竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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騒めき

落ち着かない教室

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 「おはよう!」

 僕が久しぶりのブレーベルの高等学院の教室に入って行くと、一瞬教室が静まり返った。何だろ。パーカスの討伐遠征について行ってたから?いや、でも二月振り位で、決して久しぶり過ぎる訳じゃない。

 僕は肩をすくめて自分の机に向かった。すると廊下の方からシンディの騒がしい声と音が聞こえた。

「ディーが来てるって本当!?」


 僕が立ち止まって振り向くと、丁度シンディが教室に顔を見せた。僕を見てシンディは目を見開くと、次の瞬間どうして良いか分からないとばかりに目を逸らした。

 ん?どう言う事?このクラスの固唾を飲んでいる空気も何か関係があるんだろうか。

 僕はシンディがこれじゃ、理由を誰からも聞けないと踏んでシンディに声を掛けた。

「シンディ!おはよう。早くこっちにおいでよ、ね?」


 シンディはハッとすると、目を見開いて戸惑いながら僕の方へ歩いてきた。丁度その後ろから、ゲオルグも教室に入って来た。ゲオルグも教室の異様な空気に眉を顰めた後、次の瞬間僕を見て口元を引き結んだ。

「シンディ、何か皆変だよね?一体どうしたって言うのさ。」

 するとシンディは僕をじっと見て、少し口を尖らせて言った。

「それはそうでしょ。テディは神憑きになったんだもの。私達も一体どうして良いか分からないよ。」
 

 はーん、そう言う事か。僕は肩をすくめて皆に聞こえる様に言った。

「何か勘違いしていない?僕は別に神さまに憑依されてないよ。僕は前と全然変わらないよ。」

 するとシンディは首を振って深刻そうに訴えた。

「だってディーは祭壇の台で意識を失って…。」

 気づけばゲオルグがシンディの口元を押さえていた。


 「よお、ディー。元気だったか?あの時はぶっ倒れて驚いたけど、パーカス様の魔物討伐について行ったんだって?でもお前は討伐には行ってないんだろう?」

 ゲオルグが話を変えて、皆が討伐?とザワザワし始めた。僕はゲオルグが上手く誤魔化してくれているとホッとして頷いた。

「うん。僕は騎士の官舎でお留守番だったよ。あちこち行ったから結構疲れちゃって。」

 僕らが話し始めると教室の空気も緩んだみたいだった。僕はゲオルグにウインクすると、ゲオルグも視線で合図してきた。そんな僕らを見てシンディが何か言いたそうにしたけど、ゲオルグに許してもらえなかった。はは。



 「ディーってあの子だったんだね…。」

 シンディがそう言って僕をねちっこく見つめた。…何だか身の危険を感じるけど。そうは言っても僕はすっかりバレていることを誤魔化すことも無いかと思ってにっこり笑った。

「うん。テディは僕だよ。僕は魔素が溜まりすぎちゃうから、時々こうして大きくなっているんだ。あの祭壇の台に倒れ込んだ時に、魔素を吸われて元に戻ったんだよ。」


 「ブレート様が俺たちに話をしてくれたんだ。ディーとテディの事とか。でも一体どちらが本当なんだ。」

 そう言ってゲオルグが僕を訝しげに見つめた。

「んー、そうだね…。僕の感覚は大きい自分だけど、小さいテディも僕には間違いないよ。身体に心が引っ張られて、チビ思考になっちゃうけどね。それに言葉も上手く話せないし。

 あの時、急に変幻して驚いたでしょう?心配もかけたよね。ありがと。」


 シンディは僕をぎゅっと抱きしめて言った。

「はー、ディーだ。何かブレート様が神憑きとか、訳わかんないこと言うから何が何だか分からなくて。龍神様なんて関係なかったんでしょ?」

 そう嬉しげに言うシンディに、僕はなんて言って良いか分からなくなった。

「…まぁ、僕の魔素を祭壇に取られたのは本当だけど、僕の中に神さまが居る訳じゃ無いから安心して?」

 うん、嘘は言ってない。良かった、メダが来なくて。


 高等学院に一緒に行く気満々だったメダは、パーカスから諭されて考えを改めたようだった。その代わりブレーベルの街をぶらつくと言って僕を見送ったんだ。

 だから僕は安心して学院で過ごせるって訳だけど、それにしても何処まで話が広がっているのか確認しなくちゃいけないな。昼休みにこうしてシンディ達と裏庭で隠れる様に話をしてるのも、そのすり合わせのためだ。


