47 / 59
新しい関係性
征一のお節介
しおりを挟む
私はちょっとぼんやりする身体を征一に支えられながらビルの駐車場までエレベーターで降りた。途中幾人かの社員からチラチラ見られたけれど、私の顔色の悪さを見ると皆ギョッとしたように、お大事にと優しく声を掛けてくれた。
「私の友人で精神科医がいるから、そいつのところに連れて行くよ。まだ若いが腕は良いから安心してくれ。」
征一はそう言うと私をそっと助手席へ乗せ、シートベルトを付けると運転席へと乗り込んだ。私は多分直ぐに眠ってしまった様で、気がつけば閑静な住宅街の一見素敵な洋館に見える病院へと征一に抱き上げられながら入っていくところだった。
「…征一さん、降ります…。」
征一は私をチラッと見ると言った。
「まだ顔色が良くない。今歩いたらまた倒れそうだ。このままで。」
そう言うと病院の中へ入っていった。事前に連絡してあったのか、時間外だったのか、待合室には誰もいなかった。征一は迷う事なく診察室へ入っていった。
南フランスの部屋を思わせる明るい診察室で、征一と同じような年頃のドクターらしき人物はにっこり微笑むと言った。
「君が征一の大事な患者さんか。簡単に事情は聞いたよ。さて、そこの安楽椅子に。そう。征一はどうしようかな。えっと、君たちはどうゆう関係かな?」
征一は私を見つめると、ため息をついて言った。
「美那が自由に話せた方がいいだろう。私は席を外す。頃合いを見て呼んでくれ。」
私は部屋の扉が閉まるのを見送ると、目の前の優しげなドクターを見つめた。ドクターは自分は征一の高校時代の友人だと言った。それ以来の腐れ縁だと。そしてここでの話は医者と患者の話で誰にも話さないから自由に話して良いと言われた。
私はあの事件の時の女性の無表情な眼差しを、静かな部屋、夜眠る時に思い出してしまって怖いこと、眠りが浅い事、裕樹さんに会うのが怖いなど、思いつくままに話した。
ドクターは話しやすい様に時々合いの手や、質問するだけで、ほとんど私が喋っていた。でも、誰にも言えない色々な気持ちを話したおかげで、私はゆっくり息が出来る気がした。久しぶりに感じる安らぎとでも言うのだろうか。
初対面で秘密を守れる人に何でも話すと言うのは、こんなに話せるものなのかと少し驚きも感じるほどだった。ドクターは話し終えた私に悪戯っぽい視線を送って言った。
「ちょっと聞いても良いかな。ここだけの話、田辺さんと征一はどういう関係なんだい?」
征一の友人という精神科医に彼との関係を聞かれたけれど、私は何と答えていいか分からなかった。その時、以前征一に言われた言葉を思い出した。
「…私と征一さんの関係は親密な知人です。」
ドクターはニヤリと面白そうな顔をして私を見た。
「これは治療とは関係がなくて、単なる僕の好奇心だから無理に答えなくても良いんだけどね。僕は征一があんなに必死な様子を初めて見たから、ちょっと驚いたんだ。あいつはそつがない分、昔から他人に深入りしないように気をつけているからね。
それは女性に対してもそうで、大学時代の彼女たちは結局あいつの気持ちが分からないって離れていったんだ。あいつはそれでもそうかって具合でね。だから君のことを随分と気にかけてるのが、本当珍しいっていうか。
付き合ってるのかと思ったけど、今の話や、君の様子からしてみたらそうじゃないみたいだね。そっか。」
私は、征一が今まで女性に対してそんな感じだったことに驚きを感じた。私には随分でしゃばってくるし、グイグイくるのに…。
「ごめん、ごめん。余計なこと言ったよ。この事はあいつには内緒にしてね。怒られそうだから。ははは。…じゃあ、取り敢えずゆっくり休養が必要かな。出来れば一人にならない方がいいと思うんだけど。ちょっとあいつ呼んで来るから待っててくれるかい?」
そう言ってドクターは部屋から出て行った。私は、窓から見える中庭の美しい薔薇を眺めるともなしに見つめていた。私は自分の事を強いと思っていたけれど、案外そうでもないんだと少しガッカリしていた。それとも慣れない恋愛事情に巻き込まれたせいだろうか。
ドアの開く音にそちらを振り返ると、ドクターと征一が何か話しながら入ってきた。ドクターは私の顔を見るとウィンクをして言った。
「今、征一にも話していたんだけど、田辺さん一人で過ごさない方が良いと思うんだ。せめて1週間でも良いから、誰か一緒にシェアハウスで良いから過ごしてほしいと思って。誰か都合つきそうかい?
