妊娠したのはごめんなさい、でも結婚はしません!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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面談

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 「初めまして、薫様。私は三宅と申します。桐生家の教育係を務めさせて頂いております。」

 目の前に座って居るのは歳の頃は50代半ばの優しげな紳士だった。

 結局結婚式の後、蒼一郎が手を回してくれた仕事を在宅でやっていた薫は、無理のない範囲と言われてもついつい根を詰めてしまう。そうこうしているうちにお腹はますます大きくなって、出産や産後についても考えなくてはいけなくなっていた。


 「間宮家のご家族にはもうお知らせしていらっしゃいますよね。出産後はどちらでお過ごしになるのが薫様にとって宜しいでしょうか。今日は出産に関してお話をお聞きしたいと思ってこちらに伺わせて頂きました。

 蒼一郎様が急な案件で一緒にお話し出来ないのは残念ですが、多分いらっしゃられない方が薫様の本意がお聞きできるかもしれませんね。」

 確かに忙しい蒼一郎があれこれ口を出してくると決まるものも決まらない可能性がある。薫を心配するせいでとかく過保護になりがちなのは、こうなってみると分かる蒼一郎の知らざれざる一面だった。


 寝耳に水だった間宮家の家族は驚きと困惑と喜びが一度に来て、薫から見れば随分と混乱している様子だったけれど、流石に同じ体質の母親だけは直ぐに現実を受け止めて色々なアドバイスをくれた。

 もっとも薫にとってみたら、母親とそんな風に向き合うのは何とも居心地の悪いものだった。

「実家は去年生まれた姉の子供が居て大変ですし、僕は蒼一郎の側に居たいのでこちらで産後も過ごすつもりです。」


 三宅さんはにっこりと笑みを浮かべると、薫に資料の様なものを渡して来た。

「それは桐生家には有難いお話ですね。誠に間宮家は徳の高いお家柄の様です。お子様お二人がこうして子供を持つことが出来るのですからね。

 ここだけの話、桐生家は三人のお子様に恵まれはしましたが、未だお世継ぎは得られていません。ご長男の飛鳥様はご婚約こそしてらっしゃいますが、お相手がまだお若い方なので結婚自体早くて一年後という感じでしょう。

 そんな時にご次男の蒼一郎様にお子様がお生まれになるとお聞きして、私達は随分と喜びを感じました。薫様のお手伝いが出来ればと考えておりますので、どうぞよろしくお願いします。」


 無駄の無いそつのなさに、プロ意識を感じる。この人達に育てられて、蒼一郎はあの様な有能な男になったのだとすれば、実績は十分な気もした。けれども一方で、日に日に身体に息づくお腹の中の赤ん坊の存在感は、薫に以前とは違う考えを生じさせ始めていた。

「三宅さん、ありがとうございます。ご存知の様に元々僕にも覚悟があって身籠った訳では無いので、毎日少しずつ実感が湧いてきている様な状況です。だから協力してくださると仰って頂き、心強いです。

 実際産まれてみないと僕にもどう感じるかは分かりませんが、少なくとも今の蒼一郎の仕事ぶりでは、赤ん坊と触れる時間などない気がします。それは僕にとってもあまり良くないんじゃないかなと思うんですが…。」


 お腹が大きくなるにつれて、蒼一郎の仕事の忙しさはますます酷くなっていた。連絡こそこまめにくれるけれど、広いマンションでポツンとリモートの軽い仕事をこなしている薫にとっては、寂しさが募ってくる。

 元々一人で自由に過ごす方が好きだった筈なのに、すっかり蒼一郎に甘やかされたせいで女々しさが生じている自分に酷く落ち込んでしまう。

 気落ちした表情を浮かべていたのだろう。三宅さんは微笑んでソファから立ち上がった。


 「…新しくカフェインレスコーヒーでも淹れましょう。コーヒーは私の得意とする所ですよ。」

 元々薫は明確に計画を立てて遂行する方だった。幼い頃から護身術を嗜んでいるせいもあるかもしれない。ハッキリしない事は性に合わないし、自分の力で人生を押し広げていく様な考えがある。

 けれどもこの妊娠に関して言えば、自分だけでどうにかなるものでは無いのは明白だった。今は兎も角、産まれてしまえば動きの悪くなった自分と、手が掛かる赤ん坊が独立して存在する事になる。

