竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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寮生活

新入生達の魔物討伐

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 魔石係のケドナーの手の中はまだ反応していないけれど、三時の方向に小型の魔物が二頭近付いてきているのが光って見える。僕は一体いつになったら魔石が反応してくれるのだろうと、ヤキモキしながらチラチラと魔物の居る方角を盗み見た。

「あ!光った。魔物が近づいてるぞ!」

 ケドナーが少し興奮した様に小声で皆に伝えた。

「光の大きさは?小さいか?大きいか?」

 リーダーの質問にケドナーは首を傾げた。

「うーむ、多分小さい、かな?」


 僕は思わずうんうんと頷きそうになるのを堪えて、周囲がどう反応するのかを観察した。今日は演習だから、僕が出しゃばって皆の訓練にならないのは困ると思ったからだ。

 もちろん大型魔物なら、速攻で逃げるために伝えるけれど、危なくない小型魔物なら彼らにお任せで大丈夫そうだしね?

「ディーは何か感じるか?」

 リーダーに聞かれて、僕も生真面目な表情で伝えた。

「僕も小型だと思う。方向は多分右の方だよ。」


 皆の視線が道の右側の茂みに集まった。騎士科の一人が地面に手を置いてから頷いた。

「…もう来るぞ。皆構えろ。」

 三人の騎士科が前面に立って、総合科の二人がその後ろに、そして僕がその後ろに…。うん、戦力外だね。実際その通りなのだからしょうがない。僕は自慢じゃないけど、魔鳥にさえ襲われそうになる男だよ?

 僕が心の中で自分の軟弱さに正当性を持たせていると、茂みが揺れて丸々とした魔物が飛び出して来た。魔肉祭りを楽しんできた僕にしてみれば、恐ろしさよりも唾液の方が沸いてくる。


 皆もそう感じたのかは不明だけれど、掛け声と共に三人の魔剣が光って見事魔物の息の根を止めた。いや、三人で刺すのはやりすぎじゃ無いかな。肉が駄目になってしまう。

 僕が魔肉の心配をしながら顔を顰めて見ていると、ケドナーが僕を安心させるように言った。

「ディー、心配しなくても、もうこいつはお陀仏だ。今から魔石を取り出さないとな。」

 ケドナーの呑気な言葉とは反対に、僕はハッと顔を上げて茂みを指差した。

「もう一頭来る!」


 僕の言葉に皆が飛び上がって剣を構えた。さっきまでの安堵の空気は霧散して一瞬で緊張感が支配する。そして間髪入れずにもう一頭の魔肉、いや魔物が飛び出して来た。

 もう一人の総合科のメンバーが切りつけたけれど、魔剣では無いので致命傷にはならなかった。むしろ猛り狂って僕に向かって突進してくる。どうして茂みの側に居たんだろうと一瞬後悔した僕も、反射的に手を出して魔力を放出した。


 魔肉に見え過ぎてたせいで、僕は火の魔法で魔物を包んだ。とは言え魔肉は魔物。まだ肉じゃ無い。少しはジタバタしていたが切りつけられ、炎に巻かれてますます咆哮を上げていきり立っている。怖い。

「ディーさがってろ!」

 リーダーの声に反射的に下がると騎士達が次々に魔剣を振り払い、結局魔物はドウっと地面に倒れ込んだ。

「うわ、ヤバかったよ。全然剣が入らなかった。こいつの牙を見て怯んでしまった。」

 ケドナーが青ざめた顔で呟いている。


 僕は表面の皮が良い感じに焼け焦げたのを見つめながら、手元の小さめの魔剣でレーザー線仕様に首を切り取ると、血抜きをしつつ首の下にある魔石を取り出した。僕がやらないと、彼らは魔肉を無駄に切り刻んで食べる場所が減る気がしたんだ。

 皆の視線を感じながら、僕はもう一頭の魔石も同様に取り出すと掌の上に洗浄魔法で水を出すと綺麗に洗った。総合科の魔石管理係のメンバーにそれを渡すと、僕はぼんやり立っている皆の方を振り返った。

