竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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人間の魔法使い

お弁当タイム

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 金色のわたわたは今や眠っているのかじっとして動かない。単なる毛皮のクッションに見えなくもない。そのせいかファルコンがそれに埋もれてうつろな表情で寝落ちしそうだ。

 結局集まって来た夫達はついでに休憩を取る事にしたらしく、結界の中で持参したお茶やお弁当を広げて食べ始めた。今日は僕が腕を振るった魔鳥の唐揚げ弁当だ。さすがに米はないのでパンケーキにポテトサラダもどきを挟んだサンドイッチがお供だ。

 ダグラスが感心した様子で舌鼓を打った。


 「テディが作る食べ物は、いつも変わってるが美味いな。これなんかはいつもの魔鳥の串ものとも味が違うが、ほんとに幾らでも食えるぞ。」

 そう言ってパクパク唐揚げを口に放り込む。その食べっぷりに心配そうな表情でロバートが弁当箱と言うかお重を見つめている。

「ロバート、もう一箱あるので心配は無用だよ。安心して沢山食べてね!」

 人手を動員して作った甲斐があった。

「ダグラス、これは滅多に食べられないんだから心して食べてね。」

 それでもそう注意すると、ダグラスはキョトンとして僕を見た。


 「何だ?魔法の粉でも掛かってるのか?」

 僕はあながち間違ってないので苦笑して頷いた。

「まぁ、魔法じゃないけど特別仕様なのはそうかもね。」

 魔鳥の唐揚げに絡めて味のアクセントにしているのは、この世界で僕が試行錯誤して作ったマヨネーズだ。卵とお酢と油があれば出来るこの調味料の難問は、良質な植物油を手に入れる事だった。

 この世界は基本バターの様な動物油を使用していて、マヨネーズに向いているとは言い難い。だから僕はオリーブに似た木の実を見つけたときワクワクしたんだ。


 多少魔法のズルはしたものの、手作業でクセのないオリーブ油もどきが作れた時は本当に嬉しかった。そのままでも十分美味しかったけど、僕は念願のマヨネーズを食べたかったんだ。

 そして今日のお弁当に登場したのが鶏マヨという訳だ。

 皆口に入れると目を丸くして喜んでいるのが分かって、僕も鼻高々だ。

「…テディ、料理上手な奥さんを持って、私は幸せだよ。」

 僕の口の周りに付いたマヨソースを指で拭いながらバルトが流し目をかまして来た。う、色っぽくてけしからん。

「…ふふ。気に入ってくれて良かった。」


 「テディ、もっと魔鳥狩ったら、またこれ作ってくれるかい?」

 最後のひとつを口に頬張りながら、すっかり気に入った様子のロバートは僕にそう尋ねて来た。僕は少し首を傾げて眉を顰めた。

「作りたいのはやまやまなんだけどね。このソースの元になってる油が中々手に入らないんだ。店には売っていないし。僕が見つけた木の実で作った油だからね。市場に植物から出来た油は売っていないってうちの料理人が言ってたよ。」

「植物の油?確かに大概は魔肉の脂肪やミルを加工したものだな。その木の実があれば作れんのか?実がなるくらい木を育てるのは時間かかるし、そこらに生えてる感じでもなさそうだ。

 隠者様、何とかならんですか?」


 相変わらずのダグラスの無理強いに、パーカスは苦笑して僕を見た。

「流石に直ぐに木の実を成らせるのは無理じゃが、これらの事を得意とする方がおるじゃろう、テディ。」

 僕はハッとしてパーカスのイタズラっぽい顔を見つめると思わず吹き出した。

「ああ、確かに!今朝は誘っても断られちゃったから、メダにお弁当は置いて来たんだ。気に入ったらあのアップルパイもどきの時の様に手伝ってくれるかもね。

 油の抽出の機械は僕の学校の友人に設計してもらえるかもしれないし。」


 「なんだ、何だ?儲け話の匂いがするなぁ。よしよし俺様に任せてくれ。マヨ何とかはダグラス様も全面協力を惜しまないぜ。テディは学校と子育てで忙しいだろう?製造販売は俺に任せてくれ。」

 満面の笑みを浮かべたダグラスが文字通り手揉みして擦り寄って来た。まぁ僕としてはあんな苦労しないでマヨネーズが食べられたら御の字なので、ダグラスの申し出は正直有り難い。

