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貴族はプライドが高く、体面を気にする。
無礼を働かれたら怒りはするものの、それを殺人と同罪なんて言ってしまったら、狭量過ぎると貴族社会では笑い者にされるんだ。
思うところが多い貴族社会にも、限度というものがあった。
「むしろ許すほうが寛容だと良い印象を与えられるから、店でのことは不問にする。ただ二度目はないから、言いたいことがあるなら、正規ルートで陳情してくれ」
許されるのは一度だけ。次からは、何らかの処分が下る。
そもそも僕たちは、まだ子どもだから問題にはならないけど、今後のことを考えれば、ちゃんとルールを教えておいたほうがいいと思った。
意味がわかるか尋ねれば、テディはこくんと頷く。
そして遠慮がちに僕を見上げた。上目遣いが可愛い。
「でも、だったら何で……俺、連れてこられたの」
「その件については謝る。迷惑をかけたお詫びをしたかったのだけど、一番は君と話がしたかったからだ」
「俺と? 何で」
うっ、純粋な瞳を向けられて胸が痛む。
ゲームの攻略対象だからとは言えない。
店でのことを振り返り、理由付けとしては弱いかなと思いつつ……。
「興味が湧いた。さぁ、折角用意したのだし、食べるといい」
結局のところ、深い意味はなかった。
つい、いつものノリで誘ってしまっただけで。
追求を逃れるように、紅茶で喉を潤す。今日も侍女が淹れてくれた紅茶は香りがよく、鼻腔から幸せにしてくれる。
僕がサンドウィッチに手を伸ばすと、テディも食欲が湧いたのか、同じようにサンドウィッチを食べはじめた。
一口食べると、テディが目を見開く。
それからは早かった。
サンドウィッチに留まらず、用意したものをまんべんなく頬張り、平らげていく姿は、小動物を彷彿とさせる。
どうやら味はお気に召してもらえたみたいだ。
「こっちの焼き菓子は、通りにある店の?」
「あぁ、ローズガーデンといったかな」
通りというのは、貴族街にある商店が集まった通りのことだ。グラムさんのユノーハイネスも、この通りにある。前世の記憶で言えば、貴族御用達の商店街といったところだろうか。
ローズガーデンの焼き菓子はヴィヴィアンの好物で、我が家では常備されていた。
他にも店で購入した焼き菓子についてテディは言及し、なるほどと頷く。
「流石、侯爵家。どれも一級品ばかりだ。しかも老舗だけじゃなく、新鋭店のまである」
「妹は新しいものが好きだから」
僕の言葉に、テディの目が光ったような気がした。
きっと今になって、ヴィヴィアンと交流を持つことで、得られる利益を察したんだろう。
「簡単には近づけさせないよ?」
「ぐっ……こんなことなら、馬車で……」
「勿体なかったね。しかし不思議だ」
何が? と僕を見るテディに、怯えた様子はない。
彼の緊張が解れたことに安堵しながら、言葉を続ける。
「君は損得勘定ができる。貴族の上下関係も理解しているだろう? なのにどうして、店ではあんな振る舞いをした?」
貴族に逆らったらどうなるか、現実にそぐわないものの、テディは知っていた。
だから馬車ではあれだけ怯えてたんだ。
それがわかっていながら、テディがわざわざ相手を怒らせるような態度をとった理由が、僕にはわからなかった。
無礼を働かれたら怒りはするものの、それを殺人と同罪なんて言ってしまったら、狭量過ぎると貴族社会では笑い者にされるんだ。
思うところが多い貴族社会にも、限度というものがあった。
「むしろ許すほうが寛容だと良い印象を与えられるから、店でのことは不問にする。ただ二度目はないから、言いたいことがあるなら、正規ルートで陳情してくれ」
許されるのは一度だけ。次からは、何らかの処分が下る。
そもそも僕たちは、まだ子どもだから問題にはならないけど、今後のことを考えれば、ちゃんとルールを教えておいたほうがいいと思った。
意味がわかるか尋ねれば、テディはこくんと頷く。
そして遠慮がちに僕を見上げた。上目遣いが可愛い。
「でも、だったら何で……俺、連れてこられたの」
「その件については謝る。迷惑をかけたお詫びをしたかったのだけど、一番は君と話がしたかったからだ」
「俺と? 何で」
うっ、純粋な瞳を向けられて胸が痛む。
ゲームの攻略対象だからとは言えない。
店でのことを振り返り、理由付けとしては弱いかなと思いつつ……。
「興味が湧いた。さぁ、折角用意したのだし、食べるといい」
結局のところ、深い意味はなかった。
つい、いつものノリで誘ってしまっただけで。
追求を逃れるように、紅茶で喉を潤す。今日も侍女が淹れてくれた紅茶は香りがよく、鼻腔から幸せにしてくれる。
僕がサンドウィッチに手を伸ばすと、テディも食欲が湧いたのか、同じようにサンドウィッチを食べはじめた。
一口食べると、テディが目を見開く。
それからは早かった。
サンドウィッチに留まらず、用意したものをまんべんなく頬張り、平らげていく姿は、小動物を彷彿とさせる。
どうやら味はお気に召してもらえたみたいだ。
「こっちの焼き菓子は、通りにある店の?」
「あぁ、ローズガーデンといったかな」
通りというのは、貴族街にある商店が集まった通りのことだ。グラムさんのユノーハイネスも、この通りにある。前世の記憶で言えば、貴族御用達の商店街といったところだろうか。
ローズガーデンの焼き菓子はヴィヴィアンの好物で、我が家では常備されていた。
他にも店で購入した焼き菓子についてテディは言及し、なるほどと頷く。
「流石、侯爵家。どれも一級品ばかりだ。しかも老舗だけじゃなく、新鋭店のまである」
「妹は新しいものが好きだから」
僕の言葉に、テディの目が光ったような気がした。
きっと今になって、ヴィヴィアンと交流を持つことで、得られる利益を察したんだろう。
「簡単には近づけさせないよ?」
「ぐっ……こんなことなら、馬車で……」
「勿体なかったね。しかし不思議だ」
何が? と僕を見るテディに、怯えた様子はない。
彼の緊張が解れたことに安堵しながら、言葉を続ける。
「君は損得勘定ができる。貴族の上下関係も理解しているだろう? なのにどうして、店ではあんな振る舞いをした?」
貴族に逆らったらどうなるか、現実にそぐわないものの、テディは知っていた。
だから馬車ではあれだけ怯えてたんだ。
それがわかっていながら、テディがわざわざ相手を怒らせるような態度をとった理由が、僕にはわからなかった。
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