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Ⅰ 夢であって欲しかった
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目を覚まして、俺は絶望した。
大いに、盛大に、絶望した。
ふかふかの屋根付きのベッド、もちろんのことながら俺の部屋にこんな豪勢な物は置かれていない。
最後の記憶にアクセス、夜ふかしでゲームをして、会社に行って、上司の飲みに付く合って、家に帰って再びゲーム。時計の針が深夜4時を指していたことまでは憶えている。
……今思えば、胸を締め付けるような痛みが。
いやいや、まさか。
しかし、この夢の現実味はなんだ。
婚約破棄をし、その場にいた彼女の父親に一発食らった、この顔面の痛み。
彼女の誕生日に婚約破棄をしているのだから当然なのだけれど。
俺は寝ぼけている身体を起こし、鏡の前に立つ。
黒い髪、邪悪さがあるアメジスト色の瞳。
歳は、アイビーと同じなら17歳くらいか。
体格は細目、運動は出来ないのか筋肉はない。
胸に十字の傷がある。
第三王子リエル・ウルナ・アルブレヒト。
例えるなら〝顔だけは良いのに……〟な小悪党である。
噂に聞く転生、というものだろうか。
世界観は中世の英国のようだからタイムスリップに近いかも。
どっちにしろ理解の出来ないことが起こっている。
唯一前世と同じものは寝てる最中の脱ぎ癖くらいか。
「おはようございます。――リエル様。ご自分でベッドから起き上がったのですか?」
ノックして部屋に入ってきたメイドが目を丸めている。
かなり幼い、中学生くらい、茶髪の三つ編み、そばかすがある。
口をあわあわさせるくらい驚くことなのだろうか。
「それくらい俺にも出来るさ。すまないが衣服を着替えるまで外で待っていてくれ」
アイビーとの言い争い、婚約破棄の時とは違い、ちゃんと自分の言葉を発することが出来た。
「着替えは私め使用人が」
「馬鹿を言うな。男にだって妻になる者以外に見せたくない姿くらいあるんだ」
メイドは「もう見慣れていますが?」と言いたげに首をかしげた。
この時代の王族はメイドに着替えを手伝ってもらうのが普通なのか?
「悪い、まだ寝ぼけているようだ。君の名前はなんだったか」
「……ガネスでございます」
「そうか。いつもありがとう、ガネス」
「え。あ、いえ……はい!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながらメイドのガネスは扉の外へ出た。
それから外からメイド数人の声が漏れ入ってきた。
「リエル様の今日のご機嫌は?」
「怒鳴りつけられていない?」
「陶器は……ホウキがけした方が良い?」
「……感謝、されてしまいました」
「は?」
着る物がやけに多いな。
重ね着の文化なのか服の種類も多い、こんなことなら手伝ってもらうべきだったか。
いや、一番着やすい組み合わせでいい。
スーツと思えば着こなせる。
正しいのか分からないが黒メインと瞳に合わせた紫の装飾。
主張は強すぎず、なかなか良いのではないだろうか。
「待たせたな」
扉を開ける。
びっくり顔のガネス。
「似合わないだろうか」
「とてもお似合いです」
世事か本心か、分からないがおかしいなら流石にひと言添えてくれるだろう。
「それでは料理のご用意が出来ております。お部屋に運んでしまってもよろしいでしょうか」
「構わないが、家族は」
「……?」
〝第三王子〟というくらいだ、少なくとも兄はふたりいるはず。
国王や王妃だって。
「このお屋敷には使用人以外だとリエル様しかお住みになっておりませんが」
「いやいや。寝室でさえかなりの広さだぞ。この敷地はどのくらいのデカさなんだ……」
「推定10万坪かと」
万、東京ドーム何個分?
というかどれだけ走れば外に出られるか分からない。
それをこのバカ王子ひとりの為に使っているって言うのか。
気でも狂っているんじゃないか。
「俺の為だけの敷地か?」
「はい、その通りでございます」
「なんて無駄遣いな」
「ふぇ?」
俺が戸惑っていると料理が車輪付きの机に乗せられて部屋へと持ってこられる。
豚の丸焼き、焼き魚、ロブスター、チーズ、コーンスープ、お米、牛乳。
料理がずらっと並ぶ。
「こんな量、食べられるわけが……」
「いえ、もちろん完食していただく必要はなくですね。残り物はしっかりと処分させていただきますのでご安心ください」
「捨てる、ということか」
「そのようにしろと。……『王族ならば豪勢に、贅沢の限りをつくさないと』とリエル様が」
うちの母さんが言っていた「食材の全てに感謝しなさい」と。
父さんが言っていた「米の一粒残すだけでも神様が目を潰しにくる。というか俺が潰す」と。
ゲーム仲間が言っていた「特典欲しさにハッ●ーセットを捨てる者、地獄に落ちるべし」と。
「食べ物を無駄にするのはゲス野郎の所業だ。全部食べ切るぞ。それから次からの食事は経費を抑えろ。米とみそ汁さえあれば良い」
「食べきる。おひとりでこの量を?……無茶です」
「ひとりで食いきれるか。この屋敷にいる絶賛空腹中の使用人を全員集めろ。それでも残るようなら国民に無料配布するぞ」
ガネスの目が真ん丸になる。
このバカ王子はなにを言っているんだと。
