竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
114 / 217
騒めき

神さまとの同衾

しおりを挟む
 自分でも信じられないけれど、どうして僕はこんな風にメダに縋り付いているのだろうか。媚薬に浮かされている様に、僕はメダの首にしがみついて唇を押し付けた。

 けれど、メダは優しく唇を吸ったり、喰んだりするばかりで、その先に進もうとはしなかった。経験のあるその先の心地良さ思い出した僕は、焦らされている様で、思わずメダのメタリックな色の髪を握りしめた。


 メダは瞳に夜の星屑を散らしながら、僕をじっと見つめて呟いた。

 「…慌てるな、ディー。こうしているだけで、お前の魔素が私の中に知らず入ってくる。お前も心地良いのだろう?だが、我と交わると昏倒してしまうだろうな。お前がもっと魔力を高めなければ、我とは同衾出来ぬ。

 だが、こうして唇を合わせているだけで、我は慰めを得る様だ。」


 僕は眉を顰めて、ズキズキする昂った身体を感じて呻いた。けれどもどこかでメダにストップをかけられてホッともしていた。僕にはまだこの手の事に心の準備が全然出来ていない。それはこの異世界基準では呆れるほどの奥手なのだろうな。

「…メダがキスするから、身体が張り詰めて辛いよ。」

 僕のそんな恨み節に、メダは楽しげに喉の奥を鳴らして呟いた。

「まったく、お前の言い草を聞いたらパーカスが仰け反るぞ。さあ、最後にお前の熱を冷ましてやろう。」


 そう言うとメダは僕の口の中を撫でる様に舌を入れて来た。それと同時に僕の身体をゆっくりと手のひらで撫で回してくる。長めの寝巻きはボタンが外されて、すっかり前が肌けていた。

 メダの繰り出す甘い舌使いは、僕の息を浅くさせたし、強弱をつけて僕の肌けた胸をなぞる指先は、悪戯に僕をびくつかせた。ああ、何て気持ち良いんだろう。

 
 胸の先を摘まれると、僕は甘く喘いで仰け反ってしまう。ああ、本当におかしくなる。こうして体温を分け合うほどに僕は自覚していた。メダと僕はどこかしら共存しているって。それが愛し子というものなのかな。

 メダが僕の口の中を長い舌先でひと撫ですると、僕の舌をじゅっと吸った。途端に色々なものが吸い取られた気がして、僕は急に眠気を感じた。疼く様な欲望はすっかり消え去って、心地良さしか感じなかった。

 神さまはやっぱり慈愛に満ちているのだろうかと考えているうちに、僕の意識は途切れた。



 気がつくと、僕は一人でベッドに横になっていた。すっかり日が登って朝になっている。昨夜の事はまるで夢の中の事の様だ。けれど身動きした時に擦れた胸の先端がひりついて、やはり現実だったのかと顔が熱くなった。

 僕は自分からメダに溺れていた。あれはメダの神力なのか、それとも僕がメダの愛し子のせいでああなってしまうのか、どちらかのせいだとしか思えなかった。

 やっぱり僕はメダに取り憑かれているのだろうか。


 それでも僕はメダのあの深い寂しさの様なものを感じたら、拒絶する事などできないのかもしれない。孤独は、僕の一番恐れているのものだし、自分だけでなく僕の大事な人たちにも決して味わって欲しくないものだから…。

 とは言え、メダが全然無理強いしなかったせいで、僕自身もこうした睦み合いをある程度までは望んでいるのだと思い知ったんだ。


 ああ、僕はいつまでも小さなテディではいられないのかな。僕はパーカスに甘えていたくて、テディでいる事を自ら望んでいた気がする。僕の孤独な心がそれを当たり前にしたんだ。

 けれど、今の僕はこの世界で堂々と生きていける様になった。そして僕を取り巻く優しい世界が、僕を孤独から遠ざけた。その事がこれからの僕にどう影響するのかは、何となくわかる気がする。


