竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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人間の魔法使い

魔法陣の訓練

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 「ディー、カフェテラスの新味のサンドイッチ、もう食べたかい!?めちゃくちゃ美味しいんだよ?」

 珍しく魔法学科の友人兼お世話係のマードックが興奮した様子で僕に声を掛けてきた。新味と言うと、やっぱりマヨな話だろうか。そう言えばダグラスが王立学校に納品するような事言ってたな。

「まだカフェでは食べてないな。今日のお昼に食べようかな。」


 ピクリと耳をそば立てて僕が何気なく言った言葉を聞き逃さないのは、さすがのマードックというところだろう。研究熱心なだけではなくて、観察眼も鋭いから、僕はマードックの前で何も誤魔化せない。

「…またもやディーが関わっている訳?」

 目を細めて探る様な眼差しを向けたマードックは僕に尋ねた。

「まぁ開発者的な?」


 「…はぁ。私が思うに、ディーって凄い利権持ちじゃない?だってミルだけでも派生するものも含めたら相当あるし、魔素バーもそうだし、そして新味の調味料とか…。食事のレシピも含めたらとんでもない事になりそう。

 私はそんなディーに一生喰らい付いていた方が良いんだろうね。」

 僕はマードックの言い草にクスクス笑って、マードックと肩を組んだ。

「僕はマードックを買ってるからね。僕の利権を有効利用する為にも、マードックの能力は必要だよ。これからも仲良くしてね?」


 「ディーに見染められたのは、私の幸運なんだろうね?まぁ、研究が思う存分出来るのは、色々ハラハラさせられる事を引いても悪い話じゃないよ。」

 僕のお世話係の心労を吐露しながら、マードックは諦めた様に呟いた。僕は肩をすくめて演習場へ向かった。学校での魔法訓練は今では僕の発散の場にもなっている。


 子供を産んでから、どうしてもちまちま生活することが多くなっていた。出掛けても近場だし、思えばパーカスと魔物退治に国中を放浪したあの頃が懐かしい。

 ファルコンは可愛いけれど、子守が十分に揃っている事を考えるともっと学校の演習以外の魔物狩りに参加したい気もする。そう、振り返ってみると、この時僕は自分の魔力が以前より膨れ上がってきているのを無自覚に感じていた。


 今日は魔法陣の演習だった。高度な魔法訓練である魔法陣は最上級生が強制参加で、後は下級生の魔力の多い学生が二~三人と言うところだった。

 マードックはミル研究と共に魔力をどんどん増加させていて、今回は滑り込みでの参加だった。少し緊張気味のマードックは、周囲を見回して呟いた。


 「…やっぱり私は場違いな感じだ。まぁどうせ最下位なのは決まった様なものだから却って気が楽だけどね。」

「ふふ、僕も魔法陣は初めてだから楽しみだよ。これこそ魔法使いって感じでワクワクするだろう?」

「…時々ディーの喜ぶポイントが分からないけど、あまり無茶はしちゃ駄目だよ?お目付け役の私が怒られるんだからね!」

 一体誰に怒られるのかと、僕は肩をすくめた。やる前からクドクド注意されるとか、子供扱いにも程があるよ。僕は子供さえ産んでると言うのに!


 とは言え、授業が始まると僕はすっかり夢中になった。正しい魔法陣を覚える必要はなかったからだ。魔法陣というのはイメージが魔力で図案化して発令すると言うものだったので、それぞれ微妙に違って見える。

 僕が昔からパーカスの魔法陣をすり抜けることが出来たのも、その感覚のお陰だったらしい。

 僕はマードックを閉じ込める檻をイメージして杖を振った。美しい大きな鳥籠がマードックの頭上から地面に向かって伸びると、地面に美しい紋様が浮かび上がった。


 慌てた様子のマードックが口を開けて何やら訴えているけれど、こちらに声は聞こえない。

 周囲の学生達が興味深そうにマードックの周囲に集まった。不安そうなマードックが可哀想になって、僕はマードックの目の前に手を突き出した。

 何も無い空間なのに、僕の腕の周りにキラキラと鳥籠の残影が浮かんでは消えて見える。他の学生も手を突き出して見たものの、何かに阻まれて僕の様には突き抜けなかった。


 「術者以外は無理そうだね。」

 僕がそうマードックに言うと、ますます不安そうな表情を浮かべる。

「ディー、随分見事な魔法陣を作ったね。これを具現化は出来るかい?」

 魔法学科の先生にそう問われて、僕は目を閉じて杖を振った。多分具現化する方が簡単かもしれない。目の前に地面から銀色の繊細な蔦模様に彩られた獣人サイズの鳥籠が現れて、周囲の学生らのどよめきが響いた。


