逃げたい官吏と傲慢男、追いかけっこはどちらが勝ちますか?

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
39 / 45
変わる関係

翔海side無邪気な永明

しおりを挟む
従者が休息場を設置してる時から、永明は落ち着かなげにあちらへふらふら、こちらへふらふらと楽しげな表情で仙明境を楽しんでいた。


この仙明境は我黄家の守護石が祀られてある。それゆえにこの先の場所には誰も立ち入る事ができない。年に数回黄家の血筋の濃い者が、守護石に参拝に来るのが習わしになっていた。

だからこの滝壺の場所は仙明黄と呼ばれていて、守護のない者が長時間居ると体調を崩す不思議な場所だ。永明は手首に、仙明境で採れた翡翠で作らせた数珠の守りがあるので大丈夫だろう。


馬車の中でぐっすり眠っていたせいか、元気いっぱいの永明はさっさと履き物を脱いで、肌着物一枚になった。そして裾をたくし上げて腰紐に差し込むと、スタスタと目の前に広がる浅瀬へと楽しげに入って行った。

川面の太陽の日差しが反射して眩しいきらめきが、永明の立てる水飛沫と相まって、まるで一つの絵の様に思えた。しばらくその様子を眺めていたが、永明がすっかり私を忘れてしまっているので、私は永明に習って肌着物一枚になると同様に水辺に足をつけた。


私は黄家の跡取りとして、この様な事は決して許されなかった。子供の頃ここに参拝に来る度に、耳に心地よい川音は楽しめたものの、水辺に近寄ることも許されなかったのだ。

あの子供時代の憧れが、永明の無邪気さで思い出された。私は思いの外冷たく、引っ張られる川の力を楽しんだ。丁度その時に永明が、私を呼ぼうと振り向いて、私が直ぐ側にいた事に驚いた顔をした。


私が側に寄ると、少し顔を顰めて魚が逃げると言った。直ぐ側に魚が群れをなして泳いでいるのが見えた。私があれを採るのか聞くと、用意がないので今日は見るだけだと言う。

色々私が知らない事を、永明は知っている様だった。私は永明が引いてくれた手を握り締めて、この滝壺から分かれて流れる水流の美しさと、胸いっぱい感じる解放感、そして永明の無邪気な笑顔を心に焼き付けた。


ふと、永明の唇の色が悪くなっている事に気づいた私は、自分の足の冷たさに我に返り、永明を引っ張って休息場へ戻った。永明の言う通りに、日差しで暑くなった石の上に足を乗せると、あっという間に体温は戻った。

永明はクスクス笑いながら、私の足に温かくなった足先を押し当てながら言った。


「私たちは、父に連れられて良く川遊びに行ったんです。あの頃だけが私が子供でいられた懐かしい記憶です。私は自分の人生に、こんな幸せな思い出があったって事をすっかり忘れていました。

翔海様、ここに連れてきて下さってありがとう。幸せな記憶を取り戻せました。」

そう言って幸せそうに微笑む永明に、何だか泣きたい気持ちになったのはどうしてなんだろう。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...