「この魔肉は持って帰るでしょ?何処かに隠しておかなくちゃ。隠蔽魔法かけた方がいいかな?」


 少し戸惑った表情の上級生が僕に言った。

「…それ、持って帰るのか?」

 僕は顔を顰めて上級生を見上げた。

「え?持って帰らないの?この魔肉凄く美味しいのに。皮処理が楽になる様にわざわざ焦がしたんだよ?」

 僕の発言に皆がギョッとした気がしたけれど、皆は魔肉祭りの経験がないのかな。僕は肩をすくめて魔肉を側の木の下に集める様に頼むと、隠蔽魔法を掛けた。


 「取り敢えずこれで他の魔物に横取りはされない筈だ。えーと、これからどうするんだっけ?」

 ぼんやり僕を見下ろしていたリーダーが、我に返って声を張った。

「花火が打ち上がるまで討伐を続けるぞ。では気を取り直して進む。」

 困惑気味の皆の視線に僕も首を傾げつつチームは歩き始めた。隣に来たケドナーが手の中の波動魔石に注意を払いながら僕に言った。

「君って想像以上に野生児だね。手慣れ過ぎてて、まるで魔肉狩りのプロみたいだった。」


 僕はクスクス笑ってケドナーを見上げた。

「そうかな?ブレーベルも辺境も、魔肉祭りのための魔物狩りは本気の狩猟だからね。討伐よりも魔肉目当てだったから、ついその癖が出ちゃった。変だったかな。」

 ケドナーもヒクリと頬を緩ませて魔石を見つめながら答えた。

「いや、ここ数年そっちエリアの学生の出来が良い理由が分かった気がする。討伐もより実際的で一石三鳥なんだね。私の領地もそれを取り入れる様に父上に申請しよう。後で実際どうやっているのか教えてくれる?」


 それから僕らは時々魔物を仕留めながら先に進んだ。でも食べられる魔物が出てこなくて僕のやる気も下がり気味だ。

「ディー、もうちょっと魔物の足留めにやる気出してくれると有難いんだが。最初の魔物くらい本気出してくれないか?」

 リーダーが呆れた様に僕に言ったけど、僕は口を尖らせた。

「特に皆が手こずる様な魔物じゃないでしょ。僕は訓練の邪魔はしたくないし、正直美味しい魔肉に見えないと本気出せないんだ。」

 僕の後ろをついてくる上級生が呆れた様に言った。


「しかし君の振る舞いは、まるで手練てだれの魔法使いのそれだ。魔肉目当てなのはよく分かったが、彼らも余裕が無くなってきた様だから、君ももう少し協力しなさい。」

 皆の忍び笑いが聞こえてきたけれど、僕もあまり魔素を減らしたくなかったのもある。森の中は経験上何が起きるか分からないのだから、用心するに越した事はないしね。


 そう考えたのが呼び水になったのか、それとも運が悪かったのか大きめの光がこちらへ向かって凄い勢いで向かってくるのが感じられた。流石にこれを知らせないのは厳しい。

「左斜め前方から大きめ魔物が来る!速いぞ!」

 ケドナーがハッとして様子で魔石を見つめたけれど、まだ反応しない。まだ距離があるせいだ。

「多分かなり大きいよ…!正面で待つのは得策じゃないくらいね!」


 リーダーが道の側の大木の脇に皆を集めて、茂みから飛び出したところを横から狙う様に皆に指示を飛ばした。さっきまでの討伐が小手先に思えるくらい大きさに差がある気がする。

 僕は緊張した顔の上級生だけに聞こえる様に囁いた。

「…もし魔物を見て不味いと思ったら、騎士団に救援の花火を打って下さい。多分僕らじゃ厳しいサイズです。」

 頷いた上級生が胸元から救援の花火を用意するのをホッとした気持ちで横目で見ながら、一体どうやって足留めするのが良いか考えていた。魔物の種類にもよるけれど、このサイズの感じから言って下手な足留めじゃ効かない気がする。


 「まったく、感知の精度が良いのも良し悪しだな。いや、良い事なんだろうけど、心臓には悪すぎるよ。」

 明るく光る魔石を握りしめたケドナーが弱音を吐いたので、僕は皆の緊張を和らげるために言った。

「大きい魔物は良い事もいっぱいだよ。魔石は高価だし、種類によっては極上の魔肉の部位があるんだから。王族しか食べられない様なね。倒して僕らで独り占めして味わおうよ。僕はそのためなら本気もやる気も出すよ!」

皆がニヤリと笑って、変な力みが取れた気がした。そして誰もがその接近する騒々しい音を感じて直ぐに、大岩ほどの大きさの身体を持つ、毛むくじゃらの蜘蛛の様な魔物が現れた。


あ、死んだ。











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