御曹司の恋〜君は悪魔か天使か〜

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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親密さとは

お宅訪問

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 「お邪魔します。」

 橘征一に促され、高層マンションの角部屋の大きな玄関扉の中へ足を踏み入れた。広い玄関のコンクリートの打ちっぱなしの洒落た壁には、オーダーであつらえたと思われるサイクリング用の自転車が壁にかけられていた。変則的な形の廊下には現代アートの大きな絵が掛かっていて、モダンな雰囲気と合っていた。

 靴を脱いで意外に可愛らしいモコモコの室内履きに履き替えると、征一が私の足元を見て、少し照れたように言った。

「気に入ってくれると良いんだけど、…昨日急遽購入したやつだから。」

 私はこの部屋を訪れる女性用の物かもしれないとモヤモヤした感情が、一瞬で霧散したのを感じた。


 「すみません。なんだか気を遣っていただいて…。可愛くて好きです。」

 征一はニヤリと口元を緩めると、悪戯っぽく私にウインクして言った。

「どういたしまして。きっとまた君が使ってくれるだろう?」

 私はどうゆう事なんだろうと征一の顔を見つめ返したが、征一は顔を逸らすと先に立って歩き出した。

 リビングへつながる扉を開けると、大きな窓の向こうに開放的な景色が広がっていた。抜けるような青い空が気持ちいい。そして眼下には眺めの良い街並みが広がっていた。近くの運河がこんなによく見渡せるなんて何だか贅沢な感じだ。


 私が景色にぼうっとしてると、横の方から声が掛かった。

「…ひどいな。景色ばかり見て。今日は俺に会いにきてくれたわけじゃないの?」

 声の主は、前回病院でお見舞いで会った時より顔色も良くて声にも張りがあった。頭の包帯もとれて、一見何処を怪我したのか分からないほどだ。

 私は一人がけのソファに座っている橘尚弥の側に近寄ると微笑んで言った。

「良かった。見違えるほど顔色が良くなりましたね。もう大丈夫なんですか?」


 尚弥は手を伸ばして、私の手をそっと握ると上目遣いで言った。

「うん。君のお陰だよ、田辺美那さん。君が何度かお見舞いに来てくれたおかげで、俺は随分と元気付けられたし、実際元気になったからね。君のキスも特効薬だった。ふふ。

 ああ、先に謝らないといけないね。おれ、途中で君が美波じゃないって気付いたのに黙っていて悪かったと思ってる。申し訳なかった。言い訳をさせてもらえるなら、俺は君ともっと会いたかったんだ。君は綺麗なだけじゃなくて、とても優しい。俺たちにつけ込まれちゃうほどね?」

 そう言って、ニヤリと笑ってウインクした。ああ、こんな所がひどくそっくりで、印象の違う二人がやっぱり兄弟だって改めて感じた。


 私は口の中で笑いを噛み殺すと、尚弥を改めて眺めた。ソファから伸びるスラリとした肢体は伸びやかで、兄より気持ち細身の身体にカジュアルな白いコットンシャツがよく似合った。

 少しシャツが大きいのは、入院で痩せたのかもしれない。柔らかに微笑む眼差しと泣きぼくろ、大きめの唇がセクシーで、柔らかそうな長めの黒いくせっ毛がまだ大学生のようだった。


 「美那、また見惚れてるの?ふふ。立ち上がって全身を見せてあげたい所だけど、ちょっとまだ足が痛むから今度よく見せてあげるよ?何なら隅から隅まで。」

 私は何秒か遅れて脳に到達した、尚弥の誘い文句の意味を感じて急に身体が熱くなった。動揺を隠して冷たく聞こえるように言った。

「橘さんのシャツが合ってないから、入院で痩せたのかと思っただけです。…直ぐに図に乗るんだから。」

 橘弟はにこりと笑って言った。


 「尚弥。俺のこと尚弥って呼んでたでしょ?今更橘さんはやめて欲しいな。ここに二人橘さん居るしね?」

 私は、少し機嫌の悪そうな橘兄の顔をチラッと見て、肩をすくめて尚弥に向き直った。

「分かりました。じゃあ尚弥さんで。あ、これお見舞いです。私の好きなお店の和菓子です。帰国したばかりで、日本の味にまだ飢えてるんじゃないかと思って。ここ、本当に美味しいんですよ。是非召し上がってください。」


 征一が礼を言って私から手土産を受け取ると、今お茶を淹れるから座っていてくれとアイランドキッチンへ向かった。

 私は目の前の景色にやっぱり心を掴まれて、ふらふらと窓際へ寄って行った。ああ、あそこは前回のコスプレで行ったイベント会場だ。そっか、こんな位置関係になってるのね?私が夢中で窓にかぶりついてると、いつの間にか隣に尚弥が立っていた。

「何か面白い物でもあった?」

「ええ、あの白い大きな建物があるでしょう?あそこで先日コスプレイベントが有って参加したんです。だからあんな位置関係だって…。」


 私はそこまでペラペラ話してから、ハッとして口元を抑えた。私うっかりとんでもないこと口走った?恐る恐る隣を見上げると、尚弥が少し目を見開いて私を見下ろして言った。

「え?美那ってコスプレするの!?凄い意外なんだけど!っていうか似合いすぎじゃない?俺にはもう見える!美那のコスプレ姿が!えー、凄い見たいんですけど。画像とかないの?あるでしょ?見せて!」

 めっちゃ食いついてきた尚弥を前に、うっかり暴露した自分の秘密に私は頭が真っ白になってしまっていた。





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