「メダが気に入ってくれなくちゃ、結構な時間掛かりそうだけどね。まぁ多分大丈夫でしょ。僕は美味しいものが食べられて、みんなが喜んでくれたらそれで良いんだ。」


 「私の奥さんは欲がないね。そんなところも愛してるよ。」

「テディの食欲は俺を文字通り喜ばすからな。貪欲で嬉しいよ。」

 僕を挟んで夫たちが好き勝手お喋りするので、僕はどんな顔をしたら良いのか分からない。ダグラスとパーカスはすっかり慣れてしまったのか、スルー力をあげている。

 「…こほん。それより魔鳥の捕獲量はどんな感じなの?しばらく持ちそうかな。」


 僕がそう話を振ると、四人が顔を見合わせてニヤリと笑った。

「ああ、十分な量だが、市場にも流すならもう少し狩っても良いかもしれん。最近の王都は新鮮な肉の味を知ってしまったからの、独り占めして食べたら文句が出そうじゃ。」

 パーカスが言う様に王立学校の訓練で流通する生魔肉は、今や王都の目玉商品だった。誰でも魔物を仕留めることが出来るわけじゃないので、出来る者が他の人々に振る舞うのはある意味能力のある者の勤めなのだろう。


 「ああ、ダグラス印で破格の値段で卸すつもりだ。ほれ、ダグラス印は今やバックに人間様がついているのはそこそこ暗黙の了解だからな。テディのご利益にみんなも大満足だろ?」

「はは、確かに。王都の流行りものにテディが首を突っ込んでいるのは事実だからね。私はテディがそうやって特別視されている方が安心だ。皆に大事にされるからね。」

 バルトがそう言って僕と目を合わせて優しく微笑んだ。青い竜騎士も特別視されてると思うよ、うん。


 「僕自身はともかく、ファルコンが生きやすくなるなら文句はないよ。どう考えても人型に羽根は目立つでしょ?」

 すっかり小さくいびきをかいて眠りこんでいるファルコンの薔薇色のぷっくりほっぺを見つめながら僕がそう言うと、皆の視線がファルコンに集まった。

「俺の尻尾は引っ込まないが、ファルコンの羽根は引っ込むじゃないか。今だって眠っている時は出てないだろう?成長すれば必要な時にだけ出して使うようになるんじゃないのか?だったらそう目立つわけじゃない。

 それよりファルコンは竜化はするんだろうか。竜人の角は無いよな?」


 ロバートの呟きには僕も答えが無かった。竜人と獣人の子供は竜人だ。でもファルコンは明らかに人間と竜人の両方の特徴を持っている。

 その中途半端さで、竜化出来ないかもしれないとも考えられた。

「…僕にも分からないけど、竜人の血が流れているファルコンが竜人の力を持てなかったら僕のことを恨むだろうか。」

 日頃考えていた事を思わず呟くと、バルトが長い髪を揺らして僕を抱き寄せた。

「テディを恨むわけがない。ファルコンはテディの事を愛してるからね。今だって私たちを押し除けてママを独占してるんだから。私達もファルコンがどんな人生を歩もうとも力になるよ。ファルコンを愛してるからね。」


 ロバートが困惑した様子で燃える様なオレンジ色の短髪をかき上げて弁解した。

「テディを心配させたかった訳じゃないんだ。悪かった。デレカシーってやつが足りなかったか?」

 僕は首を振って微笑んだ。

「ううん。デリカシーね。僕もロバートと同じことを考えていたからね。でもこればっかりはどうなるか分からないんだから、今考えてもせんなき事だよね。」


 「テディ、心配なことがあれば龍神様に聞いてみたらどうじゃの。テディからの質問には答えてくれるんじゃ無いかのう。」

 パーカスのファルコンを見つめる溺愛の表情をながめながら、僕は肩をすくめた。

「あの人、肝心な事には案外答えをくれないんだよ。たぶん、メダにも分からないんじゃない?機会があったら聞いてみるけど…。ほら、ダグラスが外で身支度始めたよ。もうひと踏ん張りしないと帰れないんじゃない?」

 三人はため息をつくと立ち上がって狩りに戻っていった。夫たちからの熱烈なキスを残して、ね。




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