伯爵令嬢の秘密の愛し子〜傲慢な王弟は運命の恋に跪く

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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引き寄せられる運命

二人の夜

「奥様、こちらを召し上がって下さいませ。」

結婚式とお披露目の晩餐会を終えて、さすがに緊張が切れてぐったりした私は部屋のソファに座り込んでいた。中扉で繋がった私の部屋は王弟夫人の部屋と言うには少し甘い調度品と色遣いだった。

淡い翡翠色の生地に、銀糸で刺繍された美しいカーテンが天井からたっぷりと窓辺を飾り、真珠色のソファには色取り取りのピンク色のクッションが飾られていた。


ティーテーブルには簡単に摘める軽食が少しづつ大きな銀のトレーに彩り良く盛り付けられていた。私は筆頭侍女から淹れたてのお茶を受け取ってひと口くちにした。

緊張からほとんど何も口にしていなかった事に私は今更ながら気がついた。私とヴィンセントとの馴れ初めはこの城でもいい様に解釈されているのか、筆頭侍女のベルを始め、皆好意的に私の世話を焼いてくれている気がした。


侮蔑的な扱いを受けて来た今までとはまるで違う扱いに、妙に戸惑ってしまう。私の様子を見つめながらベルは侍女達に指示を出しながら私に言った。

「これから、ゆっくり湯船で身を清めて頂いて、今夜の初夜のために万全に整えさせていただきますね。何もご心配はございませんから。」

そう微笑みかけると、私を部屋に一人にしてくれた。私は慣れない部屋を見回して小腹が収まって人心地つくと、立ち上がって窓から目の前に広がる広い庭園を見下ろした。扉の先にバルコニーがあったけれど、さすがに薄い衣のガウンを重ねたものでは外に出るのは心細い。


私は神経質になっている心を落ち着かせるために、外の空気を吸い込んだ。さきほどベルが言った初夜という言葉は私をすっかり怯えさせた。実質的には子供も居るのだから初夜では無い。けれども、あの時以外、私は何の経験も知識も増えてはいない。

返ってそう言ったことから遠ざかっていたという方が正解かもしれない。私はヴィンセントと契約結婚について話をした時の事を思い出していた。


『もちろん私は契約結婚だからといって、白い結婚にする気は無い。私たちは同じベッドで共に過ごすんだ、エリザベス。もちろん承諾するだろう?私達の相性は良いのだし、君はテオと離れる気が無いのだからね。』

私はヴィンセントにそう言われて、震える様な屈辱と反発心を感じた。けれど、あの結婚式でヴィンセントと顔を合わせた後では只々落ちつかないだけだった。


私は彼と身体を交える事を望んでいるのかしら。ええ、そうよ。私は彼を愛している事に気づいてしまった。彼が義務として、あるいは妻への役割として私の身体を求めても、私はきっと喜びで応えてしまうのだろう。それはまるで悲しい片思いのなれの果ての様だった。

侍女達にかしづかれながら湯浴みをして、美しい刺繍の肌触りの良いナイトドレスを纏うと、私はいよいよ落ち着かなくなった。こんな時はテオをぎゅっと抱きしめて甘い匂いを嗅いで落ち着きたいのに、今夜は伯爵家でアンソニーと一緒に楽しく過ごしている事だろう。


鏡の前で甘い香料の水うがいを済ませると、私は心臓が飛び出しそうだった。鏡の中の私は見るからに頬も赤く染まっている。ふと部屋の仕切り扉の取手がガチャリと回る音がして、私はハッと其方を見つめた。

姿を現したのは、ローブを緩く羽織ったヴィンセントだった。髪が張り付いているので、湯浴みしたばかりなのだろう。私が怯えるリスの様に硬直していると、ヴィンセントがまるで小動物を驚かさない様にゆっくりと私の側に近寄って来た。


「…エリザベス。さぁ手を。」

そう言って、ヴィンセントは私に手を差し出した。私はその節張った大きな手をじっと見つめて、それからヴィンセントの顔を見上げた。辛抱強く待っているヴィンセントは私を急かしたりはしなかった。

何を考えているのか分からない表情で私が手を伸ばすのを待っていた。私は思い切ってヴィンセントの手のひらに自分の手を乗せた。次の瞬間私はヴィンセントに抱き寄せられて、私の唇は彼のそれと重なっていた。


その甘い感触は一瞬であの時の情熱を思い出させた。私が手に入れたと思った幻を、今度は本当に手に入れたのかもしれない。優しく私の唇をゆっくりと啄むヴィンセントの喉から呻き声が聴こえて、私は無意識に手を伸ばしてヴィンセントの首に手を回した。

私はヴィンセントを急かす様に口を開いて、ヴィンセントの甘い舌を誘い込んでいた。ゆっくりと口の中を撫でられて、私は自分の閉じた瞼が震えるのを感じた。


「エリザベス…。美しい君は、私の…。」

時々離れる唇からヴィンセントが囁く言葉は形を成さず、私はクッタリとヴィンセントに支えられて甘い口づけを受けていた。絡まる舌は、かつてヴィンセントに教えられた事を思い出す様になぞられて、その度に私の胸は張って大きくなった様に感じたし、脚の間が震えた。

息も絶え絶えなのは自分の呼吸だと気がついたのは、ヴィンセントにじっと見つめられた時だった。ヴィンセントは私をぎらつく眼差しで見つめて呟いた。


「君はいつだって私を無力にする。今夜は二人の新しい日々の始まりだ。奥様、覚悟はいいかね…。」

そう言うと私をサッと掬い上げて、仕切り扉をくぐってヴィンセントの部屋のベッドへと歩き出した。





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