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リットン領への旅路

獣人の世界

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僕はトカゲに騎乗して、リットン伯爵と護衛三人、全部で五人の隊列を組んでリットン領へと向かっていた。ウェリントン領からリットン領まではトカゲ騎乗でほぼ一日と言うことで、前日に荷物を乗せたトカゲ車、輪車は既に出立していた。

すっかり初夏の、少し暑いくらいだがまだ風が気持ちいい気候の中、トカゲを走らせるのは楽しかった。僕が初めて乗ったあのトカゲをウェリントン伯爵からリットン伯爵が買い取ったので、僕はすっかり慣れたこの子と意気揚々と走っていた。


ロービン達の出立の前日に僕が彼にキスされたことは未だに謎だけど、アレが僕のファーストキスなのは確かで、『僕のファーストキスは獣人のイケメンに奪われました』なんて、どこのBL…。

結局ロービンも次の日何も言わなかったし、僕もどうして良いか分からなかったからいつも通りに対応して、皆と見送ったんだけど。うん、考えても分かんないや。取り敢えずキスの事は棚上げにして、僕はこの世界での身の振り方を考えるのが最優先だと頭を切り替えた。



ウェリントン伯爵家にいる間に、リットン伯爵が僕のつけ耳を何か魔法的なもので加工してくれたおかげで、ひょんな事で落ちる事は考えなくて済む様になった。

パッチン部分が頭に吸い付く様になったというか…。どうなっているのかは分からなかったけれど、魔法万歳だ。僕の恐れていた自分の毛なし耳自体も、認識障害の魔法によって、よっぽど力の強い魔法を扱う者以外はそこにあっても見えない状態になったらしい。つくづくリットン伯爵って凄い人だ。


伯爵曰く、やっぱり王様以外は人間の様な耳に個人差はあれ、ふわふわの毛が生えているらしい。だから僕のつるりとした耳が見えると他国の王族だと思われるので、トラブルを防ぐためにも認識障害の魔法を掛けることになったんだ。

僕の1番の悩みどころの耳が解決すると、今度は魔法が使えるかどうかだった。文献には人間は魔法を使うと書いてあったらしいけれど、僕にはそれは当てはまらない。どの世界線の人間なんだろう、それって。本当に人間なのかな?

でもこの世界の貴族たちは、簡単な魔法は使いこなすらしい。ロービンがやっていた、チャッピーの首輪の石の認証登録?も、やっぱり魔法だったみたいだ。


僕は伯爵に試しにやってみようと言われて、伯爵の部屋でこっそりレクチャーを受けた。目の前の石に自分を登録するつもりで、指をくっつけて力を入れてご覧と言われた僕は、ダメ元でやってみる事にした。

魔法のない世界から来た身としては厨二病だと言われようが、イメージ力は十分にある。ふふふ、僕らは伊達にアニメで育ってないのだ。


僕は自分を縮小コピーするようなイメージを指先へ集中させた。すると静電気が起きた時の、あのビリって感じが襲ってきて、僕は痛さに思わず指を石から引き剥がした。


隣に居たリットン伯爵が真剣な眼差しで僕が触れた石を検分していた。

「…凄い。こんなに完璧に登録されているのはあまり見たことがない。これだったら半永久的に登録されるだろう。マモルは魔法を使ったことがないという話だったが、潜在能力はかなり高いようだ。

これからの訓練次第ではもっと能力を開花出来るはずだ。」

そう言って、僕に微笑んだんだ。



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