…あと、その例の彼、野村さんとは一定期間会わないでもらいたいんだ。彼には僕の方からメールを流しておくから、連絡先だけ教えてもらって良いかな。
野村さんは田辺さんの家は知っているのかな?…そうか、どうしようかな。やっぱり今の家で過ごさない方が良いんだけど…。」
すると私たちの話を聞いていた征一が言った。
「私の家に来れば良い。マンションは広いし、客間が有るから。私も普段帰宅は遅いけれど、人の気配があった方が良いんだろう?」
「私の友人で精神科医がいるから、そいつのところに連れて行くよ。まだ若いが腕は良いから安心してくれ。」
征一はそう言うと私をそっと助手席へ乗せ、シートベルトを付けると運転席へと乗り込んだ。私は多分直ぐに眠ってしまった様で、気がつけば閑静な住宅街の一見素敵な洋館に見える病院へと征一に抱き上げられながら入っていくところだった。
「…征一さん、降ります…。」
征一は私をチラッと見ると言った。
「まだ顔色が良くない。今歩いたらまた倒れそうだ。このままで。」
そう言うと病院の中へ入っていった。事前に連絡してあったのか、時間外だったのか、待合室には誰もいなかった。征一は迷う事なく診察室へ入っていった。
南フランスの部屋を思わせる明るい診察室で、征一と同じような年頃のドクターらしき人物はにっこり微笑むと言った。
「君が征一の大事な患者さんか。簡単に事情は聞いたよ。さて、そこの安楽椅子に。そう。征一はどうしようかな。えっと、君たちはどうゆう関係かな?」
征一は私を見つめると、ため息をついて言った。
「美那が自由に話せた方がいいだろう。私は席を外す。頃合いを見て呼んでくれ。」
私は部屋の扉が閉まるのを見送ると、目の前の優しげなドクターを見つめた。ドクターは自分は征一の高校時代の友人だと言った。それ以来の腐れ縁だと。そしてここでの話は医者と患者の話で誰にも話さないから自由に話して良いと言われた。
私はあの事件の時の女性の無表情な眼差しを、静かな部屋、夜眠る時に思い出してしまって怖いこと、眠りが浅い事、裕樹さんに会うのが怖いなど、思いつくままに話した。
ドクターは話しやすい様に時々合いの手や、質問するだけで、ほとんど私が喋っていた。でも、誰にも言えない色々な気持ちを話したおかげで、私はゆっくり息が出来る気がした。久しぶりに感じる安らぎとでも言うのだろうか。
初対面で秘密を守れる人に何でも話すと言うのは、こんなに話せるものなのかと少し驚きも感じるほどだった。ドクターは話し終えた私に悪戯っぽい視線を送って言った。
「ちょっと聞いても良いかな。ここだけの話、田辺さんと征一はどういう関係なんだい?」
征一の友人という精神科医に彼との関係を聞かれたけれど、私は何と答えていいか分からなかった。その時、以前征一に言われた言葉を思い出した。
「…私と征一さんの関係は親密な知人です。」
ドクターはニヤリと面白そうな顔をして私を見た。
「これは治療とは関係がなくて、単なる僕の好奇心だから無理に答えなくても良いんだけどね。僕は征一があんなに必死な様子を初めて見たから、ちょっと驚いたんだ。あいつはそつがない分、昔から他人に深入りしないように気をつけているからね。
それは女性に対してもそうで、大学時代の彼女たちは結局あいつの気持ちが分からないって離れていったんだ。あいつはそれでもそうかって具合でね。だから君のことを随分と気にかけてるのが、本当珍しいっていうか。
付き合ってるのかと思ったけど、今の話や、君の様子からしてみたらそうじゃないみたいだね。そっか。」
私は、征一が今まで女性に対してそんな感じだったことに驚きを感じた。私には随分でしゃばってくるし、グイグイくるのに…。
「ごめん、ごめん。余計なこと言ったよ。この事はあいつには内緒にしてね。怒られそうだから。ははは。…じゃあ、取り敢えずゆっくり休養が必要かな。出来れば一人にならない方がいいと思うんだけど。ちょっとあいつ呼んで来るから待っててくれるかい?」
そう言ってドクターは部屋から出て行った。私は、窓から見える中庭の美しい薔薇を眺めるともなしに見つめていた。私は自分の事を強いと思っていたけれど、案外そうでもないんだと少しガッカリしていた。それとも慣れない恋愛事情に巻き込まれたせいだろうか。
ドアの開く音にそちらを振り返ると、ドクターと征一が何か話しながら入ってきた。ドクターは私の顔を見るとウィンクをして言った。
「今、征一にも話していたんだけど、田辺さん一人で過ごさない方が良いと思うんだ。せめて1週間でも良いから、誰か一緒にシェアハウスで良いから過ごしてほしいと思って。誰か都合つきそうかい?
…あと、その例の彼、野村さんとは一定期間会わないでもらいたいんだ。彼には僕の方からメールを流しておくから、連絡先だけ教えてもらって良いかな。
野村さんは田辺さんの家は知っているのかな?…そうか、どうしようかな。やっぱり今の家で過ごさない方が良いんだけど…。」
すると私たちの話を聞いていた征一が言った。
「私の家に来れば良い。マンションは広いし、客間が有るから。私も普段帰宅は遅いけれど、人の気配があった方が良いんだろう?」
1
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる