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Ⅵ 不登校が学校を始めるって本当ですか?
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執事長オスカーに「そろそろ魔法学校に出席した方がよろしいのでは」と釘を刺されているが、まだ不登校を続けるつもりだ。
そもそも魔力もないのに魔法を学んでなにになるってんだ。
道徳的学びは現世の学校ですでに基礎を抑えている、後は自己向上のみ。
「リエル様、どちらへ」
「少し出掛ける、領地の現状を知りたくてな」
庭で花の手入れをしているアネモネに呼び止められる。
メイド姿ではなく、がっつり土仕事が出来る服装だ。
一瞬、農家のおばさんかと思った。
「ならば私もお供いたしますわ」
「大丈夫だ。そんな大層なことじゃない。散歩だ、散歩」
「領地の者は御主人様をよく思っていないはずです。後ろから刺された、なんてことがあるかもしれませんわ」
「そんな自分の領地で……ありえるのか?」
「当然」
聞かずともわかるだろう、と呆れたように頷かれてしまった。
確かに、アイビーを罵倒したあの時の民衆の目、今でも一揆が起こってもなんら不思議はない様子だったな。
「確かにひとりでは危険か……。バカでも王子だ、俺を守ってくれる騎士とかはいないのか」
「騎士はおりませんね。王国といえば、ヴィクトリア公爵領か辺境伯領の騎士団ですが、数人お借りしますか?」
「どっちもダメだ」
むしろ借りてきた騎士に斬られてしまうような気がする。
特に前者、誰が自分たちの領主の娘を捨てた男に仕えたいと思うのか。
「王子なのですから、それくらいの要求は叶うかと。常々、このお屋敷の自衛力には不安点がございましたから」
「確かに、使用人と庭師しかいないからな。王国中央の土地だから敵国に攻め入れられないという考えなのか、失っても痛手ではないか」
おそらく後者だな。
魔法の使えないアンスペルばかりをお屋敷に閉じ込めているのだから。
「でしたら孤児をここで生活させ、騎士として訓練するのがいかがでしょうか? リエル様だけに従う騎士団を作るのです」
「孤児は多いのか」
「近年の田畑の不作により民衆のふところは潤わず、やむなく教会の前に捨てていく事例が増えているそうですわ」
俺はぽんっと手を叩く。
ひらめいた、ほとんどはアネモネの発案だが。
「ならこの屋敷を学校しよう。バカでかい屋敷だ。子供1000人くらいは生活出来るだろ」
「……受け入れるのですか?」
冗談で言っていたつもりなのか、口をあんぐり開けて固まる。
「その不作は俺が牧場を増やせとわがままを言ったせいもあるのか?」
「他にも要因は様々ですが、1割程度は」
アネモネは思っていることをはっきり言ってくれるから清々しいな。
彼女の言葉には嘘が無くていい。
「なら知識のある者を増やそう。武力強化も捨てがたいが、まずは民衆の生活を潤わすのが最優先だ」
「知恵を持てば、権力への対抗意識も高まります。反乱の種に水を与えるだけになるかもしれませんが、それでも構いませんの?」
反乱、もちろん困る。
それでも現世、肩書だけは民主主義の世界で生きてきた人間だから。
搾取するばかりで議会で寝ているような政治家や、税金があがり続ける世界ではあったけれど。
政治のことはまったく分からん、だけど俺がして欲しかったことを自分の領地で行えば良いじゃないか。
「大切な物を失う事以上に怒りの火種はない。なら誰も愛する人を失わない強さを、知恵を与えるのが恵まれて生まれてきた者の義務だと思うぞ」
「……愛する者を」
恥ずかしいセリフだっただろうか。
政治のことも知らないし、不登校なバカ王子が学校運営を始めるだなんて。
でもこちとら失恋の傷、絶賛引きずり中だ。初めてのことに熱中しないとふさぎ込んでしまう自信がある。
「お供します。その言葉が偽物にならないように」
仮面の付けたメイドはまるで貴族階級のようなお辞儀をする。
その所作は、まさに完璧だった。
「ああ、俺がこれ以上バカなことをしないように横で見ておいてくれ」
「はい」
俺がそう言うとアネモネは満面の笑みで頷く。
心臓が止まりそうになった。その美しさに――――いやいやいや、失恋したばかりだぞ。
俺ってこんなに惚れっぽい人間だったか?
