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僕は幼児
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魔物の事で頭の中がいっぱいになった僕は、獣人の子供用の服を孔雀店主が急遽手直ししている間に、パーカスに尋ねてみた。
「ぱーかちゅ?まものっちぇ、ない、ない?」
何度言い換えても「何」と言えない僕の口よ、滅びろ。僕は羞恥心で涙ぐみながらパーカスを見上げた。するとパーカスは優しい顔で僕を抱き上げた。
「よしよし、ここには魔物など居ないのだから、怖がらなくていいのだぞ?テディは魔物を知ってるのじゃな?もしかして魔物に追われていたのか…。可哀想に。無事だったのは奇跡じゃの。」
あらら、パーカスの中で勝手にストーリーが作られちゃったよ。その魔物のあれこれを教えて欲しいのにぃ!僕がパーカスの腕の中で思わず埴輪目になっていると、忙しく手を動かしながらこっちを見ていた店主と目が合った。
店主はクスクス笑うとパーカスに言った。
「隠者様、その子が言いたかったのは魔物が何か知りたかったんじゃないですか?『居ない』じゃなくて『何』って聞いたんですよきっと。そんな顔してますもん。」
僕は思わず手をペチペチと叩いて、パーカスを期待の眼差しで見つめた。パーカスは目を見開くとカカカと笑って、服を着せ掛ける店主に僕を任せて話し出した。
「そうかそうか、それは悪かったの、テディ。テディは魔物を知らんかったか。まぁ確かにあの状態で遭遇して助かる事は、万にひとつも無いだろうて。
この世界には竜人と獣人、そして魔物が住んでおるのじゃよ。魔物は多くは我らの食料になるが、一部なかなか手強いモノもおる。食料になる魔物でも危険で無いものの方が少ないかの?
我が家は竜人の邪魔者が来ない一方、魔物には狙われるのう。柵があるとは言え一人でウロウロしたら、あ奴らに連れ攫われるから側におるのじゃぞ?」
孔雀店主が僕に着せた服を調整しながら、口を尖らせてパーカスに言った。
「隠者様、この可愛いくて弱々しい子を山の中で育てるのは難しいのではありませんか?竜人である隠者様がお強いのは分かってますけど、小さな子供は予想外の動きをするものですからね。いっそどなたか信用できる者に預ける事も考えてはいかがですか?」
そう言われて、パーカスは僕をじっと見つめた。僕は何となくこの老人が寂しそうな空気を纏った気がして、ヨチヨチと近づくとパーカスに両手を伸ばした。
「らっこ。ぱーかちゅ、らっこ。」
パーカスが微笑んで僕を抱き上げると、店主はクスクス笑って肩をすくめた。
「とはいえ、その子は隠者様にすっかり懐かれているんですね。そんなに可愛いと、街中でも悪い獣人に攫われる事に用心しなければならないと思えば、魔物とどちらがタチが悪いかわかりませんね。
…では新しい服は来週には出来上がりますから。急遽寸法を合わせたもうひとセットは、この袋に入れておきました。」
僕は案外親切で色々気がつく孔雀の店主に手を振ると、パーカスに抱っこされてさっきの店に向かった。取り敢えず魔物の情報はおいおい仕入れるとして、服を着て余裕が出た僕が道すがら周囲を見回すと、なるほど沢山の獣人たちが思い思いに通りを歩いていた。
パーカスはひと回り大柄で目立つせいなのか、それとも竜人のせいなのか、すれ違う獣人たちが自然道を譲っている様だった。それから腕に抱えた僕を見ると、目を見開いてガン見してくる。
その眼差しが好意的なものばかりなので、僕が愛想よくニコニコしていると、途端に嬉しげに尻尾が揺れるのが何とも面白かった。獣人は気持ちが身体に現れるから嘘をつくのは得意じゃなさそうだ。
