伯爵令嬢の秘密の愛し子〜傲慢な王弟は運命の恋に跪く

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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引き寄せられる運命

白薔薇の提案

甘い薔薇の良い香りに包まれて、私はヴィンセントとアーチの中をそぞろ歩いた。随分と遠くまで続いている気がしたけれど、入り口と出口のアーチの高低差をつける事で、随分と長い薔薇のトンネルに見えていた様だった。

「これは素晴らしいですわ。入口が広くて高いせいで、奥の方まで見通せて薔薇を余すとこなく楽しめるのですもの。私のお母様も白い薔薇が大好きでした。もうその薔薇は撤去されてしまいましたけど…。」

そう呟いてから、私はまたもや余計な事を言ってしまったと思った。前もそうだったけれど、ヴィンセントはいかめしい雰囲気があるのに、なぜか私には話し易いのだった。


「気に入ってくれて嬉しいよ。ここはエリザベスが住むことになるのだから、君の亡きお母上の好きだった薔薇も庭師に言って取り寄せよう。」

そう言って私を見つめるヴィンセントの顔を見上げながら、私は時間が止まった。今、何て言ったのかしら。私はヴィンセントのエスコートから身体を離して口を開いた。

「私がここに住むって、どう言う事ですの?」


するとヴィンセントが眉を顰めて呟いた。

「テオは私の子だ。そうだろう?あの瞳は亡き皇后から受け継がれたものだ。私達は結婚するんだ、エリザベス。」

私は胸がドキドキして来た。もっと色々考えて来るべきだった。私は話がここまで進むとは全く考えていなかった。でも王弟の子なら、王族の子供だ。正統な子供であるべきだとヴィンセントは言ったのかしら。


「…なぜ?私達はお互いの事を何も知らないし、今は愛し合ってもいない。なぜ結婚しなければいけないの?」

私の口から放たれたのは、真っ直ぐな言葉だった。途端にヴィンセントの纏う空気が緊張を帯びたものになった。彼は低い声で言った。

「なぜ?テオには父親と母親が必要だからだ。私とエリザベスはそれに値しないかね。それとも、エリザベスはテオを私に渡して一人で自由になるとそう言いたいのか?…それも良いだろう。私はテオさえ手に入れば良い。エリザベスは居なくてもね。」


私はカッとして、ヴィンセントに掴みかからんばかりに近づいて叫んだ。

「何て事を言うの!私がテオを手放す事などあるわけないわ!何度絶望で死んでしまいたいと思った事か!その度にテオの顔を見て一歩ずつ前に進んできたのに!人でなし!大嫌いよ、貴方の事などもう愛してなんていないわ…!」

私は叫びながら意識が遠くなっていった。倒れる寸前に逞しい腕の中抱き止められて、それはあの懐かしい安心感を与えてくれて、何か優しく囁かれた気がしたけれど、私にはもうハッキリとは聞き取れなかった。



天蓋の薄いベールに包まれたこの場所は何処なのかしら。私が目を覚ましたのは貴賓室とでも言う様な美しい部屋だった。身動きしたせいか、側に座っていた誰かが傍へとやって来て、私の手を温かい体温で温めてくれた。

「エリザベス、済まなかった。動揺させてしまったね。順を追って説明しようと思っていたんだが誤解させてしまった。具合はどうかね。」

私はゆっくりと起き上がったけれど、冷静に話が出来なかった自分にがっかりして、心配げに見つめるテオと同じ色の瞳を見返すことが出来なかった。


ヴィンセントはため息をつくと話し始めた。

「我々のことは置いておいて、一番にテオの事を考えたい。テオはこれから貴族社会の一員になるのだから、両親が揃っていた方が良いだろう。どちらもここに居るのだから、我々が両親だ。ここまでは良いね?」

私は渋々頷いた。ヴィンセントの言ったことは紛れもなく事実なのだし、その点に関して言えば何も反論すべきことは無かった。それからヴィンセントは私の様子を見ながら言葉を続けた。


「では私達は正式にテオの両親になるべきだ。結婚という形で。エリザベスさえ構わなければ、私と結婚しよう。これは契約だ、エリザベス。」

私はヴィンセントの言う言葉の意味は分かっていた。けれども頷くことはできなかった。

「契約…?」

ヴィンセントは立ち上がると、窓の方を見つめながら少ししわがれた声で言った。

「ああ、そうだ。エリザベスと私はかつては愛し合ったかもしれないけれど、一瞬で燃え尽きてしまったんだろう?テオのためにお互いに歩み寄るしか無い。多くの貴族がしている事だ。結婚など一種の契約だ。

私は自分の子供と対外的な妻を得ることが出来て、エリザベスはテオを手放す必要は無くなって、私の庇護を受けられる。お互いに良いところ採りと考えれば悪い話ではないだろう?」


私は呆然とヴィンセントの後ろ姿を見つめた。17歳で燃え上がった恋は、私にこんな形で夫をもたらした。愛の無い、契約上の夫。私は自分の愛し合っていた両親の姿を思い出した。私には絶対に手に入らないものなのだ。

振り返ったヴィンセントが目を見開いて私のベッドに座って抱き寄せて言った。

「エリザベス…。泣かないでくれ。きっと上手くいくよ。私達はテオのために良い両親になれるさ。」

私は自分が泣いている事にも気づかなかったし、抱き寄せられたヴィンセントの体温もさっきまでは温かいと思っていたのに、なぜか冷え冷えとしか感じられなかった。















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