自分の両頬をたたき、平然を装う。
「そ、そうと決まれば、教会に行くぞ」
馬車の御者台に乗り込み、アネモネの手を引く。
「操縦は私が、馬の扱いには慣れておりますので」
「お願いします」
すぐさま手綱を渡した。
そもそも魔力もないのに魔法を学んでなにになるってんだ。
道徳的学びは現世の学校ですでに基礎を抑えている、後は自己向上のみ。
「リエル様、どちらへ」
「少し出掛ける、領地の現状を知りたくてな」
庭で花の手入れをしているアネモネに呼び止められる。
メイド姿ではなく、がっつり土仕事が出来る服装だ。
一瞬、農家のおばさんかと思った。
「ならば私もお供いたしますわ」
「大丈夫だ。そんな大層なことじゃない。散歩だ、散歩」
「領地の者は御主人様をよく思っていないはずです。後ろから刺された、なんてことがあるかもしれませんわ」
「そんな自分の領地で……ありえるのか?」
「当然」
聞かずともわかるだろう、と呆れたように頷かれてしまった。
確かに、アイビーを罵倒したあの時の民衆の目、今でも一揆が起こってもなんら不思議はない様子だったな。
「確かにひとりでは危険か……。バカでも王子だ、俺を守ってくれる騎士とかはいないのか」
「騎士はおりませんね。王国といえば、ヴィクトリア公爵領か辺境伯領の騎士団ですが、数人お借りしますか?」
「どっちもダメだ」
むしろ借りてきた騎士に斬られてしまうような気がする。
特に前者、誰が自分たちの領主の娘を捨てた男に仕えたいと思うのか。
「王子なのですから、それくらいの要求は叶うかと。常々、このお屋敷の自衛力には不安点がございましたから」
「確かに、使用人と庭師しかいないからな。王国中央の土地だから敵国に攻め入れられないという考えなのか、失っても痛手ではないか」
おそらく後者だな。
魔法の使えないアンスペルばかりをお屋敷に閉じ込めているのだから。
「でしたら孤児をここで生活させ、騎士として訓練するのがいかがでしょうか? リエル様だけに従う騎士団を作るのです」
「孤児は多いのか」
「近年の田畑の不作により民衆のふところは潤わず、やむなく教会の前に捨てていく事例が増えているそうですわ」
俺はぽんっと手を叩く。
ひらめいた、ほとんどはアネモネの発案だが。
「ならこの屋敷を学校しよう。バカでかい屋敷だ。子供1000人くらいは生活出来るだろ」
「……受け入れるのですか?」
冗談で言っていたつもりなのか、口をあんぐり開けて固まる。
「その不作は俺が牧場を増やせとわがままを言ったせいもあるのか?」
「他にも要因は様々ですが、1割程度は」
アネモネは思っていることをはっきり言ってくれるから清々しいな。
彼女の言葉には嘘が無くていい。
「なら知識のある者を増やそう。武力強化も捨てがたいが、まずは民衆の生活を潤わすのが最優先だ」
「知恵を持てば、権力への対抗意識も高まります。反乱の種に水を与えるだけになるかもしれませんが、それでも構いませんの?」
反乱、もちろん困る。
それでも現世、肩書だけは民主主義の世界で生きてきた人間だから。
搾取するばかりで議会で寝ているような政治家や、税金があがり続ける世界ではあったけれど。
政治のことはまったく分からん、だけど俺がして欲しかったことを自分の領地で行えば良いじゃないか。
「大切な物を失う事以上に怒りの火種はない。なら誰も愛する人を失わない強さを、知恵を与えるのが恵まれて生まれてきた者の義務だと思うぞ」
「……愛する者を」
恥ずかしいセリフだっただろうか。
政治のことも知らないし、不登校なバカ王子が学校運営を始めるだなんて。
でもこちとら失恋の傷、絶賛引きずり中だ。初めてのことに熱中しないとふさぎ込んでしまう自信がある。
「お供します。その言葉が偽物にならないように」
仮面の付けたメイドはまるで貴族階級のようなお辞儀をする。
その所作は、まさに完璧だった。
「ああ、俺がこれ以上バカなことをしないように横で見ておいてくれ」
「はい」
俺がそう言うとアネモネは満面の笑みで頷く。
心臓が止まりそうになった。その美しさに――――いやいやいや、失恋したばかりだぞ。
俺ってこんなに惚れっぽい人間だったか?
自分の両頬をたたき、平然を装う。
「そ、そうと決まれば、教会に行くぞ」
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「操縦は私が、馬の扱いには慣れておりますので」
「お願いします」
すぐさま手綱を渡した。
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