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高等部二年生
040
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話を聞き終えた眞宙くんは、会議室の机に突っ伏した。
素直に信じられる話じゃないよね。
内容が突拍子もなかったせいか、逆に嘘だとも思われなかったようだ。
机に突っ伏したまま、眞宙くんがぼそりと呟く。
「怜って思ってたほど、報われてなかったんだね……」
「眞宙くん?」
内容が上手く聞き取れず名前を呼ぶけど、独り言だったのか、返事はなかった。
その代わり、はぁ……と一つ、溜息をついて眞宙くんが顔を上げる。
「とりあえず、保が自主退学する必要はないよ」
「どうして? でもそれじゃ怜くんが」
「怜と別れて距離を取るだけなら、在学しながらでも可能だよね? クラスも別なんだから」
「それで……いいのかな?」
「いいんだよ。保の話にある怜の……ルート? に入らなかったら、その限りじゃないんでしょう?」
「だけど今の流れ的に、もうルートには入ってると思うんだ」
明らかにゲーム主人公くんである七瀬くんと、怜くんが過ごす時間が多い。
元々BLゲーム「ぼくきみ」のメインヒーローが怜くんなのもあって、関係を築きやすいだろうし。
「……保は、この世界が現実であることは理解してるんだよね?」
「うん、流石にそれはね」
「えーと、ゲームのイベント? も、細部が異なってるなら、流れが変わる余地もあるんじゃないのかな?」
「うん……でも、大筋は今のところ変わってないよ」
「今のところ、ねぇ……」
すんなり前世の話を信じてくれた割には、眞宙くんの返事は煮え切らない。
眞宙くんは恋愛シミュレーションゲームをしたことがないから、イマイチ実感が湧かないんだろうか。
「まぁ僕としては、ゲームに沿って怜と保が破局してくれたほうが助かるんだけど」
「破局だなんて大袈裟だよ。付き合ってもいないのに」
ぼくがそう答えると、眞宙くんはキョトンとした顔でこちらを見た。
間の抜けた表情が幼く見えて、可愛いと思ってしまう。
「はっ……あははははは! 怜、ざまぁっ!!!」
「えっ!? 眞宙くん、どうしたの!?」
急に高笑いをはじめた眞宙くんに焦る。
何がツボに入ったのか、全く分からなかった。
「あははっ、あーおかしい! でも、そうだね。怜が悪いんだよね? 自業自得だ。普段の行いが悪いんだから」
「眞宙くん……?」
笑いが治まったと思ったら、今度は一人頷いて何かを納得している。
その表情はとても晴れ晴れとしていた。
「うん、なるほどね。ねぇ、保の言う通り、大筋が変わらないなら、特に自分から行動を起こす必要もないんじゃない? 流れに身を任せるのも一つの手だよ」
「眞宙くんは、ぼくが何もしないほうがいいと思うの?」
「保がゲームの流れを信じてるならね。……保は、本当にこのまま怜から身を引くつもりなの?」
その問いは、既に何回も自問自答してきたことだった。
「七瀬くんとのことがなくても、ぼくと怜くんの関係には未来がないから」
「そんな顔をしながら言われると、僕は素直に頷けないんだけど」
今、ぼくは眞宙くんにどんな顔を向けているんだろうか。
自分の顔は自分では見られない。
けれどぼくを見る、眞宙くんはどこか寂しそうな顔をしていた。
「はぁ、保が吹っ切れるのを待つしかないのか」
「吹っ切れるかなぁ」
「そこは吹っ切れてもらわないと僕が困るよ。折角のチャンスなんだから」
こんな話を聞いた後でも、眞宙くんのぼくへ対する思いは変わらないらしい。物好きだなぁ。
前世にプレイしたゲームの内容を信じてるなんて、怜くんみたいに怖い一面を出されても、文句は言えないのにね。
お昼休みの残り時間が、あと十分ほどになったときだった。
怜くんが上村くんを連れて会議室にやってくる。
上村くんは長い黒髪を揺らしながら疲れた表情を見せた。
怜くんはぼくを前にしても、残念ながらいつも通りだ。顔を真っ赤にした怜くん見たかったなぁ。
「名法院が姿を見せたら事情聴取どころではなくてな。結局、親衛隊員二人は自発的に七瀬に詰め寄ったことを認めたが、湊川もそれでいいか」
