怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部一年生

001

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 スポットライトに照らされた花道があった。
 ううん、ぼくがそう感じるだけで、実際には男子生徒たちが左右に分かれて人垣を作ってるだけなんだけど。
 朝の光を背に歩く二人は、まごうことなき主役だった。
 白い吐息と共に、周囲から黄色い声が上がる。

「きゃー! れい様は今日もお麗しいっ」
眞宙まひろ様の微笑みを朝から見られるとは、なんて素晴らしい日なんだ……!」

 全寮制の男子校でも甲高い声は響くもんだよねぇ。野太いのが大半だけど。
 かくいうぼくも、男にしては声が高い自信がある。
 年が明け、まだまだ寒さが厳しい朝であっても、思春期の男子校生たちは我先にと二人がよく見える位置に陣取った。
 寮から校舎までの道のりは、さながら怜くんと眞宙くんのランウェイだ。本人たちは露程も気にしてないだろうけど。
 ぼくも負けじと声を張り上げる。
 両手を頬に添えて、少しでも本人に声が届くように。

「怜様、格好良いー!」

 怜くんの幼なじみ兼、親衛隊の隊長として、通行の邪魔になる人はいないか目を配るのも忘れない。
 声援を送るのはいいけど、必要以上の接触はNGだからね!
 しかし、キョロキョロと辺りを見回すぼくの視界を遮るものがあった。
 綺麗な白い手が見える。
 細く伸びた指に整えられた爪。女性とは違うけど、遜色のない美しい手が目の前を通り過ぎる。
 見知った手。
 ぼくの大好きな人の一部。
 その手の持ち主はぼくを振り返り、眉間に深い皺を刻んでいた。

「いつの間に後ろへ行ったんだ」

 聞こえる声で、ぼくが背後にいると気付いたんだろう。
 低くなった声が、不機嫌さを滲ませている。
 怜くん、ごめんね。怜くんにしてみれば、ぼくの声も煩わしいよね。
 肩を掴まれ、前へと押し出された。

「お前は人混みに紛れやすいんだから、ちゃんと隣にいろ」
「うん、ごめん……」

 朝から怒らせてしまった。
 しゅん、とするけど、これも必要なこと。
 視線だけで怜くんを見る。
 日本人離れした長身に美しい顔立ち。
 クセのない銀髪は水面のように陽光を反射させて眩しい。
 切れ長の目に収まるエメラルドグリーンの瞳なんて、透明感のある海そのもので。
 今も神様から祝福を受けているような佇まいに息を飲む。
 これが「名法院みょうほういん れい」なんだと、実感する。

「怜様、格好良い!」
「ふざけてないで、歩け」
「ふざけてないよ! イエスッ、クールビューティー怜様!」

 拳を握って反論した。
 ああああ、だってもう、格好良過ぎっ!!!!
 これで生粋の日本人だっていうんだから、ゲームの世界は……! 最高かな!?
 イラストレーターさんの表現した萌えが! 推しが! 目の前にいる現実!!! ぼくに尻尾が生えてたら、全力で振ってたよね!

「黙れ」
「うにゅっ」

 まだまだ声援を送りたいのに、親指と中指で頬を挟まれる。
 ちょっ、怜くんの手の平が唇に当たって……!
 あばばばばば。
 触れる少し冷たい体温に目が回る。

「それも渡せ」
「やらぁ……!」

 気が動転しつつも、求められた鞄は死守した。
 ぼくと怜くんの鞄だ。
 推しの鞄を持てるのは、親衛隊長の特権です! 教科書は全部教室に置きっぱなしだから、実質、革の重みしかないんだけど。ぶっちゃけ、鞄を持ち歩く意味はない気がするけど。
 うるうると目に涙を溜めて訴えたのが良かったのか、怜くんは溜息をついて諦めてくれた。
 しかし頬は挟まれたままで、むにむにされる。