 ベッドから降りて身支度をしながら、美しいボックスの中に入った小さな僕の服を手に取った。それは思いの外小さくて、僕の心をぎゅっと締め付けた。

 僕は小さなテディには戻れなくなる時が近づいているのを感じた。愛し子の僕は当たり前の成長をする事なく、一足飛びに成長し始めるだろう。それは僕の願いであり、そして愛し子の願いをメダは叶えるだろうから。


 朝食に降りていくと、パーカスとブレート様がギョッとした様に僕を見つめた。僕は昨夜の出来事が顔に出ているのかとドギマギしたけれど、パーカスの言葉に僕はそっと息を吐き出した。

「…テディ、少し成長したか?」

 僕はまるで、成長するクッキーを食べた御伽話の世界の登場人物になったも同然だった。あからさまに大人びていくのだから。


 「…そう?もし昨日の僕よりも大人びて見えるとするなら、きっと僕がそれを望んだせいだ。パーカス、僕はやっぱりメダの愛し子なんだよ。神の力で僕の望みは叶えられてしまってる。

 だから、もしかしたら小さなテディには、もう僅かしか戻れないかもしれない。分からないけど…。まだ心のどこかに小さなテディで居たい気持ちもあるけれど、それは前よりずっと薄くなってるんだ。

 パーカスに家族になってもらって、こうして僕を取り巻く世界は安心出来るものになったでしょ?一人ぼっちで放り出される事もまるで考えなくなったよ。

 小さな僕でいる事で、僕はパーカスに捨てられない様にしがみついていたのかもしれない。だから自分の心に気づいた今は、僕は小さなテディに戻る理由が無くなったんだよ。

 長老の言うアンバランスさは、今はむしろ以前と逆になっているかもしれない。ごめんね、パーカス。小さい僕が好きだったでしょ?」


 僕は知らず鼻の奥がツンとして、目の前が揺らめいた。パーカスが僕の側に近寄って来て、そっと優しく抱き寄せてくれた。

「いつだってテディは私の想像の上をいく存在だ。じゃが、私はそんなテディをずっと愛おしく思うのじゃよ。私から見ればテディは可愛い幼い子供じゃからな。そう変わらん。

 まぁ、今のテディは色々心配事が増す事を考えれば、小さいテディの方が安心だった事は間違いないがの?しかしそうなるとどうしたものかの。成長速度が見当もつかないとなれば、問題なのは衣装じゃ。」


 すると僕らの様子を見ていたブレートさんが、ハッとして目を見開いた。

「衣装ならありますぞ。今までテディのサイズは、流石に小さ過ぎて用意が無かったが、我が家には今は王都に居る孫の衣装が沢山残ってますからな。パーカス殿のお孫さんよりはテディに見た目も近い。数年前まで着ていたものだから十分着られるでしょう。」

 僕とパーカスは顔を見合わせて、有り難くブレートさんの申し出を受ける事にした。


 「この衣装が再び日の目を見る事になるなんて嬉しい驚きですわ。ロディ様はやんちゃなお子様でしたから、残っている物は皆洒落た美しい物ばかりです。テディ様は絶対お似合いになりますわ。」

 そう楽しそうに侍女達が衣装を箪笥に仕舞い込んでくれた。ただ、ロディ様?の衣装のサイズは獣人で言えば13歳ほどで今の僕に追いついてしまったので、僕は何となく見も知らぬロディの成長ぶりに嫉妬する羽目になった。


 ロディ様は竜人だからしょうがないけれど、それにしたってこの衣装を今の僕が着たら、どうしたって可愛い過ぎる。けれども侍女達は目を輝かせてお似合いですって盛り上がってるんだ。ああ、結局僕はマッチョなんて、夢のまた夢みたいだ。

 ブレートさんとパーカスが笑みを浮かべてよく似合うって言ったけれど、遅く起きて来たメダが僕を見るなり眉を顰めて言ったんだ。

「何だ?何処か夜会にでも行くのか?」



























 

 
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...