ご飯を食べて速攻彼女の元に行き土下座でもなんでもしようと思っていたが、こんな醜態をさらしたままでは謝罪の誠意がまったくない。
まずこのバカ王子、リエルの毒を全て吐き出してからだ。
大いに、盛大に、絶望した。
ふかふかの屋根付きのベッド、もちろんのことながら俺の部屋にこんな豪勢な物は置かれていない。
最後の記憶にアクセス、夜ふかしでゲームをして、会社に行って、上司の飲みに付く合って、家に帰って再びゲーム。時計の針が深夜4時を指していたことまでは憶えている。
……今思えば、胸を締め付けるような痛みが。
いやいや、まさか。
しかし、この夢の現実味はなんだ。
婚約破棄をし、その場にいた彼女の父親に一発食らった、この顔面の痛み。
彼女の誕生日に婚約破棄をしているのだから当然なのだけれど。
俺は寝ぼけている身体を起こし、鏡の前に立つ。
黒い髪、邪悪さがあるアメジスト色の瞳。
歳は、アイビーと同じなら17歳くらいか。
体格は細目、運動は出来ないのか筋肉はない。
胸に十字の傷がある。
第三王子リエル・ウルナ・アルブレヒト。
例えるなら〝顔だけは良いのに……〟な小悪党である。
噂に聞く転生、というものだろうか。
世界観は中世の英国のようだからタイムスリップに近いかも。
どっちにしろ理解の出来ないことが起こっている。
唯一前世と同じものは寝てる最中の脱ぎ癖くらいか。
「おはようございます。――リエル様。ご自分でベッドから起き上がったのですか?」
ノックして部屋に入ってきたメイドが目を丸めている。
かなり幼い、中学生くらい、茶髪の三つ編み、そばかすがある。
口をあわあわさせるくらい驚くことなのだろうか。
「それくらい俺にも出来るさ。すまないが衣服を着替えるまで外で待っていてくれ」
アイビーとの言い争い、婚約破棄の時とは違い、ちゃんと自分の言葉を発することが出来た。
「着替えは私め使用人が」
「馬鹿を言うな。男にだって妻になる者以外に見せたくない姿くらいあるんだ」
メイドは「もう見慣れていますが?」と言いたげに首をかしげた。
この時代の王族はメイドに着替えを手伝ってもらうのが普通なのか?
「悪い、まだ寝ぼけているようだ。君の名前はなんだったか」
「……ガネスでございます」
「そうか。いつもありがとう、ガネス」
「え。あ、いえ……はい!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながらメイドのガネスは扉の外へ出た。
それから外からメイド数人の声が漏れ入ってきた。
「リエル様の今日のご機嫌は?」
「怒鳴りつけられていない?」
「陶器は……ホウキがけした方が良い?」
「……感謝、されてしまいました」
「は?」
着る物がやけに多いな。
重ね着の文化なのか服の種類も多い、こんなことなら手伝ってもらうべきだったか。
いや、一番着やすい組み合わせでいい。
スーツと思えば着こなせる。
正しいのか分からないが黒メインと瞳に合わせた紫の装飾。
主張は強すぎず、なかなか良いのではないだろうか。
「待たせたな」
扉を開ける。
びっくり顔のガネス。
「似合わないだろうか」
「とてもお似合いです」
世事か本心か、分からないがおかしいなら流石にひと言添えてくれるだろう。
「それでは料理のご用意が出来ております。お部屋に運んでしまってもよろしいでしょうか」
「構わないが、家族は」
「……?」
〝第三王子〟というくらいだ、少なくとも兄はふたりいるはず。
国王や王妃だって。
「このお屋敷には使用人以外だとリエル様しかお住みになっておりませんが」
「いやいや。寝室でさえかなりの広さだぞ。この敷地はどのくらいのデカさなんだ……」
「推定10万坪かと」
万、東京ドーム何個分?
というかどれだけ走れば外に出られるか分からない。
それをこのバカ王子ひとりの為に使っているって言うのか。
気でも狂っているんじゃないか。
「俺の為だけの敷地か?」
「はい、その通りでございます」
「なんて無駄遣いな」
「ふぇ?」
俺が戸惑っていると料理が車輪付きの机に乗せられて部屋へと持ってこられる。
豚の丸焼き、焼き魚、ロブスター、チーズ、コーンスープ、お米、牛乳。
料理がずらっと並ぶ。
「こんな量、食べられるわけが……」
「いえ、もちろん完食していただく必要はなくですね。残り物はしっかりと処分させていただきますのでご安心ください」
「捨てる、ということか」
「そのようにしろと。……『王族ならば豪勢に、贅沢の限りをつくさないと』とリエル様が」
うちの母さんが言っていた「食材の全てに感謝しなさい」と。
父さんが言っていた「米の一粒残すだけでも神様が目を潰しにくる。というか俺が潰す」と。
ゲーム仲間が言っていた「特典欲しさにハッ●ーセットを捨てる者、地獄に落ちるべし」と。
「食べ物を無駄にするのはゲス野郎の所業だ。全部食べ切るぞ。それから次からの食事は経費を抑えろ。米とみそ汁さえあれば良い」
「食べきる。おひとりでこの量を?……無茶です」
「ひとりで食いきれるか。この屋敷にいる絶賛空腹中の使用人を全員集めろ。それでも残るようなら国民に無料配布するぞ」
ガネスの目が真ん丸になる。
このバカ王子はなにを言っているんだと。
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