと柔らかい金髪を撫でた。
「あ、マントを返しそびれました」
今返さなくても、替えぐらいあるだろうか。
「聖王様のだったのですね。ぼくが返してきましょうか?」
「いえ、特に何も言われませんでしたから」
夜に戻ると言っていたし、そのときで良いだろう。
わざわざ届けさせるのは気が引けた。
「それより案内を頼めますか? まだ何がどこにあるのか知らなくて」
「わかりました! ご案内しますね!」
満面の笑みを向けられて、イリアも頬が緩んだ。
ファビオは元気いっぱいだった。やっぱり柴犬に似ている。大きさからいえば、豆柴だけど。
何せ寝室にこもっていてもすることがない。
歩き回るのはRPGの鉄則だろうと、イリアは腰を上げた。
もう転けないと心に決めて。
「ファビオですっ、よ、よろしくお願いしましゅ!」
美少年が噛んだ。
緊張したまま、真っ赤な顔でお辞儀する姿が可愛らしい。
ファビオもイリアと同じチュニック姿であるものの、生地は硬そうだった。ファビオが動く度に、服に大きなシワができる。
その愛嬌のある様子に、自然とイリアは微笑んでいた。
「イリアです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「は、はい!」
絵画に描かれる天使のような容姿でありながら、ファビオはどこか柴犬を連想させる。
エヴァルドの威圧感に晒されたあとだったのもあり、その愛らしさにほっこりした。
【鑑定】スキルを持っているからか、自己紹介を受けると彼のステータスが自動で表示される。
ファビオは十二歳という若さでありながら、職業に「神子の世話係」とあった。
イリアに対する好感度は、当然のごとくMAXだ。
(エヴァルドもファビオのようにわかりやすかったら、数値に納得できるんですけど……それはそれで怖いでしょうか?)
堅物そうな男が、頬を染めて張り切っている姿を想像する。うん、これはない。
視線を感じてエヴァルドに顔を向けると、そこには相変わらずの無表情があった。
黒い瞳と目が合うけれど、じっと見つめられ、たじろぐ。
(ま、まだ怒ってますかね……)
居心地の悪さに身を揺すれば、エヴァルドが口を開いた。
「余は、席を外す。夜には戻るゆえ、それまではファビオを頼るといい」
「わかりました。あ、これ……」
ずっとマントを借りたままだった。
部屋を出ていこうとするエヴァルドに、慌てて立ち上がる。
――慌てたのがいけなかったのか。
まだアバターの操作に慣れていないせいか。
イリアはベッドから下りるなり、足をもつれさせた。
「神子様!?」
体が傾く中で、ファビオの叫びを聞く。
床に倒れる衝撃に備え、咄嗟に目を瞑った。
「……」
けれど予想していた痛みがやってこない。
それどころか温もりを感じて、顔を上げる。
「大丈夫か?」
「あ……」
息がかかるほどの距離に、エヴァルドがいた。
助けてくれたらしい。
腕に抱かれているのを認識すると、エヴァルドの体格の良さが服越しに伝わってきて、羞恥に身を焼かれた。
頬が熱い。
拙い自分が恥ずかしかった。
まさかこの年になって転けるなんて。
「あ、ありがとうございます」
「無理をするな」
今度こそしっかりと自分の足で立つ。
しかし心配されているのか、すぐには放してもらえない。
「言えば周りの者が動く。そなたが何かする必要はない」
いや、心配じゃなくて説教のためかと考え直す。
余計な手間を取らせるなと。
説教から逃げないよう捕まえられているのだ。
でも、いったん放して欲しいと切実に思う。
立ったことで、たくましい腕が腰へ回されたのが気になって仕方がなかった。
なんというか、密着具合が恥ずかしい。
感触がリアルなのは、成人指定だからだろうか。
「聞いているか?」
「っ……」
指でそっと顎を持ち上げられる。
優しく促されるような接触だったけれど、体は過剰に反応した。
エヴァルドの目を直視できず、視線を外す。それでも眉間に寄るシワが、視界の端に映った。
「余が怖いのか?」
「ちがっ、あの……触れ合うことに、馴れてなくて」
怖い気持ちもないと言えば、うそになるけど。
落ち着かない。
思い返せば、現実でも人と触れ合った記憶がとんとなかった。子どもの頃、以来?
密着する体温に、どうしても身が焼かれる。
「ならば、余がその手助けをしよう。他の者の手は借りるな」
そう言って頬に口付けられた。
突然のことに言葉が出ない。
片やエヴァルドは慣れているのか、イリアから身を離すなり、何事もなかったかのように部屋をあとにした。
退室を見送り、しばらく呆然としてから、力なくベッドに腰かける。
(挨拶! きっとあれは挨拶!)
深い意味はない……はず。
それか嫌がらせ? こちらが馴れてないからって、からかわれた?
考えれば考えるほど、エヴァルドの人となりがわからなくなる。
でも転けそうなところを助けられたのは事実だった。
「イリア様、大丈夫ですか?」
心配げにファビオが覗き込んでくる。
気を遣わせてしまったのを悪く思いながら、大丈夫だと柔らかい金髪を撫でた。
「あ、マントを返しそびれました」
今返さなくても、替えぐらいあるだろうか。
「聖王様のだったのですね。ぼくが返してきましょうか?」
「いえ、特に何も言われませんでしたから」
夜に戻ると言っていたし、そのときで良いだろう。
わざわざ届けさせるのは気が引けた。
「それより案内を頼めますか? まだ何がどこにあるのか知らなくて」
「わかりました! ご案内しますね!」
満面の笑みを向けられて、イリアも頬が緩んだ。
ファビオは元気いっぱいだった。やっぱり柴犬に似ている。大きさからいえば、豆柴だけど。
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