「「隠者様!その子何ですか!?」」
気づけばパーカスの周りを数人の獣人の子供らがまとわりついていた。ぱっと見、小学生ぐらいに見える彼らは5~6歳から10歳ぐらいといったところだろう。しかも多分人型になる前の獣までチョロついていた。
皆僕を見て口々に「ちっちぇ」だの「可愛い」だの、「目が緑色」だの騒がしい。僕はこっちも観察してやれとばかり身を乗り出して彼らを見下ろしていたけれど、ふと耳に残った言葉が気になった。
「…ぱーかちゅ?ぼくのおめめ、みろり?ほんちょ?」
僕が自分の目を指差して尋ねると、パーカスは目を見開いて考え込んだ。そして店に到着すると、女将さんに言った。
「悪いがここに大きな鏡は無いかの?テディが自分の姿を見た事が無いようでの。」
女将さんは驚いた表情で僕たちを見ると、雑貨屋の店の奥を指差した。
「ほら、あそこに姿見はありますよ。そんなに小さいと自分の姿を見る機会もそう無いかもしれませんねぇ。」
パーカスが店の奥へと進むと、僕は周囲の商品の方が気になったけれど、大きな姿見に映る自分の姿に口をポカンと開けた。誰これ。うわー、想像以上にチビだ。
ガタイの良すぎる厳しい老人にちょこんと抱っこされているのは、サラリとした艶のある黒髪が顔を包んでいるもちもちした幼児だ。人目を惹くぱっちりした明るい緑色の瞳は、僕には身に覚えがなかった。そしてその顔つきはどこかで見た様な気がするものの、はっきりとは思い出せない。
そして一緒に姿見に映り込むパーカスの、頭のてっぺんに斜めに突き出ている銀色の尖ったものは角だろうか。パーカスが大き過ぎていつも見上げていたせいか角があるとは思わなかった。竜人は角がマストアイテムなのか?
「…ぱーかちゅ、ちゅの。ぼく、ちゅのにゃい。ふあふあみみ、にゃい。」
僕は頭に手を当てて、自分に角も獣人の様な耳も無い事をアピールした。これで人間という言葉が出てくるかも知れないと少しの期待を持って。僕が息を呑んでパーカスの返事を待っていると、パーカスは困った様に鏡越しに僕を見つめて呟いた。
「テディは一体何者なんじゃろうか…。」
「ぱーかちゅ?まものっちぇ、ない、ない?」
何度言い換えても「何」と言えない僕の口よ、滅びろ。僕は羞恥心で涙ぐみながらパーカスを見上げた。するとパーカスは優しい顔で僕を抱き上げた。
「よしよし、ここには魔物など居ないのだから、怖がらなくていいのだぞ?テディは魔物を知ってるのじゃな?もしかして魔物に追われていたのか…。可哀想に。無事だったのは奇跡じゃの。」
あらら、パーカスの中で勝手にストーリーが作られちゃったよ。その魔物のあれこれを教えて欲しいのにぃ!僕がパーカスの腕の中で思わず埴輪目になっていると、忙しく手を動かしながらこっちを見ていた店主と目が合った。
店主はクスクス笑うとパーカスに言った。
「隠者様、その子が言いたかったのは魔物が何か知りたかったんじゃないですか?『居ない』じゃなくて『何』って聞いたんですよきっと。そんな顔してますもん。」
僕は思わず手をペチペチと叩いて、パーカスを期待の眼差しで見つめた。パーカスは目を見開くとカカカと笑って、服を着せ掛ける店主に僕を任せて話し出した。
「そうかそうか、それは悪かったの、テディ。テディは魔物を知らんかったか。まぁ確かにあの状態で遭遇して助かる事は、万にひとつも無いだろうて。
この世界には竜人と獣人、そして魔物が住んでおるのじゃよ。魔物は多くは我らの食料になるが、一部なかなか手強いモノもおる。食料になる魔物でも危険で無いものの方が少ないかの?
