伯爵令嬢の秘密の愛し子〜傲慢な王弟は運命の恋に跪く

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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寄せては返す波のように

縮まる距離

朝のひと肌がこんなに癒されるものだとは知らなかった。


昨日ヴィンセントとの晩餐で研究室の話から、ヴィンセントの優しい言葉に今まで張り詰めていた気持ちが決壊してしまった。今までの困惑や、苦しさ、悔しさ、悲しみ、絶望、全てを吐き出す様に、私は子供の様に泣いてしまった。

自分自身を曝け出して泣いても受け止めてくれる相手がいる安心感と甘えが、今の私には酷く心地良かった。毎晩身体を繋げても必ず朝独りぼっちで目覚める寂しさと痛みを、今朝は感じなかった。


温かな体温に包まれて、嗅ぎ慣れたスパイシーな新緑の林の匂いにぼんやりと顔を上げると、私を見つめる青紫の瞳の中に散る星屑は、テオとは違う場所にあるのだと初めて知った。

それからはそうするのが当たり前のように、お互いの情熱をゆっくりと分け合った。高まった身体は朝と夜の間の柔らかい明るさの中でゆっくり蕩けだした。

燃え尽きて気怠い身体に優しく降りてくるヴィンセントの唇が、なぜかいつまでも終わらなかった。私はそれに癒されて、またうとうとと優しい微睡みに吸い込まれて行った。


気づけばすっかり陽が高くなっていて、私は寝坊とヴィンセントの部屋で目覚めた事の気恥ずかしい気持ちで、筆頭侍女のベルの顔を見られなかった。けれどもベルは相変わらずの嬉しげな様子で私の面倒を見てくれた。

ここに来てから私はずっと甘やかされっぱなしで、あの小さな屋敷で頑張って来た自分が思い出せなくなる気がする。待ちきれない様子で部屋に入って来たテオを膝に乗せてお喋りを聞いていると、執事を従えたヴィンセントが談話室にやって来た。


テオが私の膝からにじり降りてヴィンセントに一生懸命駆け寄っていくと、ヴィンセントが微笑んでテオを抱き上げた。つたない言葉でヴィンセントに伝えようとする姿は側から見ていても微笑ましい物だった。

ふいにヴィンセントが私に目を移して真っ直ぐに見つめるから、私は胸の鼓動を飛び跳ねさせてしまう。結婚してもう2ヶ月ほど経つというのに、未だにいかめしくも美丈夫の自分の夫にドキドキしてしまう。


テオを床に下ろしたヴィンセントは私にやっぱり手を差し出した。いつものように手を載せるとグイッと引き立たせられて、気がつけば私は抱き寄せられて甘く口づけられていた。

いつもの手の甲への口づけではなかったので、私はドギマギしてじっとヴィンセントを見つめた。ヴィンセントは微笑んで言った。

「エリザベス、今度の週末に湖に行けるように手配させたよ。テオもきっと楽しいはずだ。」


何となく周囲の執事や侍女達が挙動不審になっている気がして、私は何と返事をしたのかも覚えていない。ただ恥ずかしさを紛らわすために抱っこを強請るテオを抱き上げた。

「おかぁちゃま、テオね、おっきな、おっきな…。」

そう言ってヴィンセントの方を真っ直ぐ見上げるテオに、ヴィンセントは優しく頭を撫でて言った。

「テオ、大きな湖に行くんだよ。」

テオはもう一度私に向き直って自信たっぷりにもう一度言った。

「おかぁちゃま、おっきな、みじゅうみ!いく!」

私はクスクス笑ってテオをぎゅっと抱きしめて言った。

「そうね大きな湖行くの、楽しみね?」




前の日からはしゃいでいたテオは、湖への馬車の中ですっかり疲れて私の膝の上で眠ってしまっていた。私はテオの柔らかな黒い巻き毛を摘んで指で伸ばしていた。

「テオの髪はエリザベスと一緒だね。柔らかくって、ふわりとしてカールしている。美しい黒髪だ。私はその髪が好きだよ。」

私はテオの髪を撫でる手を止めて目の前に座るヴィンセントを見つめた。そんな風に言われたのは初めてのような気がする。ヴィンセントは何か変だ。こちらがどうして良いか分からない事をしたり、言ったりするから。


私が戸惑ってじっとヴィンセントを見つめていると、困ったような表情で少し腰を浮かせると私に顔を近づけて囁いた。

「そんな顔で見つめられたら、口づけたくなる…。」

そう言って私の顎を指先で掴んで唇を押し当てた。唇に感じる、すっかり馴染んだヴィンセントの甘い感触は私の瞼を閉じさせた。そんな私の瞼にも優しく唇を押し当てると、やっぱり困った様な顔で微笑んだ。

この馬車に立ち込める甘い空気に、私はどうして良いか分からずに離れていくヴィンセントの唇を見つめていた。


丁度その時に窓から煌めく湖水の反射が見えて、私達はお互いに微笑んだ。テオを起こすと、寝ぼけてグズっていたのは少しだけで、直ぐに目の前の果てのないように見える湖に夢中になった。

「おかぁちゃま、おとぅちゃま!テオ、みじゅうみ!いくのね!?」

私達は側から見れば幸せな家族に見えるだろう。でも今の私は見せかけではない幸せを感じていた。このまま幸せな家族のままでいられます様にと願ってしまったのも無理ないでしょう?













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