 マードックはホッとした様子で鳥籠の出入り口をガチャガチャと鳴らして身を屈めると慌てて飛び出して来た。

「二度と出られなかったらどうしようかと思った!ディー酷いじゃ無いか、急に閉じ込めて。何も見えないのに阻まれて凄く怖かったよ。」

「ふふ、ごめんね。でも出てこられて良かったよ。僕も魔法陣は初めてで適当に作ったからさ。鍵のイメージが無かったのが却って良かったかもしれないね?」


 ゾッとしたのか青ざめた表情のマードックが、僕の肩を揺さぶって叫んだ。

「ディーのサイコパス!」

 周囲の学生や先生がキョトンとしてマードックを見つめている。僕が教えたサイコパスと言う概念を、もっぱらマードックが僕に対して言う様になったんだけど、僕はそこまで人でなしじゃないよねぇ。それとも僕ってサイコパスなのかなぁ。

「ふふ、マードックも僕に魔法陣かけて見ても良いからさ。それで勘弁してよ、ね?」


 僕に対する怒りが魔力を増幅させたのか、マードックの魔法陣は僕を縛り付けて床に転がした。自分の魔法陣にポカンとしたマードックは、周囲から喝采を受けて嬉し気にはにかんだ。

「マードック、君のは何とも実用性のある魔法陣だね。良いかい君達、案外こんな風にシンプルな方が使い勝手が良いんだ。魔力も最小限で済むしね。

 ディーの様に魔力がたっぷりあれば、先程の様な瀟洒な檻の魔法陣もありだが、誰でも出来る訳じゃないからね。それぞれの魔力に即した魔法陣が手早く使える方が実利があるだろう?」


 先生の講釈に真面目な顔をして皆が頷いたりメモを取っているのを地面から見上げながら、僕はいつになったらこの魔法陣を解いてくれるのだろうと考えていた。

「マードック、さっさと僕を解き放ってよ。」

 待ちきれなくなった僕がマードックに声を掛けると、慌てたマードックは杖を僕に向けて振った。

 途端にもう一周何かが身体に巻き付いて、僕は息を詰まらせた。

「…っ!マードック、いくら復讐とは言えやりすぎじゃ無い?」

 するとマードックはオロオロとしながら先生を呼びに走って行った。まさか解除の仕方が分からないのか?


 マードックと補助に入った上級生が先生の指示の元二人がかりでようやく解除した頃には、僕の腕は自分の体重に踏みつけにされて痺れてしまっていた。

 「マードック酷いよ。いてて…。」

 マードックは僕の痺れた腕を優しく摩りながらクスクス笑い始めた。

「ごめん、ディー。でも今回の事で思ったんだけど、私は案外ディーの事を縛りつけておきたいと思っているのかもしれないなって。振り回されるのが普通だから気が付かなかったけど、深層心理が出たのかもしれないよね?

 ふふ、だからディーももうちょっと大人しくしていてね?」

 え、マードックこそサイコパスじゃない?怖。…ちょっと大人しくしようかな、うん。





★お知らせ★ようやく更新出来ました💦大変お待たせいたしました!

さて、ビッチ受けをテーマにしたBLニ作品を連載中です!

第一弾【ビッチな受けちゃんとノンケわんこの攻防】社会人BLで、クールな美人受け(ビッチ)がわんこ系攻めに絆されてしまう話です💕そろそろ最終局面!?

第二弾【僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない】異世界貴族風で、健気?な男娼受けと愛の重い騎士の話です。こちらは連載が始まったばかりですが、予想より面白い展開になって来ました😁

よろしくお願いします❣️












 
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