「うん」
「ではこの二人については改めて風紀委員で会議を行い、処罰させてもらう。そして湊川と佐倉にも、罰は受けてもらうぞ。隣室の様子を盗み聞きするなど、褒められた行為ではないからな」
腕を組んで宣言する上村くんに、眞宙くんは仕方なくぼくに付き合っただけだと声を上げようとしたけど、他ならぬ眞宙くんに止められた。
「僕は自分の意志で行動したんだよ。保に巻き込まれたなんて思ってないから」
眞宙くんの言葉に、上村くんが頷く。
「湊川が強要していない以上、佐倉にも責任がある。それに佐倉は止められる立場にいた。……生徒の模範である生徒会役員が二人も揃って、どういうつもりだ! 恥を知れっ!」
上村くんの一喝が、大気を震わす。
武道を嗜んでいることもあって、腹から出された声には凄まじい威力があった。
思わず肩を弾ませてしまったのは眞宙くんも一緒だ。
「これを風紀委員からの厳重注意とさせてもらう。加えて、反省文の提出を求める。明日からの一週間、生徒会のない放課後は、校内清掃にも従事してもらうからそのつもりでいろ。以上をもって、湊川と佐倉に対する罰とする」
どうやらぼくと眞宙くんについては、処罰が決まっていたらしい。
上村くんからの注意内容は至極もっともで、罰に対しても、むしろその程度でいいのかと思ってしまう。
「えっと……それだけでいいの?」
「盗み聞きといってしまえばそうだが、実際の手段が幼稚過ぎる」
「幼稚……」
「湊川、お前は小学生か? 第一、多少の集音効果はあっても、不鮮明では意味がないだろ。この話が外に出たところで、マネをする奴がいるとも思えん。七瀬のことがなかったら、ただの笑い話だぞ。罰を下すこちらの身にもなれ。ただ行動に問題があることは確かだから、反省はしろ」
「はい……。面倒を起こして、ごめんなさい」
本当に謝らないといけない相手は七瀬くんだけど、上村くんに余計な手間をかけさせてしまったことも謝罪したかった。
頭を下げ、少ししてから顔を上げたぼくに、上村くんは怜くんを顎でしゃくる。
「それより、名法院の世話を任せる。危うく風紀委員室が凍るかと思ったぞ」
「人を珍獣のように言うな」
すぐさま怜くんは不満を口にしたけど、似たようなものだろ、と上村くんの目は語っていた。
素直に信じられる話じゃないよね。
内容が突拍子もなかったせいか、逆に嘘だとも思われなかったようだ。
机に突っ伏したまま、眞宙くんがぼそりと呟く。
「怜って思ってたほど、報われてなかったんだね……」
「眞宙くん?」
内容が上手く聞き取れず名前を呼ぶけど、独り言だったのか、返事はなかった。
その代わり、はぁ……と一つ、溜息をついて眞宙くんが顔を上げる。
「とりあえず、保が自主退学する必要はないよ」
「どうして? でもそれじゃ怜くんが」
「怜と別れて距離を取るだけなら、在学しながらでも可能だよね? クラスも別なんだから」
「それで……いいのかな?」
「いいんだよ。保の話にある怜の……ルート? に入らなかったら、その限りじゃないんでしょう?」
「だけど今の流れ的に、もうルートには入ってると思うんだ」
明らかにゲーム主人公くんである七瀬くんと、怜くんが過ごす時間が多い。
元々BLゲーム「ぼくきみ」のメインヒーローが怜くんなのもあって、関係を築きやすいだろうし。
「……保は、この世界が現実であることは理解してるんだよね?」
「うん、流石にそれはね」
「えーと、ゲームのイベント? も、細部が異なってるなら、流れが変わる余地もあるんじゃないのかな?」
「うん……でも、大筋は今のところ変わってないよ」
「今のところ、ねぇ……」
すんなり前世の話を信じてくれた割には、眞宙くんの返事は煮え切らない。
眞宙くんは恋愛シミュレーションゲームをしたことがないから、イマイチ実感が湧かないんだろうか。
「まぁ僕としては、ゲームに沿って怜と保が破局してくれたほうが助かるんだけど」
「破局だなんて大袈裟だよ。付き合ってもいないのに」
ぼくがそう答えると、眞宙くんはキョトンとした顔でこちらを見た。
間の抜けた表情が幼く見えて、可愛いと思ってしまう。
「はっ……あははははは! 怜、ざまぁっ!!!」
「えっ!? 眞宙くん、どうしたの!?」
