伯爵令嬢の秘密の愛し子〜傲慢な王弟は運命の恋に跪く

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
7 / 33
噂の令嬢

燃える恋は幻

優しいお母様と、頼もしいお父様から可愛がられた私が、歳の離れた弟のアンソニーに親の注目を奪われたとしても、全く気にならない位には恵まれた愛情を受けていて幸せだった。

けれども燃え上がる恋に落ちた私にとって、ヴィンセントは私だけのもので唯一の存在だった。その彼が私を欲しいと言ったのだから、世間知らずな私が幸せだと勘違いしてもおかしくはなかっただろう。


だからその日の夜遅くに屋敷の前に送り届けられて、抱き寄せて唇を押し当てながら愛しげに私を見つめて、日を改めて迎えに来ると言ったヴィンセントを、満面の笑みとのぼせ上がった愛で見送ったのだ。

そして、未婚の伯爵令嬢として誰にも言えない行動をしでかした覚えのある私は、友人の令嬢の一人に雨宿りさせて貰ったと浮かれた気分で誤魔化したのだった。


いずれヴィンセントが求婚に来てくれると信じて疑わなかった毎日は、恋に浮かされて甘い溜息ばかりついていた。けれども、その甘い溜息が落胆の溜息に変わるのはそう遅くはなかった。

待てど暮らせど彼が家に現れなかったせいで、希望が日を追うごとに擦り切れていった。私から問い合わせようにも、彼の事は名前しか知らなかった。

じわじわと弄ばれたのかもしれないという事実が目の前に浮かび上がって来て、盲目的な美しい愛が、胸を掻きむしるような憎しみと絶望に変わるのもあっという間だった。


悲嘆して、やつれて寝込む様になってしまった私を心配した両親が、伯爵家の主治医であるキース医師から妊娠を告げられてどれほど驚いたことだろう。同様に思いもしない妊娠に驚き、怯える私もまた、相手が誰か問われても彼がどこの何者か一切聞いていなかったので、何も説明が出来なかった。

彼自身もその事を話し辛い様子だったので、信じきっていた私は彼に問いただす事もしなかった。だから私はますます自分の不甲斐なさで、状況こそ説明するものの、何度問いただされても彼の名前さえ両親に告げる事が出来なかった。


両親はきっとこの国の貴族ではないかもしれないと結論づけて、それでも醜聞にまみれる事になる私を酷く心配してくれた。

しかし私の不幸はそこでは終わらなかった。心の準備も出来ないまま待ったなしでお腹が大きくなるのと同時に、今度はお母様が病に倒れてしまった。

私は自分への心労がそうさせたのだと酷く後悔して泣いてばかりだったが、お父様からお母様は一年前から死の病を抱えていたのだと教えられたのだ。私はお母様にこれ以上心配はかけまいと、大きくなるお腹を抱えながら看病に勤しんだ。


「エリザベス、こうなってしまったのには何か理由があるのかも知れないわ。お腹の中の子供は、少なくとも貴方が愛を捧げた結果のものだわ。貴方が軽い気持ちでそんな行動をするなんて思っていないもの。エリザベスは自分の信じるものに真っ直ぐだから。

私は今となっては楽しみなの。エリザベス、貴方の可愛い赤ちゃんをこの腕で抱けそうだから。これもまた、神様の思し召しだわ。」


そう言って優しく微笑んだ病で倒れたお母様の生きる希望は、今や私のお腹の赤ん坊の顔を見ることだった。私もまた、赤ん坊が生まれてからのその先の大変さを知る事がなかったので、その頃はある意味穏やかな日々に幸せに笑っていられたのだった。

そして私が美しい赤ん坊を腕の中に抱いて、寝所に横たわるお母様に見せた時、お母様は痩せて細くなった顔で喜びと同時に戸惑いを見せた。私は不思議な気がしてお母様に問いかけたけれど、お母様は何でもないと言葉を濁すばかりだった。


それからお父様とお母様が深刻な様子で話し合うのを感じながら、私は初めてばかりの事に日々を忙殺されていて、心身共に疲弊していった。それはきっと子供の父親であるあの人が、私の側に居てくれないという深い悲しみが成せる技だったのかもしれない。

そして赤ん坊が生まれて3ヶ月後、私に無条件の愛を注いでくれていたお母様は看病の甲斐なく亡くなってしまった。お母様が亡くなったショックと、慣れない子育てで私が痩せてしまっても、私の美しい赤ん坊はすくすくと成長した。


この頃の病人めいた私を支えたのは、屋敷の侍女たちや乳母のナンシー、度々訪れるキース医師であって、彼らが居なかったら私はどうなっていたかと今も考える事がある。

そんな私達をお父様は難しい顔をして見つめていたけれど、ある日告げられたのは後妻を娶らねばならないという事と、私を屋敷から放り出すという話だった。


イザベラ伯母様の言葉を借りるなら、お父様は私の間違いのせいで苦渋の決断をしたという事になるのだろうし、まだ10歳にならない弟のために伯爵家の体面を立て直した、それだけの事なのだ。

けれども私はこの時、立て続けに受け止めきれない色々な事が起きたせいでお父様を憎んだ。そうする事が一番簡単で、楽になれたからだ。

その時の私は19歳になったばかりで、お父様を憎む事を支えに、悲嘆してばかりの世間知らずの貴族令嬢から、大人のレディとして前を向いて歩き出すしか無くなったのだ。

感想 6

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。