上 下
8 / 67
精霊の使い魔 編

7

しおりを挟む
「お早う御座います。」

ドアを開けて中に入る。

「おはよう。七五三しのしめくん。」

大門だいもんさんが挨拶を返してくる。


ここは、家から歩いて10分の所に在る雑居ビルの601号室。

表向きは、小さな興信所をよそおっているが。

このビルその物が、内閣特殊調査課の所有物なので。多少の問題が起きても対処する事が出来る。

まぁ、興信所と言っても。 実際の所は、依頼など来る筈も無く。 毎日が開店休業状態。

なら何故、こんな所に居るのだと言われれば。

世間体の問題だ。

家に居るだけだと、世間体が悪いとの事なので。

それだけの理由の為に、近場のビルを買い取って世間体を繕う。

税金の無駄使いだろっ! っと突っ込みを入れたくなるが。

他の階層は、ちゃんとした営業をしているので見逃してほしい。

「訓練の方はどうかね?」

大門さんが尋ねてくる。

「自分では、前よりはマシになっていると思っていますが。」

「そうか。 なら簡単な仕事でもやってみるかい?」

「僕だけで。ですか?」

「そうだよ。」

笑顔で答える大門さん。

大門だいもん さとる。 40歳。 妻子持ち。

俺よりも年下だけど、顔と貫禄だけなら、俺の方が年下に見える。

中島君の部下の1人で、元は他の部署で働いていたのだけど。

と或る事情で、部署異動で中島君の元に。

「もちろん。 姫宮ひめみやと大精霊の許可は得ているよ。」

当然だな。

まだまだ、ヒヨッコの駆け出しも良い所なのだから。

「なら、お願いします。」

俺の返事を聞くと、1枚の紙を差し出してくる。

「それが、仕事内容です。」

内容を読むと、こんな感じだった。

市内に在る、取り壊し予定のビルに捕り憑いてしまっている低級霊の浄化もしくは除霊。

浄化と除霊の違いだが。

浄化は説得、もしくは納得して貰って成仏して貰う事。

除霊とは、力業ちからわざで無理やり成仏させる事(昇天とも言う)。

「無理だと思ったら、すぐに逃げてくるようにね。」

「判っています。 無茶も無理も、するつもりは無いので安心してください。」

「ほんと、君が年配の方で助かったよ。

若いと、無茶、無理、無謀、無鉄砲が多くて困るからね。」

俺の言葉に、クスリと笑う大門さん。


 * * * * * * *


問題のビルに入る。

ビルの大きさは10階建て。

広さ的には、横10メートル。縦20メートルと言った感じ。

周囲には、内閣特殊調査課の人や、姫宮ひめみやの非戦闘関連の人達が人払いをしてくれている。

何でもかんでも、自分1人で動いているとは思うな。

周囲で戦うこと以外で動いてくれて居る人たちが居るからこそ、戦闘する者たちも安心して戦えると言うものだ。

まぁ、安心して戦うと言うこと事態が変な話と言えば変なのだけど・・・。

胸のポケットから1枚の符を取り出す。

「結界術。 展開。」

俺の言葉に反応して符が消えて、ビル全体を霊的地場が覆う。

これは、異層結界とは違い。

霊的地場で周囲を覆い、霊的な力を遮断してくれる結界。

これで、ビルの敷地内で霊的な力を行使しても、ビルの外には被害が出ないように為る。

との事。

実際に使用するのは、今日が初めて。

「おーい。 俺の声が聞こえているか?」

1人、ビルの中で立って大声で叫ぶ。

孝也と美優紀の加護を持った事で。

俺の言葉には、霊的な働きが在るとの事。

つまり俺は。

幽霊とか亡霊とかの存在に、直接的に話す事が出来るようになった。

「誰?」

俺の言葉に反応して、白い靄の様な物が目の前に現れる。

声からして女性のように感じるが。

「初めまして。 俺は七五三しのしめと言う者だ。

国からの依頼で、君に成仏して貰いに来た。」

出来るだけ威嚇に為らないように言う。

「成仏って言われてもねぇ・・・。

わたし自体が、何で成仏できないのか分からないのよねぇ・・・。」

白い靄は、人の姿に為り。

そして、その姿が白のワンピースを着た女性だと分かるようになる。

その姿は、ちゃんとした人間の女性の姿をしていた。

漫画やアニメみたいに、足が無いなんてことは無く。

普通に足もついている。

違う所と言えば、足が地面に着いて居ないと言う事だ。

正直、話の通じる相手《霊》で助かった。

問答無用で襲ってくる霊が多いらしいので。
しおりを挟む

処理中です...