24 / 33
寄せては返す波のように
縮まる距離
朝のひと肌がこんなに癒されるものだとは知らなかった。
昨日ヴィンセントとの晩餐で研究室の話から、ヴィンセントの優しい言葉に今まで張り詰めていた気持ちが決壊してしまった。今までの困惑や、苦しさ、悔しさ、悲しみ、絶望、全てを吐き出す様に、私は子供の様に泣いてしまった。
自分自身を曝け出して泣いても受け止めてくれる相手がいる安心感と甘えが、今の私には酷く心地良かった。毎晩身体を繋げても必ず朝独りぼっちで目覚める寂しさと痛みを、今朝は感じなかった。
温かな体温に包まれて、嗅ぎ慣れたスパイシーな新緑の林の匂いにぼんやりと顔を上げると、私を見つめる青紫の瞳の中に散る星屑は、テオとは違う場所にあるのだと初めて知った。
それからはそうするのが当たり前のように、お互いの情熱をゆっくりと分け合った。高まった身体は朝と夜の間の柔らかい明るさの中でゆっくり蕩けだした。
燃え尽きて気怠い身体に優しく降りてくるヴィンセントの唇が、なぜかいつまでも終わらなかった。私はそれに癒されて、またうとうとと優しい微睡みに吸い込まれて行った。
気づけばすっかり陽が高くなっていて、私は寝坊とヴィンセントの部屋で目覚めた事の気恥ずかしい気持ちで、筆頭侍女のベルの顔を見られなかった。けれどもベルは相変わらずの嬉しげな様子で私の面倒を見てくれた。
ここに来てから私はずっと甘やかされっぱなしで、あの小さな屋敷で頑張って来た自分が思い出せなくなる気がする。待ちきれない様子で部屋に入って来たテオを膝に乗せてお喋りを聞いていると、執事を従えたヴィンセントが談話室にやって来た。
テオが私の膝からにじり降りてヴィンセントに一生懸命駆け寄っていくと、ヴィンセントが微笑んでテオを抱き上げた。つたない言葉でヴィンセントに伝えようとする姿は側から見ていても微笑ましい物だった。
ふいにヴィンセントが私に目を移して真っ直ぐに見つめるから、私は胸の鼓動を飛び跳ねさせてしまう。結婚してもう2ヶ月ほど経つというのに、未だにいかめしくも美丈夫の自分の夫にドキドキしてしまう。
テオを床に下ろしたヴィンセントは私にやっぱり手を差し出した。いつものように手を載せるとグイッと引き立たせられて、気がつけば私は抱き寄せられて甘く口づけられていた。
いつもの手の甲への口づけではなかったので、私はドギマギしてじっとヴィンセントを見つめた。ヴィンセントは微笑んで言った。
「エリザベス、今度の週末に湖に行けるように手配させたよ。テオもきっと楽しいはずだ。」
何となく周囲の執事や侍女達が挙動不審になっている気がして、私は何と返事をしたのかも覚えていない。ただ恥ずかしさを紛らわすために抱っこを強請るテオを抱き上げた。
「おかぁちゃま、テオね、おっきな、おっきな…。」
そう言ってヴィンセントの方を真っ直ぐ見上げるテオに、ヴィンセントは優しく頭を撫でて言った。
「テオ、大きな湖に行くんだよ。」
テオはもう一度私に向き直って自信たっぷりにもう一度言った。
「おかぁちゃま、おっきな、みじゅうみ!いく!」
私はクスクス笑ってテオをぎゅっと抱きしめて言った。
「そうね大きな湖行くの、楽しみね?」
前の日からはしゃいでいたテオは、湖への馬車の中ですっかり疲れて私の膝の上で眠ってしまっていた。私はテオの柔らかな黒い巻き毛を摘んで指で伸ばしていた。
「テオの髪はエリザベスと一緒だね。柔らかくって、ふわりとしてカールしている。美しい黒髪だ。私はその髪が好きだよ。」
私はテオの髪を撫でる手を止めて目の前に座るヴィンセントを見つめた。そんな風に言われたのは初めてのような気がする。ヴィンセントは何か変だ。こちらがどうして良いか分からない事をしたり、言ったりするから。
私が戸惑ってじっとヴィンセントを見つめていると、困ったような表情で少し腰を浮かせると私に顔を近づけて囁いた。
「そんな顔で見つめられたら、口づけたくなる…。」
そう言って私の顎を指先で掴んで唇を押し当てた。唇に感じる、すっかり馴染んだヴィンセントの甘い感触は私の瞼を閉じさせた。そんな私の瞼にも優しく唇を押し当てると、やっぱり困った様な顔で微笑んだ。
この馬車に立ち込める甘い空気に、私はどうして良いか分からずに離れていくヴィンセントの唇を見つめていた。
丁度その時に窓から煌めく湖水の反射が見えて、私達はお互いに微笑んだ。テオを起こすと、寝ぼけてグズっていたのは少しだけで、直ぐに目の前の果てのないように見える湖に夢中になった。
「おかぁちゃま、おとぅちゃま!テオ、みじゅうみ!いくのね!?」
私達は側から見れば幸せな家族に見えるだろう。でも今の私は見せかけではない幸せを感じていた。このまま幸せな家族のままでいられます様にと願ってしまったのも無理ないでしょう?