我が家は竜人の邪魔者が来ない一方、魔物には狙われるのう。柵があるとは言え一人でウロウロしたら、あ奴らに連れ攫われるから側におるのじゃぞ?」
孔雀店主が僕に着せた服を調整しながら、口を尖らせてパーカスに言った。
「隠者様、この可愛いくて弱々しい子を山の中で育てるのは難しいのではありませんか?竜人である隠者様がお強いのは分かってますけど、小さな子供は予想外の動きをするものですからね。いっそどなたか信用できる者に預ける事も考えてはいかがですか?」
そう言われて、パーカスは僕をじっと見つめた。僕は何となくこの老人が寂しそうな空気を纏った気がして、ヨチヨチと近づくとパーカスに両手を伸ばした。
「らっこ。ぱーかちゅ、らっこ。」
パーカスが微笑んで僕を抱き上げると、店主はクスクス笑って肩をすくめた。
「とはいえ、その子は隠者様にすっかり懐かれているんですね。そんなに可愛いと、街中でも悪い獣人に攫われる事に用心しなければならないと思えば、魔物とどちらがタチが悪いかわかりませんね。
…では新しい服は来週には出来上がりますから。急遽寸法を合わせたもうひとセットは、この袋に入れておきました。」
僕は案外親切で色々気がつく孔雀の店主に手を振ると、パーカスに抱っこされてさっきの店に向かった。取り敢えず魔物の情報はおいおい仕入れるとして、服を着て余裕が出た僕が道すがら周囲を見回すと、なるほど沢山の獣人たちが思い思いに通りを歩いていた。
パーカスはひと回り大柄で目立つせいなのか、それとも竜人のせいなのか、すれ違う獣人たちが自然道を譲っている様だった。それから腕に抱えた僕を見ると、目を見開いてガン見してくる。
その眼差しが好意的なものばかりなので、僕が愛想よくニコニコしていると、途端に嬉しげに尻尾が揺れるのが何とも面白かった。獣人は気持ちが身体に現れるから嘘をつくのは得意じゃなさそうだ。
「「隠者様!その子何ですか!?」」
気づけばパーカスの周りを数人の獣人の子供らがまとわりついていた。ぱっと見、小学生ぐらいに見える彼らは5~6歳から10歳ぐらいといったところだろう。しかも多分人型になる前の獣までチョロついていた。
皆僕を見て口々に「ちっちぇ」だの「可愛い」だの、「目が緑色」だの騒がしい。僕はこっちも観察してやれとばかり身を乗り出して彼らを見下ろしていたけれど、ふと耳に残った言葉が気になった。
「…ぱーかちゅ?ぼくのおめめ、みろり?ほんちょ?」
僕が自分の目を指差して尋ねると、パーカスは目を見開いて考え込んだ。そして店に到着すると、女将さんに言った。
「悪いがここに大きな鏡は無いかの?テディが自分の姿を見た事が無いようでの。」
女将さんは驚いた表情で僕たちを見ると、雑貨屋の店の奥を指差した。
「ほら、あそこに姿見はありますよ。そんなに小さいと自分の姿を見る機会もそう無いかもしれませんねぇ。」
パーカスが店の奥へと進むと、僕は周囲の商品の方が気になったけれど、大きな姿見に映る自分の姿に口をポカンと開けた。誰これ。うわー、想像以上にチビだ。
ガタイの良すぎる厳しい老人にちょこんと抱っこされているのは、サラリとした艶のある黒髪が顔を包んでいるもちもちした幼児だ。人目を惹くぱっちりした明るい緑色の瞳は、僕には身に覚えがなかった。そしてその顔つきはどこかで見た様な気がするものの、はっきりとは思い出せない。
そして一緒に姿見に映り込むパーカスの、頭のてっぺんに斜めに突き出ている銀色の尖ったものは角だろうか。パーカスが大き過ぎていつも見上げていたせいか角があるとは思わなかった。竜人は角がマストアイテムなのか?
「…ぱーかちゅ、ちゅの。ぼく、ちゅのにゃい。ふあふあみみ、にゃい。」
僕は頭に手を当てて、自分に角も獣人の様な耳も無い事をアピールした。これで人間という言葉が出てくるかも知れないと少しの期待を持って。僕が息を呑んでパーカスの返事を待っていると、パーカスは困った様に鏡越しに僕を見つめて呟いた。
「テディは一体何者なんじゃろうか…。」
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