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取り憑かれた友人

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俺は隣を歩く、色白の茶道でもやっていそうな青年をチラ見すると、密かにため息をついた。本当に連れてきて良かったのだろうか。もう今更後悔しても遅いのだけれど。今日は俺の受けているゼミの公開講義があるので、都合が良いと連れてきたんだ。

「…ほら、あれ。分かるか?」

俺は周囲に気づかれない様に、まだ講義前のざわついている階段教室で、隣の男、真己に対象となる男子学生を指し示した。さっきから表情ひとつ変えなかった真己は、口元を微かに綻ばせてささやいた。

「ふふ、なかなか上物が憑いてる。あれで良く動けるね。感心するよ。よっぽど図太いのか、鈍感か。」

俺は何気にディスられてる友人が、案外その通りだったので苦笑して言った。


「で?どうやって祓う?」

切長の目を細めた真己は、俺を馬鹿にした様な顔で言った。

「前に説明しただろ?取り憑くには理由がある。それを解きほぐさないと、祓えないし、旨くない。」

俺は肩をすくめた。親切そうな物言いだけど、結局この男は美食家なんだ。美味しく食べたいからと手間を惜しまない。俺としてはさっさと食ってもらって、解決して欲しいだけなのに。

とは言え、この男の機嫌を損ねては、友人に取り憑く何か良くないものを祓うことが出来ない。俺は諦めてスマホを出すと、教室の反対側に居る友人にメッセージを送った。

友人は手元のスマホを見ると、キョロキョロと俺を探していたので手を振ると、手を振りかえしてOKスタンプを送り返してきた。


「この講義が終わったら、カフェで会う事になった。」

真己はニヤリと笑うとおもむろに立ち上がって言った。

「僕、ちょっとそこまでオヤツ食べに行ってくるよ。一刻ぐらい?」

俺は指を3本立てた。真己は長いなと呟きながら、迷いなく教室を出て行ってしまった。公開講義なので授業を取ってる学生以外も出入りしているけれど、真己は雰囲気が独特なので妙に目立つ。俺は学生たちの、今の誰?と囁き合う、ざわめきを感じながら、誰とも目を合わさない様にパソコンを立ち上げた。



約束のカフェには、教室から友人の光一と連れ立ってむかった。

「今日、俺の従兄弟を大学見学に連れてきたんだけど、一緒でも良いかな?ちょっと変わった子だけど、親に頼まれててさ。」

俺がそう言うと、光一は背中に重い影を背負いながら、人の良さそうな顔に笑顔を浮かべて全然大丈夫だと言った。
…さて、これからだぞ。
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