「せめて、そのふざけた呼称は止めろ。いつも通りに呼べばいいだろう」
「だってぼくは、怜くんの親衛隊長だよ? 『様』で呼ぶのは基本です!」

 同じ親衛隊の子たちがいる前で、普段呼びはできません。
 そう、ぼくは怜くんの親衛隊の隊長を務めている。
 湊川みなとがわ たもつ。口元の小さなホクロがチャームポイントの、性悪美少年だよ!
 自分で美少年っていうのはどうかと思うけど、鏡で見た自分は……美少年でした。
 意味がわからないよね。
 でも現実問題、ゲームのキャラに転生しちゃったんだよね。
 これはもう成りきるしかないわけですよ。
 だってゲーム通りに進めば、怜くんの幸せは保証されてるんだから。
 対立するぼくたちに、優しい声が届く。眞宙くんだ。

「別に今にはじまったことじゃないんだから、怜も気にしなければいいのに」
「すぐ真後ろで声を上げられる俺の身にもなれ。何だクールビューティーって」
「はい! それはねっ、冷たくも美しい怜くんの容姿を謳った」
「説明はいらん」

 解説しようとするぼくの頬を、怜くんは飽きずにむにむにする。
 むぅ、そろそろ口がタコさんになって顔がブサイクになるよ!
 不機嫌なクールビューティーとは対象的に、眞宙くんは柔和な笑みで怜くんの肩を叩いた。
 二人が並ぶと絵画も真っ青だよね。
 あー画面越しに見ていた二人が、実在して目の前にいるぅー……。

 前世のぼくがハマっていたゲームは「ぼくときみのミニチュアガーデン」という、ファンには「ぼくきみ」と呼ばれていた、王道学園もののBL恋愛シミュレーションだ。
 怜くんも、眞宙くんも、ゲーム主人公の相手になる攻略キャラ。
 特に生徒会長の怜くんはメインヒーロー扱いで、ファンの間でも人気が高かった。ぼくの推しでもある。
 普段は無表情なぶっきらぼうだけど、実は照れを誤魔化した結果だったっていうね! 終盤で恥ずかしげに明かされたときは身悶えたよね! もう、この不器用ツンデレ! 好き!!!
 ぼくに対してはツンツンでしかなくても!

「ほら、いつまでも立ち止まってたら、みんなの邪魔だよ」
「こいつに言え。目を離すとすぐいなくなる」

 行くぞ、とようやくぼくの頬は解放された。
 ぼくが余計なことをしないよう見張るためか、背中に腕を回される。
 それだけで、胸がドキドキした。
 怜くんにとっては何気ない動作でも、簡単にぼくの心臓は破裂しそうだ。
 前世に関係なく、ぼくは怜くんが大好きだった。
 たとえこの先――二年生に上がる頃には――心底嫌われていても。
 口から心臓が出そうになりながら、意を決して、怜くんの腰に腕を……は無理だから、制服の裾を掴む。

「どうした?」
「く、くっつきたくなって……!」

 う、鬱陶しいのはわかってるよ!
 でも、その、ぼくには怜くんに甘えまくって、嫌われるという使命があるから!

「顔が真っ赤だぞ?」
「だ、だって、これでも勇気を振り絞ってるからっ」
「お前、誘ってる自覚はあるんだよな?」
「はぇ?」

 これ以上くっつきたいんだろう? と、怜くんはぼくの背中に回していた腕を腰に移動させた。
 つーっと指先で脇腹をなぞられて肩が弾む。

「ひゃっ!?」
「ちょっと怜、ここが昇降口だって忘れてないよね?」
「誘ってきたのは保だ」
「反応を見る限り、『そういう意味』ではなさそうだけど?」
「ちっ」

 眞宙くんの指摘に、怜くんは舌打ちするとぼくから距離を置いた。
 ううう、怜くん、ごめんね。
 今は鬱陶しくても、我慢してね。
 ゲーム主人公くんが編入してきたら、ちゃんと邪魔をして、身を引くから!
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