伯爵令嬢の秘密の愛し子〜傲慢な王弟は運命の恋に跪く

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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引き寄せられる運命

結婚式

「お嬢様、本当にお美しいですわ。」

そうマリーやナンシー始め、伯爵家の侍女たちが声を揃えて褒め称えた。古参の者達の中には、涙を流している者も見られた。私は鏡に映る美しく飾り立てられた自分の姿を、まるで他人事の様に感じながらじっと見つめていた。

結婚式をこんな気持ちで迎えるなんて、夢見る少女の頃は考えもしなかった。生涯で一番幸せな瞬間だと思っていたのに、逃れることの出来ない鎖に絡め取られる様な複雑な気持ちでここに立っている。


それでも鏡の中の私は白薔薇のヘッドドレスで飾られた黒い波打つ髪をベールに覆われて、頬を薔薇色に染め、赤い唇を引き立たせる自分の淡い緑色の瞳を煌めかせていた。

私は無意識にこの結婚を喜んでいるのだろうか。ヴィンセントに契約結婚だと言われてから、心の一部が冷たく動かなくなってしまっているというのに、鏡の中の自分は明らかに幸せな花嫁に見えた。


「…エリザベス!何て美しい花嫁だ。私の可愛い娘よ。お前の母親にもこの姿を見せてやりたかった。さぁ、このエメラルドのネックレスをつけなさい。これは私がお前の母親にお前が生まれた時に贈ったものだよ。

あの美しい赤ん坊が、こうして人生に翻弄されながらも幸せを掴む事が出来て私は嬉しい。お前が王弟を愛してテオを授かったそれが、今日の喜びの日に繋がっていたのだね。」


そう言って、お父様は声を掠れさせながら私の首に繊細な細工のエメラルドの首飾りをつけてくれた。子供を産んでから人並み程度には大きくなった胸の膨らみに沿う様なデザインは、鏡の中の私を更に美しい花嫁にした。

お父様が部屋を出て行って直ぐに、一人前に礼装を着こなしたテオがアンソニーに抱かれて部屋に入って来た。テオは伯爵家で過ごすうちに、すっかり弟のアンソニーに懐いてしまった。もう直ぐ14歳になるアンソニーはすっかり成長して、父親譲りの濃い金髪と薄い青い瞳の若者になっていた。


床に降ろされたテオは私にゆっくり近づくと、まじまじと私を見つめて満面の笑みを浮かべた。

「おかぁちゃま、きえい!おひめちゃま?あんとにぃ、おひめちゃま?」

そう言ってアンソニーに私を指差して尋ねた。アンソニーは少し恥ずかしげに私に近づくと、私の白い手袋に覆われた手をそっと持ち上げて言った。

「姉様、僕のせいで姉様が伯爵家を追い出されたんだと、ずっと辛く思っていたんです。今日の様に輝く姉様を目の前にして言葉がありません。姉様、病気で亡くなった母上の分まで幸せになって下さい。…テオの事は心配しないでください。二日ぐらいなら、寂しがらずに良い子でお留守番出来ますから。ね?テオ。」


アンソニーのズボンを握ったテオは、ニコニコと私とアンソニーを見上げると、理解してるのかしていないのか無邪気に返事をした。アンソニーに抱き上げられたテオにそっと口付けると、二人は楽しげに部屋を出て行った。

「まるでご兄弟の様ですわね。あっという間に仲良くなられて。アンソニーお坊ちゃんも学院へ通っているとはいえ、この屋敷でお一人では寂しかったんじゃございませんか?」


そう楽しげに侍女のマリーに言われて、私は自分のせいでアンソニーにも要らぬ苦悩を与えていたのだと後悔が胸に迫ってきた。それは私がこの結婚を、たとえ契約結婚だとしても成功させなくてはいけないのだと改めて決心させる事になった。

もう一度鏡の中の自分を見つめると、そこにはさっきまでの人形の様な自分ではなくて、いつものたくましく成長した自分が戻ってきた気がした。そう、私は自分でこの結婚を選んだ。テオのために、伯爵家のために。自分で出来る精一杯をしなくては。



王弟の豪奢な馬車を先頭に数台の馬車が隊列を組んで伯爵家から大聖堂へと向かっていると、街道には王弟の花嫁をひと目見ようと多くの領民が集まっていた。人々が撒き散らす花弁の中を私たちの馬車が進むと、大きな歓声が聞こえて来た。

この時改めて私は王族と結婚するのだと思い知らされたのだった。私たちの結婚は国民の知るところとなり、貴族の間ではロマンチックな運命の恋として面白おかしく噂されていた。


私は当事者でなければ確かにこんな面白い話もないかもしれないわと苦笑しながら、荘厳な大聖堂へと迎えてくれた司祭に導かれて、お父様に手を引かれて教会の赤い絨毯の上を歩き進んだ。

大勢のざわめく貴族達に見守られて、私は大司祭の隣に立つヴィンセントを見つめた。男盛りの雄々しいその佇まいは、見るからに人々に畏敬の念を沸かせるのに相応しい騎士正装だった。

プラチナブロンドの光をまぶした様な少しうねる髪を撫でつけて、いかめしい風貌から覗かせる青紫の光を纏う様な瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。


私はその時、息をするのを忘れて見つめ合った。そこには私の胸の奥に刻まれたかつて愛した人がいた。そして私は彼をまだ愛している事に、その瞬間気づいてしまった。私は今、愛する人と愛の無い契約結婚をするのだわ。







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