悪役令嬢に婚約破棄を告げるバカ王子に転生してしまった

あやの屋

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Ⅶ 悔い改めよ、バカ王子

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 プレナイト教会。
 俺が国王から与えられた領地で初めて訪れた場所は教会だった。
 確かにリエルには罪があり、懺悔しなくちゃいけないことが山ほどある。

 とりあえず教会の前でニ礼ニ拍手一礼。

「なにやってますの?」

 奇行だったのかアネモネが聞いてくる。
 異世界のお祈りの作法はもちろん、海外式も知らない俺からしたら間違いはないはずだ。
 お賽銭は投げ込んでいないけれど。

「お祈りをな」

「こっちは孤児院です。教会は隣でしてよ」

「あ、……そう」

 無知が露呈ろていした恥ずかしさのあまり、少し強めに孤児院の入り口を叩く。
 扉を開けたのは若いシスター。
 金色の髪をしており、少しぽっちゃりとしたおっとり系、お胸が随分と大きい。
 視線がそちらに向いているとアネモネが肘を横っ腹に入れてきた。

 いやだって、人間一番前にある物に視線がいってしまうものだろう。

「おはようございます。第三王子リエル様。この度は……ああ、だから婚約破棄を。しかし使用人との子供が出来たからとこちらに来られましても、……まあ、子供に罪はないので大事に育てさせていただきますが」

 人だかりが少ない、やや早朝、仮面をつけた怪しいメイドと一緒に現れたバカ王子。
 大体察しが付いたとでも言いたそうな雰囲気。
 おっとりとしているのに精一杯怒り顔を作る。

「シスター。私と御主人様の間にはなにもございません。使用人への不貞行為だって一度もありません。聞き込みをしましたので間違いないかと、それにリエル様はとてもプライドがお高い方。使用人に手を出したことが世間に知られようものなら自害なさるかと」

 ディスられている。
 完全にフォローに見せかけたディスを食らっている。
 しかもかなり攻撃力が高い。

「まあ、魔法学園では女性遊びを豪勢にしていたようですから、ひとりや、ふたり、……分かりませんわね」

 仮面の下から睨みつけてくるアネモネ。
 新人メイドである君をそこまで怒らせる内容ではないと思うのだけど。
 確かに異性関係がだらしない人間に嫌悪感を抱くこともある。

 現在の俺だって、運命の人なんてファンタジーを未だに信じているくちだ。
 しかし遊び相手との子がいる可能性、考えただけでも冷や汗が出てくる。
 アイビーだって愛想が尽きて完璧超人な辺境伯に乗り換えるわけだな。

 冷や汗をハンカチで拭き、何事もなかったかのようにキリっとした表情に変える。
 こんなデリケートな話はなしだ、俺はこの教会が営む孤児院に政治の話をしに来たのだから。

「ここの子供たちを皆、我が屋敷で面倒を見たいと思っている」

「お断りします」

 俺が言い終わるよりも先にシスターが首を横に振る。

「いわば徴兵のようなものでしょう、第三王子は婚約破棄によりヴィクトリア公爵家へ怒りを買っています。この領地に何かがあっても公爵家の騎士団が自主的に助けに来て下さる可能性は低くなりました。そのため、自分で動かせる戦員が欲しい。だから貴族や王族への不満が少ない子供たちに兵士になってもらおうと」

 顔につばでも吐かれやしないだろうか。
 それほどの憤りである。

「そう言われてしまうと、かなりゲスに聞こえるな」

「打ち首覚悟で言わせていただきますと、この王国の貴族は搾取するばかりで庶民は飢えるばかりです。しかもこの領地は昨今の天候不良で作物が不作、1カ月毎に収穫できた物の1割を第三王子のお屋敷に納めなくてはいけない。かといって他9割が市場に並ぶわけもなく、貴族たちからも税だなんだのと奪われる。庶民の為に残っているのはほんの少し。希少だから値も張りだす。……子供たちは飢えているのです、それに加えて戦地に赴けと?」

 怒りからくる行動ではない、この覚悟は子供たちを守らんとする母性本能なんだろう。
 打ち首になるかもしれないという恐怖で、言葉のところどころが裏返る。
 それを心配した子供たちがシスターに駆け寄ってくる。

「頭を抱えるな。なんだそのクソ制度」

「へ?」

「来月からは屋敷に収める必要はない。保存食もだいぶあるし。数日前から、屋敷の敷地に畑などを作っているところだ。自足自給、多く作って市場にも出そうと思っている」

「……だとしても徴兵など」

「そこまで言うなら子供たちに絶対武器を持たせないと誓おう」

「リエル様!」

 発案者であるアネモネの制止の声、しかし俺は右手を挙げてそれを諦めさせる。

「じゃあどうして子供たちを第三王子のお屋敷へ」

「学校を始めるんだ。その子たちには勉強してもらう。搾取されるくらいなら商売を学んで貴族や王族から搾り取ってやれば良いじゃないか」

 シスターの瞳に恐怖は消え、少しの希望が芽生える。
 話を聞くためだけに少しだけ開けられていた扉が全開する。

「紅茶を淹れます。お話を聞かせください」

「ありがとう。シスター」
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