急に高笑いをはじめた眞宙くんに焦る。
何がツボに入ったのか、全く分からなかった。
「あははっ、あーおかしい! でも、そうだね。怜が悪いんだよね? 自業自得だ。普段の行いが悪いんだから」
「眞宙くん……?」
笑いが治まったと思ったら、今度は一人頷いて何かを納得している。
その表情はとても晴れ晴れとしていた。
「うん、なるほどね。ねぇ、保の言う通り、大筋が変わらないなら、特に自分から行動を起こす必要もないんじゃない? 流れに身を任せるのも一つの手だよ」
「眞宙くんは、ぼくが何もしないほうがいいと思うの?」
「保がゲームの流れを信じてるならね。……保は、本当にこのまま怜から身を引くつもりなの?」
その問いは、既に何回も自問自答してきたことだった。
「七瀬くんとのことがなくても、ぼくと怜くんの関係には未来がないから」
「そんな顔をしながら言われると、僕は素直に頷けないんだけど」
今、ぼくは眞宙くんにどんな顔を向けているんだろうか。
自分の顔は自分では見られない。
けれどぼくを見る、眞宙くんはどこか寂しそうな顔をしていた。
「はぁ、保が吹っ切れるのを待つしかないのか」
「吹っ切れるかなぁ」
「そこは吹っ切れてもらわないと僕が困るよ。折角のチャンスなんだから」
こんな話を聞いた後でも、眞宙くんのぼくへ対する思いは変わらないらしい。物好きだなぁ。
前世にプレイしたゲームの内容を信じてるなんて、怜くんみたいに怖い一面を出されても、文句は言えないのにね。
お昼休みの残り時間が、あと十分ほどになったときだった。
怜くんが上村くんを連れて会議室にやってくる。
上村くんは長い黒髪を揺らしながら疲れた表情を見せた。
怜くんはぼくを前にしても、残念ながらいつも通りだ。顔を真っ赤にした怜くん見たかったなぁ。
「名法院が姿を見せたら事情聴取どころではなくてな。結局、親衛隊員二人は自発的に七瀬に詰め寄ったことを認めたが、湊川もそれでいいか」
「うん」
「ではこの二人については改めて風紀委員で会議を行い、処罰させてもらう。そして湊川と佐倉にも、罰は受けてもらうぞ。隣室の様子を盗み聞きするなど、褒められた行為ではないからな」
腕を組んで宣言する上村くんに、眞宙くんは仕方なくぼくに付き合っただけだと声を上げようとしたけど、他ならぬ眞宙くんに止められた。
「僕は自分の意志で行動したんだよ。保に巻き込まれたなんて思ってないから」
眞宙くんの言葉に、上村くんが頷く。
「湊川が強要していない以上、佐倉にも責任がある。それに佐倉は止められる立場にいた。……生徒の模範である生徒会役員が二人も揃って、どういうつもりだ! 恥を知れっ!」
上村くんの一喝が、大気を震わす。
武道を嗜んでいることもあって、腹から出された声には凄まじい威力があった。
思わず肩を弾ませてしまったのは眞宙くんも一緒だ。
「これを風紀委員からの厳重注意とさせてもらう。加えて、反省文の提出を求める。明日からの一週間、生徒会のない放課後は、校内清掃にも従事してもらうからそのつもりでいろ。以上をもって、湊川と佐倉に対する罰とする」
どうやらぼくと眞宙くんについては、処罰が決まっていたらしい。
上村くんからの注意内容は至極もっともで、罰に対しても、むしろその程度でいいのかと思ってしまう。
「えっと……それだけでいいの?」
「盗み聞きといってしまえばそうだが、実際の手段が幼稚過ぎる」
「幼稚……」
「湊川、お前は小学生か? 第一、多少の集音効果はあっても、不鮮明では意味がないだろ。この話が外に出たところで、マネをする奴がいるとも思えん。七瀬のことがなかったら、ただの笑い話だぞ。罰を下すこちらの身にもなれ。ただ行動に問題があることは確かだから、反省はしろ」
「はい……。面倒を起こして、ごめんなさい」
本当に謝らないといけない相手は七瀬くんだけど、上村くんに余計な手間をかけさせてしまったことも謝罪したかった。
頭を下げ、少ししてから顔を上げたぼくに、上村くんは怜くんを顎でしゃくる。
「それより、名法院の世話を任せる。危うく風紀委員室が凍るかと思ったぞ」
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