 「もう、本当びっくりしたよ!倒れ込んだと思ったらみるみる身体が小さくなってしまって!そしたらパーカス様と一緒にいたあの可愛い子になってたんだから。ディーは只者じゃないと思ってたけど、本当にその通りだったよね。でもあの子に会えて嬉しい驚きだったよ。」

 そう言って僕を抱きかかえようと手を伸ばしてくるけど、僕はちびっこじゃないよ。ゲオルグに阻止されて我に返ったシンディは、僕がいつでも変幻出来るとでも思っている様だった。


 「それで?一体何があったんだ。」

 ゲオルグが僕を真っ直ぐ見つめて尋ねてきた。僕はどこまで話そうか迷いながら、状況の説明は必要だと思った。

「あの時、祭壇に魔素を取られた僕はしばらく目が覚めなかったんだ。特異体質なのは間違いないから、パーカスが長老の所に僕を連れてった。」

 シンディが目を丸くした。

「長老って、塔の長老!?1000年を越えるとか言われてるけど、本当かなぁ。」

 へー、1000年を越えてるの?何となく納得しちゃうね。シンディの邪魔にゲオルグが顔を顰めて僕に続きを促した。

「…そう。塔で目が覚めた時は何日か経っててね。僕の身体に龍神が憑依してた訳じゃないけど、呼び寄せたのはそうみたい。僕の魔素と神さまが妙に相性が良かったみたいだ。」


 ゲオルグが考え込みながら呟いた。

「ディーが祭壇の生贄の台で倒れ込んだ時は、本当ゾッとしたんだ。身体も小さくなってどう言う事なのか頭が真っ白になって。でも騒ぎを大きくしたくなくて学長に直接伝えたのは正解だったんだな。

 ブレート様もディーの小さくなった姿を見て、あまり驚いてなかった。パーカス様はディーが全然起きる気配がなかったし、祭壇で倒れたって聞いて顔色を無くしてたから、これはとんでも無いことが起きたのかもしれないってドキドキしたんだ。

 ディーが死んでしまうんじゃないかって…。」


 僕はゲオルグに随分心配かけたんだと申し訳なく思った。一方のシンディはゲオルグの方を驚いた様な顔で見て言った。

「そうなの!?あの時ゲオルグ言ってたよね?ディーは大丈夫だって。」

 僕はシンディにクスクス笑った。

「二人に心配はかけたけど、僕は実際大丈夫だったんだよ。急激に魔素が減って眠ってただけだから。でもあれ以来僕は大食漢になったんだ。神さまに側に付き纏われてて、魔素を盗まれるって言うか。まぁよく食べる様になったってだけ。」

 二人はハッとした様に顔を見合わせた。僕が二人の様子に訝しげに思って見つめると、シンディが声を顰めて言った。


 「何かね、学院で噂になってたんだ。ディーが龍神憑きになったって。でも今の話を聞くと、それって龍神憑きとはどう違うの?」

 僕はにっこり微笑んだ。

「全然違うよ?僕の中には神さまは居ないもの。ちょっと話し合いはしたけどね?ちゃんと出て行って貰ったから。」

 あれ?二人が眉を顰めて全然納得してないんだけど、僕の説明が下手なのかな?

「…普通、龍神と話し合いはしないぞ、ディー。はぁ、ディーってとんでもない事をあっさり言うから、俺も感覚がおかしくなるよ。まぁ、とにかく無事で良かった。嬉しいよ、戻ってきてくれて。」


 そう言ってため息混じりに苦笑するから、僕は思わずゲオルグに抱きついて笑った。

「ほんと、ごめんね!僕も戻って来れて嬉しいんだ。」

 するとシンディも僕らに抱きついて言った。

「狡い、ゲオルグだけ!私だってディーが戻ってくれて嬉しいよ!ね、今度小さくなった時に、ディーの事抱っこさせてね?いつぐらいに小さくなる予定?」

 んー、前にシンディに潰されそうになったよね。予定は未定にしておこうかな?












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