 どう考えても自分の手に余るし、計画通りとは反対の生活になりそうだった。


 「私が見たところ、蒼一郎様は何かお考えがあって仕事を詰め込んでいる様に思われますよ。蒼一郎様は昔から三兄弟の中でも一歩皆から引いた位置から傍観しているような雰囲気がお有りでした。

 最近薫様の件で少しお会いした時は、随分とあの頃と印象が変わったように思いました。何というか、ずっと温かみを増したご様子でしたね。薫様とご結婚なされたからでしょう。」


 蒼一郎を子供の頃から知る三宅さんから昔の蒼一郎の話を聞くのは面白い。薫はクスリと笑みを浮かべて差し出されたコーヒーを手に取った。カフェインレスは物足りない気がしていたけれど、三宅さんの淹れるコーヒーは普通のものよりずっと美味しい。

「…美味しいです。蒼一郎の子供時代の話を聞くのは楽しいですね。確かに蒼一郎がここに居たら余計な事を言われないように三宅さんに口止めしそうです。

 蒼一郎のご兄弟は顔合わせしたくらいですけど、随分皆さん個性が違う印象を受けました。」


 「ええ。確かにそうです。蒼一郎様と三歳違いの兄の飛鳥様は、昔からとても社交的な方でした。時には激しいと言えるほど、強い印象を他人に与えます。それはある意味桐生家の後継者としては望ましい在るべき姿です。」

 薫は顔合わせした時の、蒼一郎とは別の意味で印象が強かった蒼一郎の兄を思い浮かべた。派手な印象は蒼一郎とは違う大きめの人好きする垂れ目からも生じていたかもしれない。

「…蒼一郎はお父上に似てますね。」

「ええ。お姿で言えば一番似てらっしゃるのは蒼一郎様でしょう。でも性格は飛鳥様がまるで生まれ変わりのように旦那様に似てらっしゃいますよ。そのせいで衝突も多いですけど。」


 あの周囲に影響が有りそうな人物が二人も存在する桐生家は、何だかゾッとすると思った自分に薫は内心苦笑してしまった。

「蒼一郎様の弟である雅様は年も離れてお生まれになったという事もあって、ある意味お二人とは違う生き方をなされています。あの方には桐生という名前の重さはあまり関係ないかもしれません。

 蒼一郎様とは昔から仲が宜しいのですよ。」

 肩までの長い髪の明るい眼差しの青年を思い浮かべた。モデルのような華やかな出立ちながら、美大に通っているというだけあって兄二人とは雰囲気が違って見えた。


 薫は残りのコーヒーを飲み干すと、顔を上げて微笑んだ。

「蒼一郎が弟さんと仲が良いと聞いて嬉しいです。蒼一郎はところどころ人間味に欠ける所があるでしょう?一緒に仕事をしていた僕にはそんな割り切った所も頼もしい部分でしたけど、少なくとも桐生家のような名家で家族と情の通った関係があったと聞いてホッとしました。」

 三宅さんはにっこりと微笑むと、頷きながら言葉を続けた。

「蒼一郎様の理解者が薫様のような方で、本当に幸いでした。蒼一郎様はあまり感情を他人に気取らせない方ですけど、薫様と一緒に居る蒼一郎様からはずっと肩の力が抜けている印象を受けますからね。…薫様、これからも蒼一郎様を宜しくお願いします。」


 蒼一郎の親代わりのような三宅さんにそんな風に言われて、薫は恥ずかしくなったものの嬉しくなった。確かに蒼一郎は冷徹なやり手の若き起業家だ。桐生家とは離れた自分で立ち上げた会社で着々と成功を積み上げている。

 その裏には誰よりも仕事に邁進している蒼一郎の姿がある。それは尊敬出来る一方で、身近に居る自分には心配な面でもある。蒼一郎は働きすぎなのだ。

「僕はただ蒼一郎の身体の事が心配なんです。…でも、そうですね。蒼一郎とちゃんと話をしてみます。子供が産まれるんですから、蒼一郎も今の状況を続けられないのは理解してると思いますから。」

「ええ。蒼一郎様も薫様のお言葉には耳を傾けられるでしょう。蒼一郎様は薫様を心から愛してらっしゃいますから。」





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