昨日ヴィンセントとの晩餐で研究室の話から、ヴィンセントの優しい言葉に今まで張り詰めていた気持ちが決壊してしまった。今までの困惑や、苦しさ、悔しさ、悲しみ、絶望、全てを吐き出す様に、私は子供の様に泣いてしまった。
自分自身を曝け出して泣いても受け止めてくれる相手がいる安心感と甘えが、今の私には酷く心地良かった。毎晩身体を繋げても必ず朝独りぼっちで目覚める寂しさと痛みを、今朝は感じなかった。
温かな体温に包まれて、嗅ぎ慣れたスパイシーな新緑の林の匂いにぼんやりと顔を上げると、私を見つめる青紫の瞳の中に散る星屑は、テオとは違う場所にあるのだと初めて知った。
それからはそうするのが当たり前のように、お互いの情熱をゆっくりと分け合った。高まった身体は朝と夜の間の柔らかい明るさの中でゆっくり蕩けだした。
燃え尽きて気怠い身体に優しく降りてくるヴィンセントの唇が、なぜかいつまでも終わらなかった。私はそれに癒されて、またうとうとと優しい微睡みに吸い込まれて行った。
気づけばすっかり陽が高くなっていて、私は寝坊とヴィンセントの部屋で目覚めた事の気恥ずかしい気持ちで、筆頭侍女のベルの顔を見られなかった。けれどもベルは相変わらずの嬉しげな様子で私の面倒を見てくれた。
ここに来てから私はずっと甘やかされっぱなしで、あの小さな屋敷で頑張って来た自分が思い出せなくなる気がする。待ちきれない様子で部屋に入って来たテオを膝に乗せてお喋りを聞いていると、執事を従えたヴィンセントが談話室にやって来た。
テオが私の膝からにじり降りてヴィンセントに一生懸命駆け寄っていくと、ヴィンセントが微笑んでテオを抱き上げた。つたない言葉でヴィンセントに伝えようとする姿は側から見ていても微笑ましい物だった。
ふいにヴィンセントが私に目を移して真っ直ぐに見つめるから、私は胸の鼓動を飛び跳ねさせてしまう。結婚してもう2ヶ月ほど経つというのに、未だにいかめしくも美丈夫の自分の夫にドキドキしてしまう。
テオを床に下ろしたヴィンセントは私にやっぱり手を差し出した。いつものように手を載せるとグイッと引き立たせられて、気がつけば私は抱き寄せられて甘く口づけられていた。
いつもの手の甲への口づけではなかったので、私はドギマギしてじっとヴィンセントを見つめた。ヴィンセントは微笑んで言った。
「エリザベス、今度の週末に湖に行けるように手配させたよ。テオもきっと楽しいはずだ。」
何となく周囲の執事や侍女達が挙動不審になっている気がして、私は何と返事をしたのかも覚えていない。ただ恥ずかしさを紛らわすために抱っこを強請るテオを抱き上げた。
「おかぁちゃま、テオね、おっきな、おっきな…。」
そう言ってヴィンセントの方を真っ直ぐ見上げるテオに、ヴィンセントは優しく頭を撫でて言った。
「テオ、大きな湖に行くんだよ。」
テオはもう一度私に向き直って自信たっぷりにもう一度言った。
「おかぁちゃま、おっきな、みじゅうみ!いく!」
私はクスクス笑ってテオをぎゅっと抱きしめて言った。
「そうね大きな湖行くの、楽しみね?」
前の日からはしゃいでいたテオは、湖への馬車の中ですっかり疲れて私の膝の上で眠ってしまっていた。私はテオの柔らかな黒い巻き毛を摘んで指で伸ばしていた。
「テオの髪はエリザベスと一緒だね。柔らかくって、ふわりとしてカールしている。美しい黒髪だ。私はその髪が好きだよ。」
私はテオの髪を撫でる手を止めて目の前に座るヴィンセントを見つめた。そんな風に言われたのは初めてのような気がする。ヴィンセントは何か変だ。こちらがどうして良いか分からない事をしたり、言ったりするから。
私が戸惑ってじっとヴィンセントを見つめていると、困ったような表情で少し腰を浮かせると私に顔を近づけて囁いた。
「そんな顔で見つめられたら、口づけたくなる…。」
そう言って私の顎を指先で掴んで唇を押し当てた。唇に感じる、すっかり馴染んだヴィンセントの甘い感触は私の瞼を閉じさせた。そんな私の瞼にも優しく唇を押し当てると、やっぱり困った様な顔で微笑んだ。
この馬車に立ち込める甘い空気に、私はどうして良いか分からずに離れていくヴィンセントの唇を見つめていた。
丁度その時に窓から煌めく湖水の反射が見えて、私達はお互いに微笑んだ。テオを起こすと、寝ぼけてグズっていたのは少しだけで、直ぐに目の前の果てのないように見える湖に夢中になった。
「おかぁちゃま、おとぅちゃま!テオ、みじゅうみ!いくのね!?」
私達は側から見れば幸せな家族に見えるだろう。でも今の私は見せかけではない幸せを感じていた。このまま幸せな家族のままでいられます様にと願ってしまったのも無理ないでしょう?
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。