竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
19 / 217
異端者

張りぼての天才幼児

しおりを挟む
 「こえ、ぱーかちゅちた?」

 僕は棒で地面に描いた絵を指差してパーカスに尋ねた。僕のつたない言葉では、どうも上手に多くの事を説明するのが難しいので、僕は絵で説明しようと思ったんだ。僕は元々絵が得意だった様で、この小さな身体でも全身を使えばそこそこのモノが描ける事に気づいていた。

「おお、上手じゃな、テディ。これはこの家か?この柵から伸びるものは…。もしかしてテディには魔法が見えるのかの。そう言えばあのシシ魔物の魔石の場所を、光っていると言って教えてくれたのう。

 確かにこの家を取り巻く柵に掛けた魔法陣で、結界を張ってある。そうか、テディには見えるのか。」


 そう言うと、パーカスは顎に手を当てて考え込んだ。

「テディは知らないだろうが、この国、いやこの世界では魔法を使えるのは竜人だけじゃ。だが巧みに扱えるのは竜人でも300歳を超える者だ。それも鍛錬次第だが、個々によって血統が濃いほど魔力が強いのはそうなのじゃが…。

 竜人だとて、魔法を感じてもそれを視覚化する事はその様な者達でも難しいのじゃ。私も感じる事は出来るが、実際見る事は出来ぬ。その年齢で、竜人でもないテディが魔法を見る事が出来るのは何とも不思議な事じゃの。」

 
 そうパーカスに言われて、僕は首を傾げた。柵からぼんやり立ち昇る淡い光は以前よりはっきり見える様になった。保管箱や魔法の使われていそうな物は、明るさはまちまちながら周囲より光って見える。

 そう考えながらパーカスを見上げると、パーカスのツノは光りを発してる。光って見えたせいで銀色に見えただけだったんだろうか。

「ぱーかちゅ、つのピカピカちてる。まほお?」

 すると目を見開いたパーカスが、自分の角を撫でながら呟いた。


 「何と。竜人の魔法の強さは角に出ると言う話は昔からあったが、見える者にしてみれば一目瞭然という事なのじゃな。テディのその力は、今はまだ公にしない方が良さそうじゃ。悪用しようと考える者が居ないとは言えないからの。ましてテディは抵抗する事も出来そうもないじゃろう?

 テディ、魔法の練習をしてみるかの?見えるという事は親和性があるというもの。獣人で魔法が使える者は数えるほどだが、まったく居ないという事もない。魔肉を食べる事で、我々には魔素が溜まってくる。

 大抵は1日、2日で排出されてしまうが、一部身体のエネルギーになる。獣人の中で魔法を使える者は特異体質での、魔素を溜め込んで魔法へのエネルギーになるのじゃ。」


 僕はパーカスの言葉をじっと聞いていたけれど、何だか思わぬ事になりそうだった。この世界の食べものである魔肉には魔素が含まれていて、それを摂取する事でちょっとしたエナジードリンク扱いになるみたいな事言ったんだろうか。

 僕が以前より魔法が光って見える様になったのも、その魔素の効果なのかな。僕はこの世界のファンタジーぶりにワクワクが止まらない。リアルで杖を振って呪文を唱える、あれをするのかな。ふふふ。


 僕がニヤニヤ笑っていたので、パーカスは面白そうに言った。

「大抵の者は、魔法と聞くと怖気付くものだが、テディはその手の事に抵抗がない様じゃ。ここに良き師匠がおるでの、試しにやってみようかの。」

 僕はコクコクと頷くと、地面の絵を仕上げようとパーカスと僕の絵も描いた。僕の絵の側に自慢気に『テディ』と文字を書いた。この前、僕宛のカードを指でなぞって覚えたんだ。

 それからパーカスを指差すと、パーカスが自分の絵の側に名前を書いてくれた。この世界の文字は取り敢えず文字として認識しやすいから助かった。もしこれがミミズのはったような区別のつき難い文字の集まりならお手上げだ。


 僕が真似して地面に書いたパーカスの名前を、じっと見つめていたパーカスはまたもや顎に手を当てて呟いた。

「…これは驚くべき事じゃ。テディはまだ文字も習った事がないのに、まるで何度も書いたことのあるように認知して形を把握しておる。それはテディが恐ろしく賢い子供という事なのか…。

 テディ、自分の名前は何処で覚えたのかの?」

 こんなちびっ子なのに、色々出来るのは怪しかったかと僕は緊張で顔を引き攣らせた。そこで無邪気を装って答えた。


 「うーんちょねー、おかちのおてまみ?」

 パーカスは成る程と頷いて、僕の頭を撫でて微笑んだ。

「本当にテディは賢いのう。お菓子はテディ宛だったの。しかし、これからテディに教える事が沢山になったわい。フォホホ。私もうかうかしておれんのう。」

 そう言って嬉しげに微笑むパーカスの顔を見上げながら、僕はパーカスに心の中で謝っていた。僕は今はちっちゃい割には賢いかもしれないけど、成長したら多分普通の人になっちゃうんだ。ごめんなさい、パーカス。


 張りぼての天才幼児は、それから文字をパーカスから習うことになった。獣人たちは学校へ行く6歳から学校の教材で習うのだけど、僕はいかんせん3歳だ。もちろん入学許可はおりない。

 そこでパーカスは王都の竜人用の子供の教材を手に入れてくれた。竜人は寿命が長いけれど、大人になるまでの期間は比較すると短いらしい。小さな竜で50年、人型になってから成人するまで30年。ほぼ80年で成人する。

 僕にとったら随分時間を掛けて成長するなと感じるけれど、竜人は短い成長期に詰め込み教育が行われるのだとパーカスは笑った。


 しばらくして手元に届いた絵本や教科書は、新しいものでは無かった。けれど表紙の凝った、挿絵も綺麗な美しいもので、大事に扱われて来たのが分かるものだった。

「…これは知り合いに声を掛けたら快く譲ってもらったものなんじゃ。ここまで凝ったものは私もそう見た事がない。これならテディも楽しんで学べるであろう?」

 僕は嬉しさに絵本をソファに持って行って、そっと置いた。


 「うん。こえちゅき。えーきえいねー?」

 ソファの上で絵本を広げてページをメクっていると、ふわりと良い匂いがした。匂いつきとは豪勢だ。僕が機嫌良く絵本を眺めていると、パーカスがそんな僕の様子をじっと見ていた。

 僕が顔を上げて物問いた気なパーカスを見つめると、パーカスは独り言のように呟いた。

「…テディは、成長が早いのかの。初めてあの野原で出会った時と比べると著しく成長をしてる様な気がするのう。」


 竜人の成長速度はゆっくりだし、獣人については不明だけれど、明らかに僕のサイズの幼児は居ない事ははっきりしているのだから、パーカスがそんな風に疑問を感じるのは不思議ではないと思った。

 実際人間の子供の成長スピードは速いだろう。僕も久しぶりに見る幼児がいきなり子供になっていてびっくりした事があった。僕はこの世界で異端の存在になりそうな気がした。

 パーカスに僕の真実を話した方がいいのかな。僕は何度目かの迷いを感じながらも、やっぱり決心はつかなかった。










しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

大好きな獅子様の番になりたい

あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ カナリエ=リュードリアには夢があった。 それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。 そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。 望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。 「____僕は、貴方の番になれますか?」 臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ ※第1章完結しました ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 長編です。お付き合いくださると嬉しいです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

処理中です...