乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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「僕のことも信用できないと、おっしゃってましたか?」
「それは……」
「まずは殿下ご自身の目で、確かめられてはいかがでしょう」

 ここで僕が帰ったら、殿下が追い返したことになる。
 王妃様がウッドワード家をどう思っているにしろ、今日僕は招かれて城にいるのだ。
 早々に立ち去るのは、双方にとってあまりよろしくないように思えた。
 上流階級の侯爵家を招いておいて追い返すのだ。いくら王家といえども、いい評判にはならない。
 父上からはぬかりなく、と言われている。
 ウッドワード家としては、関係を悪くする意図はない。

「……座るのは許す」
「ありがとうございます」

 許しが出たので、殿下の正面に腰を下ろす。
 同時に殿下は、横に置かれた――僕が置いた――クマのぬいぐるみを胸に抱いた。

 美少年とぬいぐるみの組み合わせとか……尊い。

 思わず拝みそうになるのを耐える。
 ショートパンツから伸びる足も目の毒だった。白い靴下がソックスガーターで留められているのに心が躍る。
 どうやら前世の記憶を理解してから、人格もそちらに引っ張られているようだ。
 テンションの上がる気持ちを落ち着かせようと、用意された紅茶に手を伸ばした。
 子どもでも飲みやすい温度になっているおかげで、喉が潤される。
 ふう、おいしい。

 紅茶の香りでリラックスしている間も、大きな目で殿下はじっと僕を見ていた。
 先ほどは燃え盛るようだった瞳も、今は宝石のルビーに姿を変えている。
 僕の言葉どおりに、目で確かめようとしているんだろうか。何それ尊い。
 しかし悪いことをしていなくても、天使に見つめられていると緊張を強いられる。
 取り戻せつつある平静を失いたくはなかった。
 何か話で気を紛らわせられればと、広い室内に視線を巡らせて話題を探す。

 案内してくれた侍女は、部屋の入口で待機していた。
 僕が訪ねる直前にも一暴れしたのか、勉強机と思しき周辺には、紙とペンが散乱している。
 そこに白紙の紙と重なって落ちている地図が見えた。

「地理の勉強をされていたのですか?」
「っ……うるさい!」
「え」

 何が癇に障ったのか。
 急に立ち上がった殿下は、手元にあった紅茶を僕に浴びせた。

「きゃぁあああ!」

 部屋にいた侍女の悲鳴が耳をつんざく。
 熱い。
 いくら飲みやすい温度になっているとはいえ、肌に触れるには十分熱かった。
 咄嗟に張りつくシャツを引っ張る。
 頬にかかった部分が、ジンジンと痛んだ。

「ぁ……ちが……」
「殿下?」

 何故か僕以上に、殿下が震えている。
 大丈夫か尋ねたかったけれど、悲鳴を聞いて駆けつけた大人たちに視界を遮られた。

「早く、侍医の手配を! ウッドワード様、失礼いたします!」

 抱き上げられ、浴室へと連れていかれる。
 その後、僕が殿下と顔を合わすことはなかった。
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