ぼく、魔王になります

楢山幕府

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 魔王としての拠点――仕事先? は、北の森を抜けた先に決まった。
 コボルトの村よりカネフォラ王国に近くなる。
 それでも国境に建てられたカネフォラ王国の砦は見えない。

「オーガはもちろん、ドライアド、オーク、ラミア……他、大森林の主勢力は、リゼ様に賛同しております」
「むしろ大森林を守るのに反対する奴っているのか?」
「いませんね。みんなリゼ様が盾になってくださるのかと、感動しているぐらいです」

 早くも拠点には、力自慢の魔族が集まってきているとのこと。

「住居の建設、間に合うかな?」
「自分の寝床ぐらい、自分で作らせりゃいいんだよ。コボルトもわざわざ手伝いに来てくれてるし、大丈夫だろ」
「みんなリゼ様に認められたい一心ですからね」

 各勢力が第四夫人の座を狙っているらしい。
 これに関しては、ちょっと頭が痛い。

「ドライアドたちは大丈夫? 住処から離れてる人もいるんでしょ?」
「環境が整っていれば問題ないようです」

 大森林の北側は、そのほとんどがカネフォラ王国に面している。
 北東に至っては、東のロブスタ帝国とも。
 ぼくたちの知らないところで軍を動かされても困るので、他国と接する森には、ドライアドに頼んで幻惑の魔法をかけてもらっていた。

「大軍を動かすには大森林の木が邪魔です。警戒すべきは、あちらでも拠点を作られて、少しずつ進入されることですからね」
「ニルギリが主導して頑張ってるんだろ? 第四夫人はあいつじゃね?」
「本人は現地妻でいいって言ってるけどね」

 四人目の奥さんは、とりあえず保留でお願いします。
 ぼくが眉尻を落とすと、ガルにガシガシと頭を撫でられる。

「ま、今はそれどころじゃねぇか。ツッケロ部族連合とコラツィオーネ国へは魔王表明への根回しだけでよかったのか? 特にコラツィオーネ国はリゼの言うことなら、何でも聞きそうだぞ」
「うん、それぞれ人間の国と交易してる事情があるからね。大森林のことで迷惑はかけられないっていうか、ぼくも彼らの責任までは持てないから」

 助けてくれと言われても、助けに行ける距離じゃないし、魔素の問題もある。
 コラツィオーネ国では大丈夫だったけど、下手に魔素の少ない場所へぼくたちは行けない。
 独立している彼らには、彼らなりの方法で生き残ってもらうしかなかった。
 仮に敵に回っても恨みはない。

「私たちは大森林を守るのが第一です」
「そうだな。……で、俺らの拠点が完成したら、まずはカネフォラ王国と話し合いか?」
「うん、勇者には言葉が通じるし、話し合いで解決できるなら一番いいでしょ?」

 今までの歴史を鑑みても、話がまとまる可能性は低い。
 カネフォラ王国の企みもある。
 魔王討伐を表向きの理由にしているけど、本音は大森林にある魔石が欲しいんだ。
 勇者を説得できても、王国が否を言いそうだった。

「私たちの姿勢を見せるのも大事ですよ。誰も傷つかない方法を模索するのも」

 コボルトの村には、勇者パーティーを恨んでいる者もいる。両親を殺されたスオーロだっているんだ。
 勇者を嫌っている魔族も多い。
 けれど軍との戦いになったら、大森林側も無傷ではいられない。
 ぼくはみんなを守ると決めた。
 人間に抗うとも。
 でもだからといって、犠牲を出したくはない。
 ガルの手が頭に伸びてくる気配を感じて、撫でられる前にその手を取った。
 大きな手を両手で握る。

「大丈夫。戦いになることも、ちゃんと考えてるから」

 ケガをする人、死ぬ人が出ることも。
 その責任を負うために、ぼくは魔王になった。

「一人で抱え込まなくていいからな。リゼには現地妻も含めりゃ四人嫁さんがいるんだ。ちゃんと背負うものも分担しろよ」
「……うん」
「みんなで決めたことだ。忘れるな。俺らは俺らの意思で、ここにいるんだからな」

 答える代わりに、ガルに抱き付いた。
 ぼくは幸せ者だ。
 こんなに素敵な人が、ぼくを愛してくれているんだから。
 ガルだけじゃない。ルフナもディンブラも、ぼくを心配してくれているのは伝わっている。

「ガル、愛してる」
「おう、俺も愛してるぜ。勇者なんかには渡さねぇ」
「多分彼は、ぼくのことを女の子だと勘違いしてるんだよ」

 はじめて川で会ったとき、大事な部分は隠れてた。
 次に会ったときは、スカート姿だった。
 ぼくを知らない人は、まずぼくを女の子だと思うからね。

「わかってねぇな。リゼの場合、男か女かなんて関係ねぇんだよ」
「リゼ様ですからね」
「……是は最近、面食いなのだとわかった」
「そうなの?」

 集まったエルフや魔族を見て、ディンブラは物足りなさを感じていたらしい。

「リゼが一番綺麗だ」
「あ、ありがとう」

 いつも眠たげなのに、真剣な目で見つめられて照れる。
 照れ隠しで、にへらと笑えば、ディンブラの顔が近付いてきた。
 ガルがディンブラの顔を手の平で覆う。

「ぶっ」
「俺の前でいちゃつこうとは、いい度胸だ」
「……是もリゼといちゃつきたい」
「俺のいないところでやれ」
「ガルはリゼといつも一緒にいないか?」
「いるな」

 しゅん……とするディンブラがあまりにも可愛かったので、ぼくのほうから軽くディンブラの唇を啄んだ。
 ディンブラの表情は喜色に染まり、ガルは裏切られたような顔をぼくに向ける。

「あんまりイジワルしないの」

 ちゅっと音を立てて、ガルの唇も吸った。これでおあいこだ。

「……リゼ様、私は?」
「ルフナもして欲しいの?」

 凄い勢いで頷きながら、ルフナが顔を近づけてくる。

「だったら夜までお預けだね」
「あぁ……! リゼ様……!」

 ぼくの答えにルフナは膝からくずおれるけど、顔は嬉しそうだった。

「俺、たまにこいつが心配になるぞ」
「ぼくは段々ルフナが悦ぶことがわかってきたよ」
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