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動乱 編

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「どこへ逃げようと言うのだ。エスメラルダよ。」

次に、次元の割れ目の中から、若い男性が出てくる。

黒い瞳に、黒い髪。 ぱっと見ただけでは日本人に見える男性。

但し、額には大きくて逞しい迄の角が出ている。

「魔王様! 御一人で先行しないでください!」

男性の後ろから、若い女性が出てくる。

その女性も、黒い瞳に黒い髪。ただし、頭部には2本の角が左右に伸びている。

そして、その女性の後ろから出てくる異形の者たち。

1人は、虎の頭をし。 身体は人の男性。

1人は、人の上半身に、下半身は蛇の男性。

1人は、背中に4対の白い翼を持った女性。


魔王と呼ばれた男性は、一瞬チラリとコチラを見たが。すぐさま、ビルに突っ込み瓦礫に埋もれたモノに視線を移す。

ガララ。っと音を立てながら、瓦礫の中から立ち上がる人影。

その人影は小さく、ふらふらと力なく立ち上がった。

「逃げたのではない。 其方たちと、渡り合う事の出来る、力或るの持ち主の所に誘い込んだだけ。」

見た目は15~6歳と言った所だろうか。

その少女は、芳乃よしの達の方を見ながら言った。

「自分の力では敵わぬと見て。 他の次元の者たちの力を借りるか。

勇者として恥ずかしいとは思わぬのか?」

「確かに。 人として、どうしたものかと自分でも思うよ。

でもね。 これで、アンタも帰れない。

すくなくとも、向こうの世界の人たちは、魔王の影に怯えて過ごす事は無くなる!」

そう。次元の割れ目は、5人が出てきた瞬間には消えてしまっていたのだ。

《え? 勇者が魔王を連れてコッチの世界にきた? 自分で倒せないから、倒せるかもしれない大精霊の居るコチラの世界に?》

魔王と勇者のやり取りに混乱する芳乃よしの

「そこの者たち! 魔王を倒すのを手伝ってくれないか!」

勇者エスメラルダが、芳乃よしの達を見て叫ぶ。

それを見て、虎頭は双剣。

下半身蛇の男性は盾と長剣。

4枚の翼を持つ女性は槍。

と、それぞれの武器を構える。

だが、その瞬間。

炎の壁が、魔王、勇者、芳乃よしの達を3分割に分ける。

「我は、炎の大精霊イフリート。 この星と共に生きる精霊だ。」

「同じく。風の大精霊ジン。」

「私は、土の大精霊ベヒモス。」

「水の大精霊ローレライ。」

「炎の大精霊が問う。 魔王よ。 そなたの目論見は何ぞ?」

「初めまして。 この星の大精霊。 俺の名はハデス。 向こうのストラでは冥界の魔王を名乗っている。

目当ては、そこのバカ勇者を処分する事だ。」

「処分した後は?」

「さぁ。特に考えてはいない。 どのみち、次元の割れ目は閉じられた。

 俺には、次元を開き。 元の世界ほしに戻る力は無い。

このせかいで、過ごす以外は手はなかろう?」

「騙されてはいけません! 魔王ハデスは! こちらの世界を手中に置く気です!」

エスメラルダが話に割って入る。

「人の子よ。 其方には聞いておらぬ。黙っておれ。」

その瞬間、エスメラルダの声が消える。

何やら叫んでいるようだが、その声は、一切こちら側には聞こえてこない。

「空気の振動を止めたわ。 これで、静かに話せるでしょう。」

「心使い。感謝する。」

魔王ハデスが軽く頭を下げる。

芳乃よしの。 お前が話を付けろ。」

「はっ?」

イフリートの言葉に、間抜けな声を返してしまう芳乃よしの

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